107, ダンジョンで、……攻略は、十八階へ ④
『キキギィキギギギィキィキ。キィギギギィキィギギギギィギィキィキギ、ギギィギギィキギギキィキィギ、……ギィギギギギキィキ。』
そう言って、十八階の障壁外へと歩を進めていた若さまであった。
……のだが、ほんの数メルでその身に怖ろしいほどの毒気を浴びてしまった若さまは、すぐにふらふらとしたかと思うと、ぱたり。
物も言わずにぶっ倒れてしまった。
「コヨミ、癒やしの雨!」
状況を判断し、最善手をまず打つ。
「はい! 雨よ、降って!」
俺の指示に打てば響くようにコヨミが応える。
「風よ、疾く集いて風の渦を成せ! 送転移、イクヨは風門展開! 気温差で上昇気流を起こせ! 薬草たちよ、お前たちの力を借りるぞ! ナンノキに癒やしの手を与えよ! 送転移!」
ナンノキが倒れた瞬間、俺は矢継ぎ早にみんなに指示を送る。
彼らがそれを理解して動こうとするその間に俺はナンノキを回収してきていた。
『|ザワワザワワ……』
ゴーレムハウスの天辺から草たちのざわめきが聞こえてくる。
まるで放射線でも浴びたような感じの、妙に干からびたナンノキに薬草たちの救いの手が差し伸べられた。意思を持つかのように、ゴーレムハウスの菜園から薬草が舞い降りてきてはナンノキに張り付いていく。既に木の幹は見えず緑の棒っこと化していた。
「魔王、この階のボスってひょっとして彼女か?」
的確なナンノキの被害の状況を鑑みて、俺が出した答えが………、世界樹のナンノキの母様だということ。ただ、その役割が分からないだけだ。一つだけ浮かんだ言葉はあるのだけど。
「セトラが考えているそれが正解だよ。」
肩を竦めた魔王が答える。
どうやら、彼にとっても苦渋の判断だったようだ。
毒の大気でなければ生きられないモノたちも居るが、それだけでは、バランスが悪くなり、やがては全滅していく様を何度も見てきていたからだ。生態系という物はそれなりに繊細で、それなりに耐久度のあるものだが、どちらかに傾いた物はあっという間に滅んでいく。毒を発する魔物も呼吸まで毒なのではないからな。だから、この階を掌握するモノは、この階のボスでなければならない。
「「良薬は口に苦し」ということか……。」ということだ。」
「そういうレベル?」
ルナが呆れる。
「レイ、送転移イケるか?」
レイに振ってみるが無言で青い顔をぶんぶんと振りまくっていた。
しょうがない、風盾を発動して貰おう。
「ヤースォ、風の民の五人は風盾発動、よろしく。サッツシ、風洞造るから支えてくれ。ナオッタ、三連海星の飛行制御よろしく、ひとまず………世界樹の母様のところまで行くぞ。話はそれからだ。」
上昇気流などの渦はふつう上下に形成されるモノだが、イクヨの知識と俺の力技、補完したユージュの力添えがあって、風の渦は障壁の外から遙か彼方までその筒を伸ばしていた。この先に母様が居るようだ。
さてさて、光魔法全開で、行ってみましょうか。
濃い毒素を取り入れて少しタテ方向に成長したナンノキは、薬草をその身に巻き付け魔法士用の包帯でぐるぐる巻きになっている。
そのナンノキを魔法の杖代わりに持つと、それらしい姿に見えてしまったようで、周りから感嘆?の声が漏れる。そのまま歩き出そうとした瞬間に別方向から声が掛かる。
『あるじ殿、この者たちを連れて行ってやってくれないか? 期待に応えてくれるはずだ。』
そう話を持ってきたのは朱雀雲丹のクァットロさん。
連れて来たのはクラブのルォーという種、四本の小さなハサミで自分の泡をネットにして、微細な栄養分を漉して栄養分にするという希少種……だったはずだが。
『彼らの甲羅には毒袋があるが、その毒は外から取り入れるのだよ。』
なるほど生きたコスモ○リーナーか!
では行こうか? クラブルォー、ナンノキ? この階のボスに会いに行こう!