136, ダンジョンで、……攻略は、二十二階へ ⑬
「はぁ~勝てたようじゃのぅ。『おやつポイント』とやら、ゲットできておるのかのぅ?」
ミレリー女帝のなんか切実な想いが、その場の彼らの一致した思いであったかも知れない。と、そこで爺やもとい、A・ジーイ・ウッスが思い出したようにミレリー女帝に問い掛ける。
「しかし、あの者が言うておった『登録』というのは何のことだったのでしょうかな?」
「それはわらわも気になっておる。しかし、障壁は解けておらぬし、いまだに誰もあの中に入った事は無いのじゃから……。このままでは、また、後継者を決める障壁踏破の儀をしなければならぬな。始祖ワタル・ミズノの遺言じゃし、『障壁を抜け、最上階にいたる者こそ、我が王位継ぐ者なり』のぅ。」
レディアン皇国の国民たちに伝わるそれは、いまだ真の王が現れていない事を明確にしていたからだ。『王が顕れし時、皇帝が隣に立つ。』とも、伝えられている。
「だが、セトラ君はパレットリアとスクーワトルアには登録したって言っていた………。何か方法があるのかも……。」
ミレリーの猫が脱げやすくなっているようだ。今も素で口に出していたからな。
「ミレリー、猫が脱げてる!」
そう言って、ミレリーに声を掛けるのはサッツシ。
「あ、サッツシ、戻ってきたのか? あやつは、あやつはどうしたっ………。」
女帝の間に帰って来たサッツシに慌てて駆け寄るミレリーは、一国の女帝と言うよりは恋人同士に見えるな。そう、あながち嘘でも無さそうな状況を見て、俺は悟ってしまった。
ミレリーを見て、ニマッとしてやると、俺と目のあったミレリーは顔を赤くしまくって沈没していた。
「ううっ………orz」
それを見て慌てるのはサッツシで、彼もまた、俺の顔を見て沈没していた。
「ミレリー女帝、サッツシにはちょっと来て貰いたい所があるんだけど、いいかな?」
俺がにこやかに迫ると、どちらも青くなって頷いていた。
「ここは?」
と、サッツシが問うと、そばに従うミレリーが答える。
「なんじゃ、知らぬのか? ここはレディアン皇国の『障壁踏破の儀』で使う旧城。と、わらわたちが言うておる場所じゃ。わらわもここで旧城に入る前の障壁までを通過して王位では無く帝位を頂いたのだ。参加資格は、この国で生まれた者と、この国の血筋を身に持つ者となっておる。ゆえに、『障壁踏破の儀』には、遠く離れた街などからやってくる者も多い。ほら、そこの手形のある台に手を乗せ緑に光れば、挑戦者として『障壁踏破の儀』に臨む事が出来る。」
立て板に水のごとく滔々と述べるミレリーに、サッツシは感心していた。
よく、そんな歴史の裏知識を詳しく言えるものだなと。
「む……、何か失礼な事を考えてはおらぬか?」
「めめめめめ滅相も無い。」
「サッツシは呆れているだけだよ、ミレリー。」
「「セトラ!」」
バカップルは置いといて、本題に入るとするかな。
「サッツシ、そこに手を置けよ。」
「「え?」」
「え? じゃねーよ。その『障壁踏破の儀』に挑戦しろって言っているんだよ。」
そういった俺の言葉に二人とも凍っている。
「俺はこの国の生まれじゃねーぞ。父ちゃんや母ちゃんですら違うし、ハッキリ言えば、この大陸の生まれじゃねぇ!」
あ、このバカ、自分でカミングアウトしやがった。
そういうことじゃ無いんだけどな。
「いいから、やれってーの。ミレリーの挙動がおかしくなっているぞ?」
俺の言葉にサッツシがミレリーを見ると、何かブツブツ言っていました。
「サッツシがこの大陸の生まれじゃ無かったって、どこから来たの……。それなのに、『障壁踏破の儀』をするの? なんで……。サッツシが………。」
ミレリーにとってはショックが大きかったのか、壊れたレコードプレイヤーのように同じ言葉を繰り返していました。
「ミレリー………orz セトラ、恨むぞ。」
「俺は手を乗せろって言っただけだよ、口走ったのはサッツシだろう?」
「………、分かったよ。やってやる!」
ミレリーのその言葉の繰り返しに、サッツシ自身もしまったと思ったのか、手形の台に自分の手のひらを叩き付けました。
一瞬の間を置いて、台は緑に輝いた。挑戦権獲得です。
「ミレリー、行けるとこまで行ってくる。待っててくれ。」
サッツシは呟くと、目の前の障壁に向かって歩き出した。
その緑の輝きの強さに、ミレリーの目には焦点が戻ってきました。
「サッツシ、頑張って………。」
囁くように呟いて、ミレリーはサッツシの『障壁踏破の儀』の挑戦を見つめていた。