112, ダンジョンで、……攻略は、十九階へ ⑤
「『お前は、何を言っている? 確かに我の名はギンだが金魚とはなんだ?』」
「『金魚というのは、こうこの位の水槽で飼っている観賞魚のことだな、今のデカさのお前には分からない環境だな………、どうするっかな。………ああそうか、あの時の感じを出してやれば気付くか。』」
こうこの位と言って手で四角く空中に水槽の形を作ってみるが、竜の長老には小さすぎて分からないようで、俺は一計を案じた。
今のアイツにその感覚を味わわせてやればいいって事に気付いた。
ただ、たったその一言でヒリュキが「おい、無茶すんなよ」と、釘を刺してきました。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ、俺に任せなさいって。」
「それが不安の元なんだよ!」
温厚な彼が、キレてました。調子に乗るまえに気を付けよう。
と、とにかく、いまは対戦で。
「んじゃ、行ってみよっかぁ。“疾く、風よ来よ。雨よ、我が願いのままに降り注げ。”」
風の竜の眼前で風を使役しようとしていることに、ドラ子の親戚筋のリュウたちは唖然として見ていた。そんなことなど出来る訳が無いと言わんばかりに。
数瞬ののち、風が集い始めた。
『? ガ、ガルゥ……』
ドラ吉とドラ子は平然としておりましたが、ドラ子の親戚筋の方々は驚愕のあまり、言葉が詰まっておりました。
風竜の長老は、その俺の魔法の速さに驚きつつも、自身の魔法を展開していく。
『グガルルルゥ、グルルロゥ………。ガ、ガルルララゥ!』
「『我の前で風を使役しようというのか、愚かな………。む、風よ我に従え!』ってか。では、一丁こちらもやってみますかね?」
俺が呼んだ風を支配下に置こうとして、風竜の長老は魔法を紡ぐ。
それを阻止しつつ、集った雨雲に指示を出す。しっとりと雨を降らせる。
まずはドラ湖周辺に。
周りの砂に湿り気を与えると、風竜の長老の足元に泥濘が生じた。
風を上手く使役できない長老は、自身の重みでその泥濘から出られないようでジタバタしている。
よしよし今のうちだ。俺はほくそ笑んで、次に取りかかる。
『グルル。グラゥグララゥ、グララルォグルルガゥ! グロルルゥ!』
「『おのれ。矮小なるヒト族の分際で、我に魔法で勝とうと思うてか! 風よ我の邪魔をするな!』って使えてないじゃん。風よ渦を巻け! 大地より集え硅石、熱を持ちその姿を透明なガラスに変えよ。」
大地から鉱石を呼び出すのは土魔法の抽出。ガラスに変えるのは闇魔法の錬金。
「氷柱、ドラ吉俺を抱えて飛べ!」
氷柱がガラス四枚を支える位置について凍っていく。ランドセルを背負うかのごとく小型化したドラ吉が、背中に抱きつき羽ばたくことで空へと駆け上がっていく。
鳥の羽のように変化したことで、風を上手く捕まえている。
そのドラ吉にジタバタもがく長老の上を飛ぶように指示すると、水魔法の水鏡を変化させて光学レンズを形成した。
早い話、俺の顔が長老より大きく見えれば成功だな。
『グ? グオゥ…?』
その言葉に反応したか長老の顔が上を向く。そして、何かに気付いたかのような表情をしたまま固まっていた。
そして、あの頃のようにそこに投げ込む。………エサを。
あの当時であれば水面に浮かんでいたエサは、いまは代用品のクモの糸で作った網に引っかかる。
粘着質の糸にしていないので、ポンポンと弾んでいく。そのエサとは、福焼き。
中に長老がご所望の蜂蜜が入っている物。
猫ビト族や猫科の連中は、その弾む様子に辛抱たまらんと言う顔をしていて、風竜の長老の顔のところですから、高さが段違いに高いところにあるため手が届かないのですが、夢中になって猫パンチを空中に向かって繰り出しておりました。
弾んでいる福焼きのその様子に長老の首が左右に振られる。
そのうちの一つを長老のギンがかぶり付くと口中に溢れるハチミツ。
思わず知らずにギンが呟きました。
『ガ、ガルゥ』
長老のその言葉にドラ吉が目を剥いていました。