134, ダンジョンで、……攻略は、二十二階へ ⑪
さてさて、キラーアントの後ろから吹き付ける殺気は、風の民たちと交代したシュッキンの障壁でも減衰する事はほとんど出来なくて、レディアン皇国の国民たちは、それをまともに食らい状態異常を起こしていた。
特に顕著だったのがアレディア救済教議会の関係者で、回復など治療の最中にバタバタと倒れていく。
前回の戦いの際に、離反した者たちでも在ったが、アレディア救済教議会の最高責任者であった彼、アーク・ダイ・カーンの影響は計り知れないものがあったのである。
『ナゼ、ワタシガコンナメニアワナケレバナラナイノダ。アソコマデウマクイッテイタノニ……。ナゼ、ワタシガ……。ソウカ! オマエカ? オマエカッアアアアアア!』
呪文のように、繰り返す言葉、いや思念か?
自分にその因果応報(原因と結果)の根があるとは微塵も思っていない事に、俺は苛立ちを覚える。
『あの時、おまえが碌な事を考えなければ、救える命だってあったんだ! 自分が欲を掻いていたのに、ヒトのせいにしてんじゃねぇっ!』
幼い命、病に倒れても歩き続けて亡くなってしまった命、俺の国にたどり着くまで、何人の命が消えていったか。
俺には数えられねぇ。
たどり着いた連中だって、俺の国の成り立ちから来る強制に従うしかなかった者たちだって居るんだ。それもこれも、このバカがバカを繰り返したせいだろうが!
自分勝手な理由をこっちに振り向けるな!
『神のための聖戦だ。』だと。
その当時はこう言って標榜していたな。
『神』はそんなちっぽけな存在じゃねーよ!
『神』さんは、そんな簡単に救ってくれるものじゃない。自分たちがまず立ち上がったあとに支えてくれるモンだ。
だけど……、世界のどこにいようと、どんな状況であろうと高い次元から観ている存在だから、そこには居ないけど、そこに居る者たちだ。
とはいえ、もうここまでされたら、黙っていられねーよ。
なぁ、地球の神さん?
虚空に向かって問い掛けるが、もちろん、答えは無い。
彼は彼なりに忙しいしな……、しゃあない。
しかし、リッチーか。……どうするベ?
岩サソリは、アリの魔石を取り入れながら近寄ってくるのだが、体は巨大で落とし穴には入りそうに無い。どうにも手詰まり感がある。
魔法のシールドは強固だし、アンデッドのくせに魔力は最大値。
現在のこの大陸で一番なのでは無いかとも言える。
というか、本人?はそう言いたいらしい。
『ワレノシールドヲ、ヌクコトガデキルモノナド、オラヌワ!』
だそうである。
ではアンデッド対策から始めますか。
『回復!』
そう唱える者多数。……結果は、リッチーが焦げた。岩サソリは元気だ。
『浄化!』
やはり、これも相当数、いました。アレディア救済教議会以外の教会関係者たちから発せられたこれ。……結果的にリッチーが焦げますが、岩サソリには関係ないとばかりに、ずんずんと進んできます。
『アース・ランス!』
土属性の攻撃魔法で、岩サソリを真下から突き上げました。リッチーと一緒に岩サソリは吹き飛びましたが、ニ○ンと空中三回転ばりの軌道を見せ、元の場所に着地……って。
このいなかっ○がぁ!
と、岩サソリが動かなくなりましたが、どうしたんでしょう?
アリジゴクの縁まで来て、足を止めたというか止まったというか、どうやら罠を張っていた者たちが居ました。
『アイス・ランス!』
一文字しか違いがありませんが、その効果は絶大で、岩サソリの表面が凍っていきます。
『フッ、ワタシノジャマヲスルナァ! ヒート、…………アァッチィ!』
自分で岩サソリを温めた彼の魔法ですが、ヒトの姿では無かったために、温度管理を間違えたようで、自分の魔法で焦げていました。ってなんだかなぁ……。
岩サソリ様、ご昇天いたしました。
『フン! コノヨニ、カミモホトケモアルモノカ!』
リッチー様、ご立腹です。
『怒ると、お腹減りませんか?』
と、俺がプリンを差し出すと、引ったくるように取っていったのは件のリッチー様。ほら、イライラしているから……クスッ。
『フン! イマサラソデノシタナド、キカンゾ! ……ム、ウマイナコレ。………アッチィィィィィィィ!』
銀のスプーンでプリンを食べるリッチー様に、『このリッチー様脳筋ですか?』と思ってしまった俺に、非は無いと思う。