狼煙
久々の連投です。
「お兄ちゃん、出掛けてから、ずいぶん経つね。」
ちょっと拗ねた感じで口を尖らせて少女が家族に話していた。
「ロ~ミィ、長って言いなさい? お兄ちゃんも長になってみんなの期待を背負っているんだから、寂しいのかも知れないけど応援してあげて、ね。」
そう言うと、ロミィの母のロージィは、優しく微笑んでロミィの頭を抱きかかえた。
ケモ耳ごと、髪を梳いている。その感触に眼を細めながら、ロミィが頷く。
「………うん。」
と、その時、島が揺れた。
「またか、こんな振動は長老たちからも聞いた事が無いが、……最近、頻繁だな。」
大人たちが騒いでいた。ロミィとロージィたちも不安が隠せない。
最近になって、この怪現象が増えているからだ。
新しい長が決まり、村の民のための狩りに出て行ってから、始まったのだ。
既に一週間が経つが、長は帰らず、不気味な振動は日に日に頻繁になっていた。
まるで何かと呼応しているかのように。
突如、メキメキという音と、ガラガラという何かが崩れるような音が響き渡り、村のある場所よりも高い位置にある彼らの守り神をまつっている場所、つまりは神社である場所の壁にある彼らの守り神の像の一部を崩して、何者かの眷属たちがそこから溢れた。
「ああっ、犬神様が!」
穿たれた、小さな穴から出て来たのは、………………堀鼠という、地鼠の一種。モグラの仲間ではある。ただ、この堀鼠はボス鼠に指揮されていた。
ヒト族の生活圏を足元から崩してしまうくらいには、組織だっていた。
よほど、頭の良いボスがいるという事か?
注連縄による結界の効果はまだ切れていないが、あの物量を考えると何日かしたら、こちら側に溢れてくる事が考えられた。
先代の長に報告が行き、その指示に従って村の男を中心に村の周囲に堀が作られた。
そして、次善の策として、考えられた事は。
「長に危急を知らせよう!」
「狼煙だ、狼煙を上げろ!」
先代の長の住まう家、そして、新しき長の住まう家から、救援を呼ぶための狼煙が上がった。
「長、あれを!」
レドッグがそれを見て、絶句していた。
「分かっている。だが、今のままでも最速で戻っているのだ。ここで無理をしても仕方が無い。先代にお任せしよう。我らは一刻でも早く時間を稼ぐのだ。この土産を消費してでも、だ。」
彼我の距離に心が痛む。
だが、いまはまだ届かない距離なのだ。
「ロミィ………、今行くからな!」
そう誓って、届くと信じて今の彼らは少しでも進むしか無かった。
家族の……、村の民の……無事を祈って。
その願いが何かの力を呼んだとでもいうのか。
彼の乗る飛鱏に、彼の持っていた腕輪が触れた。
『我ら、望む者。彼方より来たれよ、捜転移!』
遙か、遠方から聞こえた言葉。
視界に自分が望む場所が示され、その言葉に無意識に同調した。
「長っ?」
レドッグの声を暗転した視界で聞いた……ような気がする。
「お帰り、お兄ちゃん!」
ロミィが飛びついてきた。
「あら、ワッケィン、遅かったね。」
そう言って微笑む、カッタェが彼の目の前にあった………orz。
「久し振りだな、ワッケィン。」
微笑むみんなの笑顔が目の前にあった……。
「え? カッタェ。……え? みんな? 何で?」
視界の変化について行けないワッケィンがいた。