139, ダンジョンで、……攻略は、二十三階へ ①
「手鏡を貸してくれ」
そう言葉を発したのはサッツシ。
妙に赤い顔をしているが熱でもあるのか? こいつ。って熱っ?!
「その赤い顔……、もしかして、風土病でもあるのか? この国に!」
「有る訳無いでしょう?あんたん所と一緒の気候よ!」
そう言った途端にあごを打ち抜かれました。見事なアッパーだミレリー……。
「…バカセトラ。爺さんにも言われたのだけど、世継ぎの件があって…だな、その……。」
ああ、そう言えば、コヨミたちもオババに聞いていましたもんね。
「ああ、そういうこと。新婚旅行なんだね。」
そう言うか言わないかのうちに左右から拳が打ち込まれました。サッツシとミレリーの初の共同作業でした。
「お前はどうして、そう余計な事を言うかな……。」
俺が言うのもなんだけど、今の幸せそうなサッツシくん、弄るの楽しいし。
「ミレリー女帝とサッツシ王におかれましては、今後も長く平安な間柄でお付き合いをさせて頂きたく、この大陸における安全保障と人事交流を主観とした国家間の相互認証及び「やめー」……。なんだよ? いいところだったのに。」
「セトラにそんなモノ聞かされるくらいなら、俺が全部承認してやる。」
サッツシが俺の堅苦しい言葉に嫌気が差したらしい。こっちだって、無理して話していたけどね。
「ねぇ、セトラくん頼みがあるんだけれど?」
ミレリーが、真っ赤な顔でモジモジと話しかけてくる。この話し方はハッキリ言って破壊力抜群でした。
「セトラく…ん? 何故に?」
「「「「「セトラくん(さま)、どういう事かしら?」」」」」
「サッツシもアトリたちも、どうどう…、ほら落ち着いて…。」
サッツシが唸る。俺は、むぅとするサッツシと、奥さんズをなだめながら、ミレリーにその頼みを聞いてみる。
「頼みって、何かな? ユキィク・オノミさん?」
そう聞いた時、周囲に広がったのは驚きの波。おまいら気付いていなかったンか…?
あれだけ関係者って言っていただろうに……。
「「「「「「ええっ、ユキィクなの?」」」」」」
女子連中から上がる声に俺としては、ひどく脱力しました。
ひとしきり前の時の話にそれぞれが盛り上がっており、そのうちに飛行小隊ドグラスの話に。三角関係がどうの、飛行小隊隊長の葬式がどうの、当時のヒロインがどうのと、溜まっている話がそれこそ盛り沢山に。
と、そこでユキィクもといミレリー女帝が何やら思い出したらしく、俺に振り向くと爆弾発言が………orz
「このゴーレムハウスの腕なんだけど……。」
と、言い淀むミレリーに女性陣がハッとした顔をして先ほど組み終えてプレゼントしたゴーレムハウスを見上げている。そして、何かに気づいたようでは…あった。
「ああ、取り換えたいという事かな?」
そう、俺も飛ばす拳とかも考えてはいたのだが、形状を変えるとまでは………。
「本当は細部まで作り込んで欲しいところなのだけど、サッツシが………。」
そう言って隣にいるサッツシをちょっと睨んでいるミレリーになんか独特の色気が漂っておりました。女性陣の方からはヒューヒューと冷やかされておりましたが、ね。
「まぁ、細部まで出来ない訳でもないけど、他の国々からの問い合わせがあった場合、レディアン皇国の持ち出し分になりかねませんよ? 細部に関してのデザインはこちらでやって貰う事になります。ゴーレムハウスを造っているのは俺らでも、そこまでの手が余分に有る訳でもないので。ちなみに、サッツシを頼ろうとする手も有りますが、彼にも負債が有りますから……。サッツシ、どうする? こちらでの製作なら、ミレリーと一緒の場所で出来るぞ? ただし、負債は残ったままだし、『おやつポイント』の加算も出来ない。『おやつポイント』の加算はゴーレムハウスを造るから可能なのだし…「両方やる!」…。」
面倒いので、俺がそう言いつのるのを遮ったのはサッツシでした。
「は……………。両方ですかい? どうやって?」
騒ぎつつあった女性陣たちと立場を失いかけていたミレリーも、そして俺も絶句しました。どうするつもりなんでしょう?
「何年ローンでもいい。こことパレットリアの間に迷宮の扉を付けてはくれないか?」
との言葉にその手が有ったかと納得しつつもサッツシの負担はハンパないよ?
そこまでするのか、こいつ? と、驚嘆していたら追加の要請がありました。
「パレットリアの旧城とリンクできないか? 資材の供給の手段も取り付けておきたい。出来るだろう? ここの旧城との登録料代わりになるはずだ。登録済みの分としてな。」
サッツシが何処でその情報を手にしたのかは聞かないでおこう。
「了解したよ。サッツシには参ったな。いいのか第二工場並みの忙しさになるかもしれないぞ。まぁ、その程度に寄れば『ポイント』も貯められるかもしれないな。」
サッツシの言う資材の確保とは、ゴーレムハウスの下請けを考えているという事なのだろう。運ぶのは自動歩行システムの確認試験を兼ねて迷宮の扉から進めばいい。あの扉には、サイズの大きさなど関係ない機能が付与されているのだから。
「ここの旧城で、契約するとするか。詳細を詰めるとしよう。ドア・モーン、ここに扉を創ってくれ。出口はパレットリア近くのダンジョンだ。座標は分かるな。何をリクエストする?」
俺も腹をくくった。
「よろしく頼む。」
サッツシも笑顔になった。
この日、ゴーレムハウスの第二工場が初めてレディアン皇国に設置され、下請けと細部の修整という役目を担う事になった。
『ドア・モーン、指令を了解しました。担当を選出、マク・モーン。リクエストはホットケーキ十五枚です。』
『分かった。サイズは五〇セチでいいか?』
『………ハイ。』
そんなこんなでパレットリアへの扉、開口!
さて、初めての依頼はミレリーから。
『海洋に面している国家である事を主張したいという事で、自国のゴーレムハウスの腕の修整を依頼する。』
サッツシが応えたその修整は、右腕に破城鎚の形、左腕が平べったい盾の形の船を模していた。背中にウォータースライダーが付属していた。って、そこ腕じゃねーし!
とはいえ、ウォータースライダーか………………、有りだな。
「初期型か………orz」
そう感想を漏らして、次の階へと俺たちは進む。魔王のダンジョン……じゃなかった、学院のダンジョンも残りわずか。気合いを入れ直して進むとしますか。
追伸、作業の依頼があったらサッツシは戻るという事で、次の階の探索にも同行しています。ミレリーは残りました、しばらくは遠距離? 恋愛のようです。オババの助言から決めたようですなぁ………。
ダンジョンの扉を潜り出た場所は、見知らぬ大陸で障壁の向こうにはとんでもないモノが浮かんでいました。
骨の骨格標本のようなドラゴンでした。なんじゃ、ありゃ?
飛んでいるという事は、風を魔法で使役しているという事。ただし、自らの意思で飛んでいるという訳でも無さそうな様子。と、隣に歩み出て来たギンの様子がおかしい。
『あるじ殿、テイリュウを召喚して欲しい。』