忘れ去られていた魔物……、それは黒真珠虫 ②
頭の中には出来上がっていたはずの文章が見当たらなくなって、早くも一週間。どういう事だろうと、少しずつ書き出してみると、四から五話くらいがゴッチャになっていました。一つ目の話をどうぞ。
『チィチィチチチチィ~、チィチィチチチチ~。』
『夢という疑似異空間の中だし、相互通訳モードにするか。』
という言葉?思念?でジルハマンという地球という星の、神様みたいなヒト?から提案があったかと思うと、すぐに黒真珠虫の話す言葉が明瞭に聞こえだした。
『わ~凄い。チョー綺麗に聞こえる~。』
黒真珠虫よ、お前さんはいったいどこの女子高生だ?
『えー、だって~ホンットーに凄いんだもん。デモデモ~、マルちゃんのご主人様って、こういう話し方好きでしょ~。それに基本、マルちゃんたちとボクたち、いつもこんな話し方しているんだも~ん。ご主人様ともこんな風になるんだよ!』
黒真珠虫……、黒パルァ、もとい、ロパラがボクッ娘かよ………orz
しかも自分の話し方で好きな事を言ってくる。
それにしてもこいつらが、何匹居るのかは数えていないから知らんが従魔用の登録票は数多く作っておくとするか。今後も増えないという選択肢は無いのかも知れんからな。
シュッキンにも手間暇掛けさせてしまうが、従魔たちにとっては掛け替えのない魔道具だからな。
『ボクたちもマルちゃんたちと同じように、コロコロ出勤したいんだよー。』
コロコロ出勤とは、ダイマオウグソクムシのご飯のために巣穴からコロコロと転がってきて、風呂の浴槽内の水質保全を行うお仕事のための出勤風景。
上部の巣穴から二本のレールによってコロコロ転がってくる事を指している。
問題はダイマオウグソクムシのマルちゃんたちは深海水棲生物の魔物。
黒真珠虫たちは、海水と真水が交わる汽水域が主な生活圏の魔物。
当然、エサとなるものも違ってくる。各種のゴミなどを分解していく超微生物や水溶性の油脂などを水ごと掻き込み濾過して自分たちの栄養分としていた。
大きいものは食べないという訳では無く。くし状になっている濾過のための歯を使い刮げ取っていたりする。それを磨り潰して消化する器官が砂肝ということになる。
そして、陸上の水際では、同じようなエサを地面から吸い取ったりして生きているのがスライムであった。
彼らにとっての問題は、その汽水域での生息場所になる。自然界というか異世界の自然界では、彼らは、ヒト族の住む町や村の生活排水の流れる場所の近くで砂や土に埋もれたまま生活している。当然、その場所はスライム達も多い場所。
黒真珠虫たちの討伐が成される時は、スライム討伐の依頼である事も多い。
『へぇ~、君も面白い事を始めているんだね。そっちの世界に『風呂』とは。』
そう感心してくるジルハマンではあったが、その『風呂』がもたらす生活排水が彼ら魔物の生息域を変えつつあった。
その取っ掛かりはダイマオウグソクムシのエサ場は『風呂』の排水設備で沈下水槽の最下層ではあったのだが、その沈下水槽の構造上、仕切りによって流れを分断していた。
それにより上部に出来た澱みに魔物たちが増えていて、それぞれの食域を被らせない魔物たちの饗宴の場となっていたのだった。
沈下水槽の最上部にはスライム達が、水面近くにある好みの部分を捕食していた。
次の中間部の浅い水面には黒真珠虫が、中間部でも深い方に分類される方にはクラブのルオーたちが棲みつき始めていた。
だが、そこにはダイマオウグソクムシたちと同じようなコロコロ出勤は無い。
ダイマオウグソクムシたちは最下層なのでそれほど難しくはないし、本人?たちもなれた環境である。
それを黒真珠虫たちが真似をするというのは、非常に難しいというところなのだ。
『デモデモ~。マルちゃんたちと共通の話題でも盛り上がりたいんだよ~。』
切実な声に、何とかしてあげたいと思わされてしまった。
『降りてくるところと上るところを別々にしてしまえば良いんじゃないか?』
という、解決策をくれたジルハマンに成る程と頷きを返す。
『確かに、それは一考の余地がありますね。………よし、やってみるか。』
マルちゃんたちとは別のアプローチを考えついた。
『こうこう……こういう感じなんだけど、どうだ?』
黒真珠虫のロパラに提案してみる。
『うんうん……。それ良い! やってやって!』
『おいおい、タメ口かね? おやつポイントマイナス五な。』
親しき仲にも礼儀ありでしょう? 黒真珠虫くん。
『ちょ……それはぁ~、お願いですぅ。みんなに怒られる~。』
黒真珠虫のパロアが青ざめているようだが、ある意味、自業自得だ。
『おやつポイント?』
ジルハマンが不思議そうに聞いてくる。
『貢献度とか、従魔や仲間としての態度を含めて勘案し計算されるポイントです。マイナス方式で、通常の食事が終わった後のデザートが他の人たちよりは寂しくなります。今日はこれですね。あなたもどうぞ。』
そう言って夢だというのに層庫から取り出したそれは、プリン。
『あ゛~、プリン? ヤバイ、ヤバすぎるぅ……。あるじさまぁ、ごめ゛んなざいぃぃぃ。』
魔物たちの大半が期待しているのが、このプリン。
おやつポイントでマイナスを喰らうと、連帯責任になる。仲間内では大変な事になるのである。