141, ダンジョンで、……攻略は、二十三階へ ③
彼女と一匹の騎竜兵のコンビは、目の前にいる存在から目が離せないでいた。
何か非常に彼女たちに近しい存在のようで、凄く気になっていたようである。
そして、自然と口の端から声が漏れ出る。
「父さま……。」『母さん……。』
驚きとともに彼らと一緒に前の世界の者たち……骨ドラゴン…を見上げた。
「まさか………、あれが本当にあった事だったなんて……。」
そんな言葉を女性陣の中の誰かが紡いだ時、こちらを敵と認識した骨格標本のドラゴンがその頭骨の眼窩に点した紅い炎を激しくした。
と、同時にドラゴンの威嚇が放たれる。
『クアァァァァ!』
そして、轟くブレス。
それは、界を隔てる障壁の中にあっても、その威嚇に体の自由を奪われる者たちが出るくらいの激しいものだった。
このまま、障壁から出て行く事は瞬殺を意味していた。
「この場所はまだ、ダンジョンの中とは言わないだろう。シュッキン、障壁の展開よろしく、何をリクエストする?」
シュッキンへの指示とともに、さっき言葉を発した者を探す。
女性陣の方に目をやると、ドラゴンの威嚇をモロに受けたのか何人もが固まって震えていた。その中でも、威嚇の中心に捉われていたのは……。
イクヨか? イクヨがレイにしがみついていた。
「大丈夫か? イクヨ。レイ、何があったか分かるか?」
そう問い掛けるが、二人とも焦点が合っていない。仕方ない、ショック療法をするしかないか……。
ひとまず、従魔たちの食事からかな?
「ギン……『何かな?あるじ殿』、……ドラゴンたちよ、取って来~い!」
という、呼び掛けとともに障壁の向こう側へと、層庫から取り出した福焼きをぶちまけました。それも、骨ドラゴンの鼻先を掠めて地面に落ちると、跳ねまくり状態に。
もちろんドラゴンたちの好物のハチミツ入りです。それも極上の。
彼らの敏感な鼻は、その存在を知覚し、その跳ねまくり状態はパレットリア新国でのイベントを想起させ、ハッキリ言って骨ドラゴンを含めて無我夢中で追い掛けまくっていました。もちろん、テイリュウも。
「ああ、テイリュウ……。」
と、溜息交じりに見つめているドロシーの目は可愛いテイリュウに釘付けです。
では第二弾。と、ばかりに竜頭を取り出すと、狼たちの目がギラリと輝く。
銀狼のワッケィンも同じくギラリ。
ま、本能が強いという事で妥協しましょう。
「取って来~い!」
と、竜頭をアチコチにかっ飛ばしました。追い掛ける狼君たち。骨ドラゴンは、すでにドラゴンたちの乱舞と狼君たちの疾走に、右往左往していました。
「さて、こっちは、これだぁ!」
と、気合いを入れて出したのは、前の時の俺たちのスペシャルフード!
「カレーライス、美味っ!」
と、自分だけよそって食べていました。ついでに揚げたてのカツを載せて、カツカレーに。その匂いに釣られて、三々五々と集まってきてはゴーレムハウスの腕のテーブルと椅子で仲間たちの食事が始まりました。
ひとまず満腹になりましょうや。
……ね。
ドラゴンたちはそれぞれが一個ずつ福焼きをゲットして齧り付いていますし、狼たちはそれなりに腹に収めて、満足げに俺たちの足元で寛いでいます。
俺たちはカレーライスで自分たちなりに完成させて満腹になり、食後の休憩を取っておりました。
デザートはアイスクリーム、ウェハースの匙で掬って食べております。
「はぁ、満腹で満足。さて、落ち着いたか? イクヨ。アレが本当の事だったって言うのは、どういう事なのかな?」
「うん、落ち着いた………でも凄いね、セトラくん……。」
障壁の外を見やるイクヨが、感嘆の声を漏らす。
そこには、驚きの光景が………。
威嚇していたはずの骨ドラゴンさまと骨父さまのお二方が、福焼きに齧り付いてはお互いに話しかけ、竜頭を骨ドラゴンにあげている様子は、微笑ましいものでした。
その外観を除けば………ですが、ね。
「ク・ビッシの図書館にある古書の中に『チヅるるるン探訪記』というのがあるの。この星に降り立って冒険したって言う人の日記みたいなもの。その中に記述があるの。一昼夜で消えた大陸の話。その消え方はまるで空間に折り畳まれていくようだったって書いてあるの。第二のムーの消失という題名の中の記述。彼女はそこに行った事があるって書いてあったの。中心地にある国には骨だけのドラゴンがいるって……。」
イクヨが思い出しながら言う。
と、そのとき。テイリュウの様子を見ていたドロシーが
「父の残した日記帳の中に、かつて金色に光る扉からの来訪者が私の家に来て、しばらく生活していたって、書いてありますわ。」
と答えた事で、辺りは騒然とし始めた。
時間差に気付いた者が居るようだ。
そして、俺はある言葉から推測してみて、気付いた事をシュッキンに確認した。
「シュッキン、この結界の魔法陣の主文の構築に古代文字を使用しているとみていいか?」
「はい、老師。超古代文字もしくは古代文字を使用しているとみて間違いないでしょう。」
かつて、前の時にその二つを含む言語学の権威でもあった彼に太鼓判を押されたのがいい事なのか、悪い事なのかは、いまだ不明ではある。
「第二のムーの消失か……。」