障壁踏破の儀~サッツシ編
セトラの挑発に乗って手形の台に手を置いてしまった時、実は後悔していた。
緑色に光ったその台に何となく見覚えがあった気がしたからだ。
ほら、よくあるだろう? どっかで見たような場所やものだったり、俺にはその緑の光がそれだったようだ。
宇宙空間を飛び回っているような感覚だったり、レーザー銃というものを撃ち合っているような感じだったり、映像とかでは無くて、実際にその場にいるような感じの………。
言葉にするのが難しいな……。そして、誰かを探している事だけは切実に思っているらしい事。そんなに恋しいツレがいたとは思えないんだけどな、俺は。
そんな取り留めの無い事を感じながら緑の光の中を歩いて行く俺は、どんな障壁がこの城を覆っているのかをまだ感じられないでいた。
何度目かの角を曲がった時、不意に頭の中に声が聞こえたような気がした。
『お前は何を望むのか』と、そういったような感じの声だと思う。
その時はセトラのイタズラかと思っていたから、ウケを取る形もあったけど、ある意味本音を告げた。
「俺は、ミレリーがいれば良い。」って。
『ふふ……、合格ですね、あなたたち二人なら、わたしはまたマスターに会えるはずです。終点です。扉をお開けください。やはり、あの方の見立ては素晴らしい。』
「え?」
なんか不穏な事を言っていなかったか? マスターに会える? 終点?
そして、誰かの見立て?
そんな数々の言葉の断片に、戸惑っているうちに目の前に不意に出て来た扉を開けた。
小高い山の中ほどに立つこの城は旧城と呼ばれ眼下に城下町や新しい城を見下ろしている光景であった。
その光景に圧倒された。
そして本人も驚いたのだが、不意に旧城と呼ばれた城の最頂部にある鳴らずの鐘が突如として鳴り響いた。えも言われぬ美しい音色が眼下へと流れていった。
長い歴史を持つ皇国の施政状態の中で初めて流れた音色と、旧城自体の輝きが増す事で、新しい盟主の誕生を謳っていた。
旧城のテラスにいる呆然とした男の姿に人々は湧いた。
自分たちでは無かったが、ずっと言われてきたワタル・ミズノの遺言は広く伝わっているために、これからの皇国に期待を持つ者も多かったのである。
「あの伝説の中に俺が居るのか?」
呆然と呟くサッツシに、背後から声が掛かる。
「『王の横に皇帝がいる』状態ね。あなたのお陰よ、スクーワトルアとパレットリアの旧城とのスクーリンの設定が繋がったわ。詳しくは、セトラが教えてくれたの。」
艶然と微笑むミレリーの姿に圧倒されたサッツシは、彼女の抱擁と接吻を受け入れてしまった。
輝く城のテラスにミレリー女帝が現れ、感激のままに抱擁しキスをする姿は、驚きとともに受け入れられた。国民たちが手を振り上げて喝采を送っていた。
この日、レディアン皇国は、レディアン皇国に変わった。