109, ダンジョンで、……攻略は、十九階へ ②
次は、十九階。どんなところかな?
などと、まったりしていましたら、世界樹の母様が、池から足を引っこ抜いて移動してきていました。って、アンタもトレントだったんか?
うどんを食っているんだか、うどんの飾りになっているんだか分からないクァットロさんに向かって移動していく。
『このたびは、ご助力頂き、誠に申し訳なかった。』
そう言って、素直に頭を下げるナンノキの母様に俺は驚いた。
もちろん、頭を下げている先は、俺ではなく、クァットロ。まぁ、気位の高い彼女にしては最大限の謝辞でしょう。
『何のことであろうかな? わたしはあるじ殿に提案したまでのこと。わたしの案を受け入れるも入れないもあるじ殿の胸先三寸。全てはあの方のご判断によるものだ、礼を受けるのはあるじ殿だ。そして、この褒美も……な。』
だが、そのクァットロの賛辞はコヨミたちに対して取った態度を猛省中の俺には、なんだか凄く痛い。
『むう………。その通りではあるか……。ナンノキのあるじ殿よ、ナンノキをよろしく頼みます。』
母様が、頭を下げていることに俺は少なからず驚いていた。それはナンノキも一緒だったようで。『母さまが……。』と、絶句していた。
『その上で、ご相談があるのだがお願いできるだろうか?』
『お、お願い~?』
堅い体のナンノキが仰け反っている。それほどに珍しいことなんだろうな………。
『なんだい? お願いって。ナンノキの母様?』
世界に冠たる世界樹様がお願いとは、なんなんでしょうかね。
『うむ……、ナンノキのあるじ殿。ゴーレムボックスを購入したいのだが、その資金にわたしの貯蔵している世界樹の葉を充てたいのだ。』
何とも破格な評価をしてくれたものだが、さて……。
「セ、セトラ、せせせせ世界樹の葉ってどこの国でも国宝扱いよ?」
ルナが感動に打ち震えておりました。
ああ、そういえば、想転移の範囲を広げていましたから、ここまでの会話は一応それぞれの言葉で話していました。だって、お互いにバササバササという言葉とプクプククという言葉では、意思の疎通は難しいと思ったので……。
『ゴーレムボックスは本来貸与品で、その時々によって中身を変えているが、購入という事になればそれはない。ないが、付け足すことは可能だ。それこそ、ゴーレムボックス一体で世界樹の葉っぱが二,三枚は買えるほどにはな。で、付けるか?』
ちょっと金額的には噴かしてみたが、まあ、ある意味妥当な俺自身の評価でもある。
『俺的にも、実験的な商品だが、転移に新しい道を付けられるなら、それも吝かではないな。』
なんと言っても、この十八階に来る前の海上リゾートで、得られた情報に対応するためには、俺としても嬉しい限りなのだ。
それは……………。
ただいまリゾート中!
という立て札を立てて、まったりと休暇を満喫していた十七階のセーフティエリアで休んでいたときのこと。後ろを振り向けば、十八階への階段がありますが……。
ゲンブに言わせると人気のない海と言うことだったが、いつしか人々が集まってきていた。
物見高い連中からの報告でもあったのか、ただ、周辺の住民たちから、アレディアの王都の方に報告が上がったのかは知らないが、海岸の方に王を含めた貴族の方々が、鈴生りになるほどに集まりつつあります。
「セトラ王ー、ご連絡頂ければ歓待のご用意を致しましたものをー。」
ア・クラツ王の声が届く。
彼の嫁さんを含め貴族のご婦人方がこぞって海岸まで降りてきていた。
しかもここにあるゴーレムボックスの性能が確かめたいようで、水深の深いところに立っている亀の足元まで小舟で集りまくっている。
「連絡って言ったって、ここがどこだか分かったのはついさっきだよ。だっていうのに、何でこんなに集まるのが早いんだよ………orz」
「はい、ここは本来は外洋から寄港する船というものに乗った行商人たちの憩いの場なのですが、魔物が現れたと言うことで注進が入ったのです。その様子によっては討伐あるいは捕獲、あるいは憩いの地の変更と関係先や各人に仕事が増えるので、ひとまず様子見に参った次第です。」
おお、王様らしいことをしている。
「しかし、外洋?」
「ええ、ご存知ではありませんでしたか? この大陸の他にまだ四つか五つの大陸と小さな島が有るということが伝えられています。」
不思議そうなア・クラツ王の言葉に、スクーリンとやらで見た映像が蘇った。
そういえば、あの映像って、何年前のものなんだろう?
「そうか、アレがそうだったか。」
あまりに大きな湖なので、外洋といわれていることに気付くのが遅れた。
いま俺たちが居る大きな島を含めて、外洋と呼ばれている海に点在する島々。
その外周にひどく高さのある大陸の壁が聳え立っていた。
そんなア・クラツ王との会話の側で女性陣は何やら、ごそごそやっていました。
「ねぇねぇ、これなんか良いんじゃない?」
「エー派手だよぉ、それってぇ。」
俺が話し込んでいるのを尻目に女性魔法士たちは、アルケニーたちに水着をリクエストしていた。
ワンピースでフリル付きとか地球の普通タイプはまだしもビキニとか、それは一体どこからデザイ……ン?って………ああ、アレか、GALGIRLを含む女性誌が元かい?
その様子を見ている貴族のご婦人方が何やら話し込んでいるのを風を使って集音してみたところ「あの服は一体?」とか「あのような恥ずかしい出で立ちは……」とか、さらには「あれもゴーレムキューブから出せるのかしら……、公の場では着られないでしょうが、邸宅内ならウチの旦那様と……きゃ♡」ってオイ………orz
……………といった具合で。
スイーツを出すゴーレムボックスから、流行を出すゴーレムボックスへと、需要が変わってきていたからだ。
世界樹の葉で購入するという事柄も、ことの大きさは俺でも分かることだったが、販路を拡大していくためには、ありえないとはいえないものだった。
ただ、十九階への入り口をナンノキの母様が押さえている以上、仕方の無い話。
彼女の洞がその場所でした。
『魔王殿、転移の階段とやらは、ここに置いていきますのでよろしくお願いします。』
そう言ってナンノキの母様はゴーレムボックスを小脇に抱え、自分の本来居る場所の星の中心核方向へと帰られた。
十九階への階段をそこに置いて。