127, ダンジョンで、……攻略は、二十二階へ ④
「久し振りですね、サッツシ。あなたが居なくなって城のみんなも寂しそうにしていました。あら? ………サッツシ、品の良い綺麗な腕輪をしていますね。ひょっとしてどなたかか好い人でも出来たのですか?」
最初は機嫌の良かった女帝のその顔が腕輪を見たと思ったら、いきなり曇ってしまった事にサッツシが焦った。
「い、いや、これは………。」
言いよどんでしまったがために尚更、女帝の顔に縦線が入り、項垂れていく。
「あー、もう! 誤解すんなよ女王、これは俺がパレットリアに行って昔の馴染みに逢ったって手紙に書いただろう? そこで……貰ったんだよ。」
サッツシにとっては仲間からの貰い物だったので、簡単に考えていたのだがそれを聞いたミレリーはさらに心穏やかでは居られなくなった。
「貰った? こんなに出来の良すぎる腕輪を貰った? あり得ない……わたくしも一国の王なる者……。そのわたくしですら、見た事の無い意匠と小さくてもふんだんに使われている魔石。……この小さな魔石ひとつだけでも市場価格で、かなりのモノ。何も機能を持っていないと仮定しても……、少なくとも大金貨で数百枚はくだらない品。サッツシ……、こんなモノを誰に貰ったと……、あなたは言うんですか!」
何やらブツブツと呟いていた後に、何かの結論に至ったのか、すっくと立ち上がると、ぶち切れた。
「ふふふふ、素直に真実を話せば、許して差し上げましょう。どうなのです? ……サッツシ?」
付き合いの長いサッツシとしても怖気を振るってしまうほどに迫力を増した女帝がそこに居た。
というか、その前段階の彼女の呟きをあらかた聞いていた、サッツシはおのれの仲間であるセトラを毒づいてしまった。
「アイツ、そんなに馬鹿高い物を俺たちに渡していたのか?」
ドラゴンもかくやとばかりに豹変したミレリー女帝と、その物の価値を知らされて呆然としてしまったサッツシがそこに居ました。
「ミレリー女王、落ち着けって。俺が行ったパレットリア新国というのは二年くらい前に新しく王が立ったんだが、その王は幼く、宰相が付いているって前に伝えているだろう? そいつが、俺の仲間だった訳なんだが、そこの国民は元々奴隷だった者たちばかりさ。そいつらが安心して暮らせるように、自分で付けた名前を登録してこの腕輪を国から貰っていた。ここまでの意匠ではないし、付いている魔石もそんなに多くはない。ただ、障壁が付いている。自分を害する者たちからの逃避の手段として、な。」
サッツシが腕輪について説明していたが、その内容にまた、愕然となるミレリー。
「女王ではありません、女帝で……す? え? しょ、障壁? なんです? どういう事? サッツシ、全て洗いざらい話しなさい! 今すぐに!」
魔物が迫っている事などどこへやってしまったのかはサッツシにも分からなかったが、ミレリーが通常運転に戻ったようである。
サッツシの悲劇はまだまだ終わらないようである。
「はぁ、俺もあとで来れば良かったかなぁ………。それもこれも全てアイツの……。」
興奮する女帝と、それを抑える冒険者という構図が家臣たちに与える影響は、計り知れず、城内には、落ち着きを取り戻す者たちが多くあったのも事実であった。
「あのあるじ様が……、大きゅうなられて……。」
ミレリーのじいやが感涙にむせんでいた。