105, ダンジョンで、……攻略は、十八階へ ②
『便利はいいが、ここは海になるのか?』
と、今更ではあるが確かめておかねばなるまい。海だとすれば、いつ襲われるかも知れないから、障壁を張るとかの必要性が生じてくる。
特にこんな形でぷかーっと浮いていれば尚のことだからな。
『はい、あるじ様。ここはアレディアという国の湾内になります。とはいえ、巨大な入り江になっていて普段は誰も……、魔物たちも来ませんからご安心を。』
その言葉に甲羅の縁から下を見てみると水深の浅い砂浜というか大陸棚というかという状態でいつの間にやら……だ。
さて、成長期に入った俺を含めて、男子も女子もお互いが呆れるほどの食べっぷりで、層庫に入れていた羽釜が既に三つは空になっていた。
そして、メインのカレーを作っていた俺の隣には今、アトリがいて料理をしている。
ポロッグの肩の部分を切り捌いては、デンプン、卵、パン粉を付けて次々と揚げていく。フライヤーもゴーレムで出来ている。温度調節もお手の物である。
トンカツが出来上がり、ついでにコロコロッグでミートコロッケやミートボールを作っていくと、カレーに乗せては食べていくという強者が登場していた。
よほど腹が減っていたようだな……、ショッツもユータクも。
野菜はゴーレムハウスの菜園から産出されているので、サラダで提供されています。
自分も皿を出して、カレー三昧しながら疑問に思った事を聞いてみた。
「アトリ、何故、ここに?」
エドッコォ領の侍女だったはずなのに、と思っていたからだ。
「これを。」
そう言って書簡が渡される。タク・トゥルから……。
何事かと思いながら、書簡を開けて読んでいく内に、顔が青ざめる。曰く、熱意を感じて、侍女長になった者を紹介するとあった。側仕えとして、命じてあるとも。
『お子は多い方がよろしいので。』とも書かれており、………マジかよ………orz と思ったのは確かだった。
だが、ここで彼女のスキルを生かしてくれるのであれば、それはそれで有りかも知れない。エドッコォ領でのメニューが再現できるのなら、最強のパートナーである事は間違いない。コヨミとも、リメラやリウスとも面識があるし、他の連中とも何回かは、領内に帰った時に顔を合わせていたりする。
何より、シノブさんが頻繁に来るのに、アトリを遠ざける意味が分からない。
しかも、あの文面を読まなくても、彼女の気持ちを知っていて黙っていたのは俺なんだから、な。
親父のところの侍女として確立されていたために、手が出せなかったとも言えるし、ガルバドスン魔法学院では身の回りの世話は自分自身でやるのが貴族に対しても確立された規則だった。
だが、側仕えですか?
画策してくれるね、彼も。
まったく、あの状況や困難をみんなの力で排除してきた現在の俺の状況も、考えに入れて欲しかったかも………orz
そんな俺の心境を嘲笑うかのように、片方では珍事件が起きていた。
カレーという食事を興味深げに見入る魔物たちの中、特に何ともなく食べている強者がいる。前世で俺が関係している従魔たちだった。
どいつも当時の俺の食事中に、乱入してきていた連中だ。
「か、亀がカレー食っている………」
「ロック鳥も、雪狼もかよ………」
みんなが絶句しておりました。
居たたまれない空気にどんどん変わっていくようです。
「若気の至りです………orz」
前世の俺の所業が知れ渡った瞬間でもありました。
前世ではペットだった彼らは俺と同じ食事をしていました、はい。
「『まぁ、あるじ様のお陰でわたしの食事は何でも良くなったので長生きになっている訳なのですが……』」
ゲンブのフォローを戴いたが、焼け石に水であった。
まぁ、なんやかんやあってカレーライス大会は終盤戦に。
満腹でまったりしているところで、ゴーレムボックスからシューアイスを取り出して食べ始めると、ナンノキの母が降臨した。
『ナンノキ、早く確保するのです。』
体である木の肌に青筋を立てて、ナンノキの母様のそのお言葉は頂けませんな。あなたにそのスイーツに関しての権利はございません。
ナンノキの母様の醜態に一同唖然としていましたので、ゴーレムボックスの起動を停止いたしました。
『ああっ………、いったい何を?』
それを言いたいのはこちらなのですが。
「『えーと、ナンノキの母様は何をしにいらしたので?』」
ひとまず懇切丁寧に、お伺いを立てました。というか、なんでスイーツの事が分かったんですかね?
『決まっておろう、ナンノキの報労分をわたしが頂きに来たのだ!』
いかにも何ともな言い分にナンノキが身を捩る。
フム。と、一つ頷いて俺は告げる。
「『残念だが、それは俺の中にあるルールに違反する。ナンノキが自ら母様に差し出すというのなら、俺もそれは問題として問わないのだが、まだ彼は自分の報労分を取っていない。そして、何もしていないあなたには、俺としては何の報労分も渡せない。お帰りください。たとえ、あなたが偉大な世界樹の木だとしても、俺の決めたルールには関係の無い事です。』」
その言葉を聞いたナンノキが母様との間で板挟みになって震えているが、これについては仕方の無い事だ、諦めて貰おう。
『………、それで良いのかしら?』
と、謎かけみたいなお言葉を頂いた。
「『はて、母様が何か関係ある事でも成されましたか?』」
『さきに報労を頂こうかと思ったのですが、仕方ありませんわね。では、お邪魔いたしました。おほほほほほ』
こちらが煙に巻かれている間に、ナンノキの母様は階段を下って行かれたのであります。
その行動を、従魔を含む全員が理解した時には地獄のような静けさが漂っていました。
「えーーーーー、何じゃそりゃあ!」
ナンノキを含めて、それはそれは大絶叫でございました。
つまりは、十八階は世界樹様が関係している何かのようです。
という事はここで挫けている場合では無く、確実に英気を養っていかねばならないという事のようです。
ゴーレムハウスを召喚いたしまして、確実に全員の魔力が復活するまでは甲羅干しをさせて頂きましょう。亀の上だけに………。
それになんといってもここの気候は、南国リゾートみたいですから。