145, ダンジョンで、……攻略は、二十三階へ ⑦
「ただいま!」
と、いう言葉とともにくずおれたものが、…ものたちがおりました。
障壁の維持に全開だったシュッキンと風の民たち。
置いていったゴーレムボックスは、残存の魔力をあと一日分だけ残していました。
どんだけ、消費したんでしょう?
とは言うものの、探索に出た俺たちの感覚ではほぼ一日だったので、彼らの様子から逆算してみると、この障壁付近では一週間くらいの時間が経過しているようでした。
やはり情報圧力の違いから来ているようです。
もし、あのまま進んでいたら、思いっきり後悔する事になっていたようです。
本当に浦島太郎のように……後悔してもしきれません……orz
向こうに行ったものとしての話と、こちらに残った者たちとの話を摺り合わせていくなかで、いくつか気になった事がありました。
あの場所へ向かう事で時間が止まっていくという話になった時に、俺との時間の差を気にし始めていた人たちが非常な強さで食いついてくるのには、参りました。
アトリを筆頭にコヨミ、リウス、リメラの4人。
俺との年の差を気にしていたようです。
「行くのは構わないけど、既に封印は解けてしまっているからそれほど顕著な現象は起きないですよ。」
そういう俺の言葉にもなぜか抵抗を見せる人たち。
ばかですねぇ、そんな年の差で区別する訳ないでしょうに。
俺には、前の時に初老まで生きた記憶が有るというのに………。
女性は女性という事なんですかねぇ。
それはともかく、障壁の一部を肩代わりして、シュッキンと風の民たちに十分な休息を取って貰わなくては。
「シュッキン、久し振りの飯だがなにかリクエストはあるか?」
まずは明日からの作戦を無事に遂行していくためにもその中心的な役割を担ってもらう人物が完全復活する事が、絶対に必要不可欠だからな。
だから、いま彼が食べたい物があれば都合を付けようという話だ。
とはいえ、その時は想像もしていなかった物を頼まれてしまった。
後の祭りとはこれ如何に……。
彼はしばらく悩んだあとにポツリと一言。
「老師……、老師のお作りになった餃子が食べたいです……。」
という言葉を聞いて、「えっ?」という顔をしたのはシノブさん。
「やったぁ!」と声を上げたのはユージュ。
「セトラの餃子って、あのギョウザ?」
確認してくるシノブさんに俺は頷くのみ。
「そう、大祖母のギョウザ。アレに慣れちゃっていたから他のギョウザは、あまり…ね。レシピはまだ覚えているから、まぁ……作ろうか?」
ユージュが喜んでいるのは、前の時には、たまに作っていたからだ。
シュッキンが知っているのは、ヒリュキがギョウザパーティーなんぞを連邦主席の会席で催していたためだ。
初代とのフェアウェルパーティーに呼び出された俺は、大祖母直伝のギョウザを好んでいたシャイナーにサプライズで渡した事がある。
呼び出される前にユージュとさんざっぱら食い散らかしたあとだけに、それほどの個数は残っていなかったのだが、シャイナーのためとヒリュキに言われて持っていったその場で、炊きあがっていた白米とともに調理して大皿に盛って出した。
シュッキンはその場で、白米とギョウザを一緒に食べるのは邪道だと、言い放ったものだ。
今となっては懐かしい言動ではあるがな。
「一家言あるのは承知している。だが、郷に入らば郷に従えという格言もある。食わず嫌いしないで、一度、俺たちがやっているように食べてみれば新しい道を開けるかもしれんぞ。」
ニッポン州ではずっと口内調理という食事の仕方が伝わっており、カレーライスなどもいまだに生き残っていた。
俺たちが食事の際に饗する味噌汁なども、その一例だ。
その時、彼が目にしたのは一口ギョウザよりは大きいものの焼きギョウザなどとは二回りくらいは小さいものだった。
事前に軽く焼いておいたものを、白湯で軽く煮て湯切りをして、大皿に盛ったものだ。
その調理法を見て、シュッキンの目が点になっていたのは言うまでもない。
水餃子でもなく、焼き餃子でもなく、ワンタンでもない。
なんとも不思議な餃子と思ったようだ。
醤油、酢、ラー油のタレにつけて、白米にワンクッションさせて食べるのだから、不思議な餃子でいいんだとは思う。
そして、なぜか、彼はハマった。
それからだ、俺を「老師」と呼び始めたのは。
「ゴーレム鉄板も出しておいたから、自分たちの好きな物を食ってくれ。餃子は各種取り揃えておいたし、餃子にはニンニクは入っていない。大祖母の餃子のレシピにニンニクは厳禁なんだ。それじゃ、飯にしようか……。ああ、ドロシーたちも好きに食べていいからな。」
情報圧縮が解けて、ごく普通のドラゴンと男性が一人佇んでいたのだが、ひとまず飯食ってからでいいだろう?
「では、いただきます!」
大合唱でした。
いろんな餃子があるんですねぇ。餃子、大好きです。