120, ダンジョンで、……攻略は、二十一階へ ②
で、出現した二十一階への扉の位置と言えば、ゴーレムハウスの壁に付いておりました。
何故にその場所で………。
本来の建物の館内への出入り口の扉の直ぐ横に付いているものですから、ゴーレムハウスくん?も苦笑いっぽいの風情を醸していました。
「なんだ? その二十階のボスというのは………俺の事か? 二十階というよりもここは山の上だろうに………。」
あの扉の言葉を信じるっていうんですかい?
素直なやっちゃなー。こんなんで 銀狼の長って務まるもんなんですかね?
ブツブツと呟いていましたら、目の前の銀狼の長のケモ耳が聞き取っていたらしく威嚇のような歯軋りのような音が出ておりました。
イカン、遊びすぎたか?
「グギュギュギュゥ、どうしても死にたいようだな、ガキ。いいぜ、いまから料理してやる。」
我慢の限界も近いようで、半分狼になりかけていました。おやおや爪も凄い。
やはり、戦闘能力としては高い方へと変化するようですね。
俺がする事は一つだけ。
『風よ、我が意に従え』と。
ワッケィンの変化を見て、俺は風を発動する。
目の前のワッケィンの視覚や嗅覚を混乱させるのが一つ。
もう一つは、俺たちを中心にして半径五メルの円の円周上を風による掘削で描く事にあった。
「グ、グオルゥ、周りが分からん。……ぬぅ、これはドヒョーか?」
風で描いた円の事をドヒョーとは……。
「ちょっと待てや、なんじゃい、そのドヒョーとか言うのは?」
別に開始線も無ければ徳俵も無いのに、その大きさの円から出た言葉が土俵って……orz
「これは、我らの種族の掟において重要な戦いの場所の事を指す言葉であり、その儀式のための場所の事をドヒョーと呼ぶ。おのれを中心に五メルの円。これを形作ったという事は、俺との戦いに臨むという事だ。そして、作ったものが条件を決められる。俺たちの戦いはシンプルさ。最後まで立っていた奴が勝者だからな。お前は何を決める?」
誰だよ、そんな掟なんか作った奴は………orz
「はぁ、そーなんすか? ………まぁ、いいです。勝者は、この円から出なかった者という事で。」
脱力したまま、条件を決める。後ろで「無茶だ」とか言われていました。
でも、簡単には、俺は負けないぜ?
「そんな事でいいのか? あっという間に血祭りに上げてくれるわ!」
「俺にはそっちみたいなツメやら牙やらないから、武器と防具だけは出させて貰うぜ、いいよな?」
一応、確認しておく。
「ははは、そんな事か。何を出すのかは知らないが、好きなだけ出してみろよ。」
おお、確認する前にオーケーが出るとは、気前のいい話だな。
では、遠慮無く。
「こ、小僧……。それがお前の武器で防具か………。やってくれるな? グルルル。」
目の前に居るはずの銀狼の長は、不満に唸りっぱなしでした。
俺とワッケィンの間に積み上げた竜頭は一つ。
だが、俺の背後に積み上げたものの数は一〇はあるかも。
竜の肉は、経験値の宝庫だし、その肉自体にも魔力と体力のみなぎる要素が詰まっているため、障壁のこちら側に出したにも拘わらず、障壁内の狼たちのギラギラ感がハンパないです。
同じ事が目の前の男と、その後ろにいる彼の仲間たちからも感じられています。
「さて、始めようか?」
その言葉を皮切りに、久々にかっ飛ばした。
竜頭を……。
「取ってこ~い!」
したのである。
それこそ、右に左に。山なりの軌道でもっとも距離が出る方法で、打ち上げました。
狼君たちは怒濤のごとく走り出していきましたとも、雪狼、森狼、夢幻狼、そして獅子狼までもが。
子供化した状態から大人化した状態へと瞬時に変わり、障壁をものともせずに、山津波のようにその姿を各地に散らしていきました。
そして、それは銀狼も…………、例外では無かったようです。
やっぱり本能と、空腹には勝てなかったようです、てへっ。
ドヒョーの中どころか、周りにも狼君たちの姿はありません。
もちろん、目の前に居たはずのワッケィンくんも影も形もありませんです。
「うっわぁ~、ずっこい……。」
カッタェの的確な指摘がぐさりと耳に突き刺さりますが………orz
「あんたの、彼の目の前でうな丼っていうのも同じくらいに、凶悪だったわね。」
「う、そ、それは~。」
「くそっ、俺たちの負けだよ………はぁ、はぁ~。だけどお前たちの従魔たちって凶悪すぎるだろ? あの図体で、あんなに素早いとか反則ものだぜ!」
息の切れた銀狼の長どのは十一個のうちの二つを両手に確保していました。すぐに食べないのか聞いたところ、銀狼の村に、腹を空かせた者たちが居るということだった。
まぁ、村を形成する者たちは、大人ばかりでは無いからな。
ワッケィンくんが連れていた者たちは一個を何とか確保したようで、俺との契約を長が詰めている時に待ちきれなくて、がっついては、涙していました。何日食っていないんでしょうか?
