128, ダンジョンで、……攻略は、二十二階へ ⑤
サッツシが、この国の女王を慰めているであろう時間は俺たちにとっても作戦を組み立てる時間になっていた。
「この国にも『アレ』はあるのね。障壁は解除できないの? セトラ。」
伝承によると、太古の魔物の大暴走では活躍したらしい旧城は、この国では沈黙したままだった。旧城を覆う障壁が解除されていなかった。
「ルナの疑問も当然の事だとは思うけど、俺はまだこの国に来た事が無いからな、一応スクーワトルアとパレットリアは登録済み。アレディアの方もこの間行ってきたばかりだな。」
『てくまく○やこん』と、俺のポケットから音が聞こえてきていた。手鏡通信か?
ふと見ると魔王が頷いていた。妙に凝った着メロだな、オイ………orz
妙に疲れた気持ちで通信に出てみると、サッツシとこの国の女王が映っていた………あれ? どこかで見たような………。
『セトラ、聞いているのか? セトラ。こちらがこの国の女王ミレリー様だ。って、聞いてんのか? おい!』
考え込んでいたら、サッツシの怒声にハッとした。
『…あ、ああ済まない。ぼっとしていた。戦況とかどうなんだ? 俺たちの手は必要なのか? そちらの動きを教えてくれ。』
人違いかもしれないから、今は一番気になる事を優先的に聞いておこうとした。
だが、その気遣いも、ミレリー本人の暴走で無駄になってしまった。
『えっ、ええっ? セトラ………、なんか聞いた事あるような……。』
そのつぶやきが聞こえた時、周囲の視線が非常に痛かったです。マジかよ、おい?
『セトラ~? またか? またなのか、おい!』
サッツシの声が怖いです。
『人違いですよ。俺はミレリーさんに会ったのは初めてですから。』
この世界では、と、心の中で付け足していた。
『というか、そんな事より、魔物たちとの闘いはどうなっているんですか?』
肝心要の事がまだ聞けていなかった。
『あ、悪い、忘れていた……。そっちから、ここの女王に会うのには正門から入らなくちゃいけなくてよ。時間掛かっていたんだけど、じっちゃんに会えたお陰で、後はスムーズだったから途中の城壁にある矢狭間から、ちょっとだけ狙い撃っておいた。俺が得意なのは魔法の収束率だからな。』
そうなのだ、サッツシ・ダクィタの魔法には特徴がある。
彼が所属していた結界挑戦部では、ルナが全容を把握しまとめ上げていたのだが、それを補完するような形で力を注いでいたのがサッツシだった。
その彼が為した砲撃は確認しておかなければ。
それを利用する事も、さらなる砲撃や攻撃の要としての度合いもあるからだ。
「それも含めて、ちょっと見てくる。……デビ○ウイング!」
そう言い放って周りの連中が?マークを頭の上に出した瞬間を狙って俺は、手を広げると同時に背中装備の羽を出して展開、垂直に飛び上がった。
バッと広がったドラゴン族の翼に魔力を通すと、風が押し上げてくれていた。
急加速でレディアン城の物見の塔の高さまで飛び上がっていく。
「えっ………?」
夢の中で飛んでいたから簡単に操作できている。だって……、神様か神様に近い人?が司っていた空間だぜ? 何でもありだろ!
「………な、なんだってー!」「あー、あんただけー? ずる一!」
ヒリュキの驚く声と悔しがるルナの声がドップラー効果で急速に小さくなっていくなか、レディアン城の女帝の間から手鏡通信が……?
『てくまく○やこん』と、鳴っていました。
『はい、こちら第一飛行小隊所属セトラだ。』
前世で世代を超えて流行っていた人気アニメだった『飛行小隊ドグラス』の真似をして答える。
ただ、これは悪手だった。いらん者を呼び起こしてしまった。
『こちら管制のマックスだ……じゃねえ! コラ、なんだよそれ! 間違って撃っちまうところだっただろう。』
怒りまくるサッツシの声に被さって、ミレリー女帝の声が……。
『っきゃーーーーー、ドグラスーーーーーー!』
また一人、覚醒しました………orz
っていうか、アニオタの前にニンジンぶら下げてしまったようで、いきなり隣で爆発した歓喜の叫びに、サッツシが手鏡型通信機を放り投げて両耳押さえて悶絶していました。
『セトラ、コロす、絶対にコロす……。ガクッ。』
劇中の主人公のライバルのセリフそのままに、つぶやいて気絶した。
お前もアニオタだったのか、サッツシ………orz