忘れ去られていた魔物……、それは黒真珠虫 ③
黒真珠虫、終章です。
『お願いですぅ、ボクの真珠玉あげるからぁ……。マイナスだけは~……。』
この黒真珠虫にとって、腹の中に抱えている真珠玉は本人?虫?の卵の時から育てている最大のもの。それこそ、本人?虫?の了承が有って初めて真珠玉として出てくるもの。
次の玉が同じサイズまで育つには少なくとも一〇数年が必要になる。
まぁ、裏技が有るには有るのだが……。
俺が鑑定してみて気が付いたくらいの裏技で、少なくとも彼らは知らない。
だから、ロパラの申し出は決死の覚悟の中で行われている事、だ。
『凄い決意だね。この虫たちにとっては結婚するほどの覚悟をしているって事だものな。』
ジルハマンさん、それは言いっこ無しですよ。
このボクっ娘黒真珠虫は既に従魔となっている訳で……、今までの従魔化した魔物にとっての特徴的なスキルは既に適応されているようだが、本人?虫?は気づいていない。
ましてや彼らにとっての真珠玉を放出するという事は、次世代の生命を育てる事への決意なのだから。
『分かった分かった。まったく、俺も甘くなったものだな。おやつポイントプラス八だな。』
溜息交じりに、ロパラに伝える。
『やったぁ、みんなに顔向けできる~! ………あれ? 三ポイント余るよ?』
不思議そうな表情……しているように見えてきた俺も………orz 問題だよなぁ。
『無論、真珠玉との交換だ。それに、仲間たちにも報告しなきゃならんのだろう?』
そこまで言って初めて気が付いたようだ。
『あっ、そういえばそうだったかもだったぁ~………orz 』
おい………orz 俺と同じフレーズかましてくれるな。
どこかで聞いていたのか、こいつ?
かつて、スクーワトルア城でぶちかました俺と一言一句違わないセリフに、一種の共感を覚えた事だけは確かだ。
『う~、恥ずいな、もう!』
照れ照れに照れまくっているパロアに、少し和んだ。
『くっくっくっ、君たちは面白いな。それにこのプリンとやらもこちらの前の世界に出来ていたものなのに、わたしには新しいものに感じているよ。………そうだ! わたしにもゴーレムキューブとやらを譲ってはくれまいか? 対価としてあげられるものもある事だし、どうかね。』
ジルハマンさんの問い掛けに一瞬唖然としてしまった俺は攻められないはずである。
ここは夢の中ではある。
それは分かっている。その分かっている事自体、良く分からない事なのだが。
層庫から取り出したプリンを食べる事が出来ている時点で、ジルハマンさんの言い分に筋は通っている。
『対価って、何なんです?』
俺はその対価とやらが気になって聞いてみた。
『う~ん、さすがだね。やっぱり気になるだろうね。………ドアノブだよ。』
ジルハマンさんの言葉にまた唖然とした。
『ド、ドアノブ……。』
これは想像の埒外(想定外とも言う)でしょう?
『そう、これが無いと開かないからね、ドアっていうものは。君たちは扉を目指しているのだろう? 鍵も届いた。でも、そこにドアノブは無いかも知れないじゃ無いか?』
にこやかに話すジルハマンさんを見ていて、ふいに確信に至った。
このおっさん………、設定し忘れていたな……。
ったくもう! このおっさんの提案に乗るしか無いじゃないか。物々交換をするという事は、お互いの座標を確定するという事に他ならない。
『はあ……、分かりました。ゴーレムキューブをお渡しします。交換単価はこちらでの単価で三〇〇鈴からになりますので、色々と試してください。重さと、価値が一致したら転送されてきますので。』
一応、説明だけはしておく。システムを更新したゴーレムキューブを層庫から出して、ジルハマンのおっさんに手渡した。
『さっきから、おっさんになっているな。君も口が悪い。まぁ、君から見れば我々の仲間はみんなおっさんやオバさんになるのだろうけど、口は災いの元、気をつけたまえ。ああ、もう一つだけ特典を付けてあげよう。では、楽しい日々を。グッドラック!』
おっさんじゃ無かった、ジルハマンさんとの会話はここで終わった。
夢の中、筒抜けだという事に気を付けよう。
何か特典を貰ったみたいだけど、鑑定には?マークの羅列しかない。
『あ…、あの、あるじ様? コロコロ出勤……。』
と、まだ居たのね、黒真珠虫のパロア……あれっ? あんた誰?
黒いおかっぱの座敷童みたいな素朴な着物の格好の女の子が立っていました。
アホ毛が二本立っていて、まるで触っ…角みたいになってって……お前、パロアか?
なんてこったぁ! やっぱり人化スキルをゲットしていたのか? Oh………orz
夢だ、夢。これは夢だぁ! さっさと目を覚ますぞ!
『うぅ~、確かに夢だけど、夢じゃないですよぉ……、あるじ様のいけず!』