「まぁ、しょうがないさ。毛玉は今回から参加しているけど、他の連中はたびたび食っているからな。じゃあ、これは契約の証という事で今、渡しておくな?」
そう言って、目の前に置いたのは、彼らが飛び出して言ってから戻ってくるまでの間に火魔法で炙っていた竜頭。綺麗に照り焼きになっているそれは、出した途端に、狼君どころか、障壁内のヒト族までもが集ろうとするほどに良い匂いを醸していました。
「ほら、遠慮なく食えよ。」
俺が旨いところを見分けて切り出す。
皿に盛っていくのだが、切る端から誰かの胃袋に収まっていきます。
最初は俺が切っていましたが、自分が食えないでいる事に疑問を持ってゴーレム鉄板にお任せしました。適度に焼けた部分を味わって食べていますよ。
「ボス、合わせたい奴がいるっていうのは、こいつの事か?」
ワッケィンは俺の事をボスと呼ぶのだが違和感有りまくりだ。
その彼が、こいつと呼んでいるのはカッタェの事。出会いの初っ端から問題がありまくっていた二人ではあるのだが。
「セトラくん「?」、黄色いのある?」
おお、ワッケィンの表情に変化が。そんなに人の名前に反応するものなのか?
「おお、有るぞ。ほら!」
取り出したのは黄色の衝撃である「プリン」。
「ありがと。ハイ、あ~ん。」
カッタェがそう言って、ワッケィンに差し出した時の俺たちの衝撃たるや、計り知れないものであった。
「ちょ、ちょっと……、どういう事なの、これ?」とか、「大事件~ん!」、「うわぁ~お、度胸あるぅ!」やら、様々な声が飛び交っていました。
当のカッタェは顔が真っ赤です。
「あ……、あ~ん。む、これは……。旨いな……。」
ワッケィンくんも戸惑いながら、プリンを一口。
食べた後で何やら考え込んでいました。
「はい!」
そういって、カッタェから手渡されたものに困惑顔。
自分が今一口食べたものを渡されたからだ。自分があ~んをして食べたものを渡されるとはとか考えているのだろう。良く分かるよ、その戸惑い。
「あ……、あ~ん。」
カッタェに向かって差し出したその手は震えていた。
パクリ。
と、音がするかのように口を閉じたカッタェの口にスプーンが…………無かった。
「あ、あれ?」
戸惑うように見開いた眼に、ワッケィンが真っ赤になって震えていた。
「また、同じ事をしていたのか、俺は!」
「あれ? もう、分かっちゃったの? ざ~んね~んだなぁ。でも、わたしの分は残っているのよ? きちんと返してくれなきゃ、前の時の分もね!」
という事は、前回も同じ事やっていたんだね、この二人って。
ちらりと、こちらを見るカッタェに俺としてはあるじとして、命令を下した。
「あ~、ワッケィン。きちんとあ~んを返しておけよ? 祟られるぞ?」
契約の名の下、発動される、それにワッケィンは行動していた。
「え゛っ………セトラぁあ? ぐぉぅ、体が勝手に。 はい、あ~ん。って、恥い!」
満足そうなカッタェの笑顔に、みんな癒やされました。
たったひとりを除いて……………南無南無ぅ。
そう、赤い顔をしてのたうち回っているワッケィンくんを除いて。