騎竜の異変
わたしはこの大陸の王国シュリンガで竜騎兵をしている。女だてらにとはよく言われたものだが、幼い時からわたしの家には竜がいた。いや、わたしの住んでいた家の騎竜小屋に卵が産み落とされていたからだ。母竜は父の騎竜をしていた。
そう、していたのだ。
卵を産み落とし、父とともに戦いの激しくなっていた最前線へと赴き……そして、ともに帰らなかった。
わたしの魔力を卵の中の竜に捧げ、今では双方の意思を一つにする事さえ出来るようになっていた。
ある日、それが途切れるまでは、わたしたちは一心同体だとさえ思っていたのだ。
わたし、シュリンガ王国竜騎兵団の小隊長を務めているドロシア・レイル・フェバックと申す者。十五歳で、今年成人した。
騎竜は一緒に育ってきた母竜と父の名から一文字ずつ貰ったテイリュウ。彼女も十五歳だ。やんちゃな盛りではある、お互いに。
だが、わたしたちの成人とともにあの時の侵略者が再び現れたのだ。
シュリンダイ帝国………、強大な軍事国家でこのグリンダイ大陸中央に領土を持つ国である。
この大陸での覇者というのは騎竜を持つ国なのである。
ただし、生きているものも生きていないものも全ての竜たちを竜騎兵に仕立て上げてしまう。そのための秘術を持ち、それを子々孫々に伝えていく一族が、一国を牛耳っているのである。
それがシュリンダイ帝国。
その帝国がこの十五年近くもの間、力を溜めていたのか、それとも魔術の術式の解読に時間を掛けていたのかは分からない。だが、より一層の力を付けて、グリンダイ大陸に覇を唱えようとしている事だけは間違いない。
そして、私はある日、騎竜を失った。
いや、わたしだけでは無い。シュリンガ王国の全ての騎竜兵が騎竜を失った。
シュリンダイ帝国の騎竜もいなくなった。だが、彼らには、生きていない竜を制する術があった。
蹂躙に近い形で、シュリンガ王国を含む小国がシュリンダイ帝国の征服に遭ったのだ。
あれから二年が過ぎた。
わたしは傭兵として、海を渡り、生き延びている。
いや、再び、巡り会うために彷徨っているという方が正しいのか?
あの出来事がわたしの全てを変えた。
その意味が知りたかったのだ。
冒険者ギルドへ行った時、妙な情報があった。
ドラゴンスレイヤーの称号が出ないという事を……。
そして、パレットリア新国という国の週末に行われる行事で、わたしは再会してしまった。あの時とは、見違えるくらいに力を増し、成長したテイリュウを。
………可愛らしい姿のテイリュウを。
もう二度と見る事の無いあの小さな小さな幼い頃のテイリュウの姿がそこにあった。
『ああ、久し振りだな? また契約すっか?』
その惚けた話し方は、つい、テイリュウらしいと、思わせた。
シュリンガ王国の事もシュリンダイ帝国の事もそこには何も無かった。
「ああ、契約してくれるか? テイリュウ………」
そう言いながら、わたしはその可愛らしい竜にメロメロだった。
いつの日か、戻る事もあるかも知れないが、今はまだいい。
テイリュウが一緒なら何処にでも行くさ!
今はパレットリア新国が、わたしたちの国だ。なぁ、テイリュウ。