129, ダンジョンで、……攻略は、二十二階へ ⑥
レディアンの女帝ミレリー・レディアン・ミズノは、前皇帝から引き継いだ時に代々の皇帝の中で名君と呼ばれし者の名を受け継ぐ。
受け継ぐ前の名は、ユキィク・オノミと言った。
もちろん血のつながりを核とするのだが、旧城の障壁を乗り越える事が大事になっていた。のちのミレリーで当時のユキィク・オノミは、前皇帝の血縁で行けば末端といっても良かった。
ただ、旧城の障壁の中に守られたものがあり、先祖のワタル・ミズノの想いを受け継ぐのである。使い魔のニャンコである。
これは、当時のワタルの使い魔がニャンコだった事に始まる。
いかなる者にも挑戦権はあるが、当代の皇帝が時期を決めて毎年一回その挑戦のためのお披露目を開催していた。
かつて、黒い子豚の事を祖先のモノだという事を告げていたミレリーだが、そこには少々誤解があった。ワタル・ミズノの使い魔は黒白茶の三毛シャムだったのだが、黒い子豚の事を気に入っており良くその子豚に変化していたのである。
さらには、子孫たちの障壁挑戦の際には、黒白茶の三匹に分身することもあったため、その誤解が広がっていた。
そして、ミレリーが皇帝として選ばれた理由は一つ。
旧城の障壁乗り越えの試練で、過去最高の障壁をクリアして最大の猫を授かった事であった。クリアした枚数は旧城に入る直前の障壁一〇〇枚を完全に通り抜け、旧城に入る扉で弾かれた。ワタル・ミズノの残した知恵であった。
この国では、猫は知識と知恵の象徴であり闇を見通す目と爪という戦う力を持つモノとして崇められている。
ただし、授かる猫の大きさはランダムで、それこそ猫の思し召しで決まる事だそうな。
なお、この試練で彼女が授かった猫は、歴代で最大のモノであった。
その大きさはミレリーの等身大である。
以来、かぶり続けている。
いや、……かぶっていたというべきであろう。
俺の発したセリフで、その特大の猫が脱げた。
『っきゃーーーーー、ドグラスーーーーーー!』
という本心の言葉とともに猫が脱げ、前世の記憶も取り戻してしまったと、ミレリーがのちに話してくれた。
この時に発生した怪音波は魔力の波となって、女帝の間の砂漠に面したテラスから指向性を持って照射され、レディアン皇国に迫っていた魔物に対して高周波による振動ダメージを与えていた。
城の横の空に浮かんでいた俺でさえ、その波に押されたほどだった。
さて、空に居る俺が確認した魔物の数は、ハッキリ言って数えたくなかった。
一番手前にいたのが半魔物化したシロアリ、この後方にアリの魔物、それより大型のカミキリムシ型、カブトムシ型などの甲虫類。その上空にはトンボ類。ムカデやサソリなどの節足類。その後方には肉食のカマキリや蜘蛛類と、延々と繋がっていた。
虫たちの絨毯が進んできていた。
ただ、ミレリーの発した高周波ヴォイスと、サッツシの狙い撃った魔法によって、虫たちの進軍は一時的に止まっていた。だが、すぐに進軍が開始されるのは間違いのないところだろう。
俺からの報告を受け、この現状を確認したミレリーのじいちゃんが一言。
「……虫じゃ、虫が溢れた……。」
と、ジナリアニメでの永遠の名ゼリフをぽつり。
大ウケにウケたのは言うまでもない。
その一言が過酷な現状をいっときでも忘れさせてくれた。
一頻り、笑ったあとにヒリュキやルナ達に想転移を繋ぐ。
いま、待機しているのは戦場に面しているレディアン城よりも西側であったため、城の東側へと移動するように頼んだ。途中の魔物たちはドラ吉とドラ子、ギンたちで殲滅していた。
『ゲンブ、海からの魔物たちは頼むな。』
城の西側にある海の護りに巨大な機械亀のゲンブを配置し、クァットロと三連海星を召喚しておいた。ゴーレムキューブを設置し、持久戦もオッケーの布陣。
だが、そこで、俺の鵜の目と予知に反応があった。
この虫の絨毯の最後方に嫌な反応があった。
王級の魔物がこの虫の魔物の絨毯の後方で、巨大な負のオーラらしきモノを発していた。
キラーアントの後方、岩サソリに跨がりし者?
いや、岩サソリに跨がっている時点で既にそれは者では無く、モノ。
魔のモノであった。
「・・・・・・・・・」
何かをつぶやいているが、距離的な関係で聞こえない。
仕方ない。
「デビ○イヤー!」
そう言って、頭部装備の犬耳を展開した。
途端、地上に居た俺の嫁五人のうち四人が突如叫んだ。
コヨミ、リウス、リメラ、アトリの四人だ。
「「「「あ゛ぁぁぁぁぁ」」」」
はて、どうしたのだろう?
いや、いまはアイツから少しでも情報を取っておかなくては………。
聴力を強化し、最後方に居る魔物のつぶやきを拾う。
『ナゼ、ワタシガコンナメニアワナケレバナラナイノダ。アソコマデウマクイッテイタノニ……。ナゼ、ワタシガ……。ソウカ! オマエカ? オマエカッアアアアアア!』
ブツブツ言っていた者が、こちらの魔力を感知したようで、俺の方に顔を向けた。
アレディア救済教議会の最高司教のアーク・ダイ・カーンだったモノが、そこに居た。
自身が内包する魔力が大きかったため、あの『源の黒』の暴発時に取り込まれてしまったのだろう。魔力を持つアンデッドとして、リッチーに変わり果てていた。
こちらを認識すると同時に殺気を振り撒いていたが、俺には気にならなかった。なぜなら俺は、下から吹き上がってくる四人の嫁の怒気に身を震わせていたからである。