104, ダンジョンで、……攻略は、十八階へ ①
途轍もない大きさの魔物を生きたまま海上に打ち上げさせるというのは、非常に大変な作業でした。俺の周りはキスで魔力の受け渡しをしてくれた女子が数人と、手繋ぎで渡してくれた者多数が魔力切れで死屍累々という状態を晒していた。
俺もこちらに生まれた頃は魔力が切れた次の日には、それに増して魔力が増えているといった現象を体験しているから今ぶっ倒れている連中もそんな状態で復活するはずだ。
現状、俺の魔力量はハンパなく増えてしまった。枯渇すると同時に満タン状態まで戻るというのを繰り返していた訳だからだ。あの戦争直後に七、九〇〇万を超えていた魔力量は今回の一件で三倍近い数字になってしまっている。
まぁ、色々あったし………良いか。
そう考えながら、ゴーレムコンロを取り出しタマネギを炒めていた。魔力で火の付くタイプだが、今は魔石で代用している。
ま、腕の付いたコンロというべきか?
ジャッジャッと良い音を出しながらキツネ色になるまで炒めている。人数が多いから、ゴーレムコンロは五台。
一台は直径三メルの特大の羽釜でご飯を炊いている。炊きあがったら、それをそのまま層庫に入れて次の羽釜を作り出して炊くというのを繰り返していた。
次いで一台はカレーの素となるスープを作っている。野菜やカウエルのもも肉、塩、こしょうを少々、ぐつぐつ煮えながらあく取りはゴーレムの腕。
カレーの好みもそれぞれだろうから、スープカレーでもとろみのあるカレーでもいいように作っては層庫入りを繰り返していた。
結局のところ、俺の関係者?である銭亀のゲンブである事が分かったのだが、実質のところアイツとの付き合いはそう長くない。俺が世話していた時は初等科の初期三年くらいで、その後は所属していた初等科の行動展示用に寄贈したはずだった。
ただ、その初等科にいた行動展示用の動物の数種が、俺が成人したその当時に進められていた計画―宇宙空間に大地を建造する計画―によって、世界各地から持ち寄るという事に参加した事は聞いている。
もっとも、その当時は何が宇宙の大地に運ばれたのかは知らなかったからな。
いま聞いてびっくりしていた。
『わたしたちが長命種だという事にどういう訳か誤解されて、宇宙に作られていた水槽のヌシにされたんですわ。よく言うことわざ、アレが妙な説得力を発揮しまして……。』
ゲンブの言葉にナルホドと相づちを打つ。「鶴は千年、亀は万年」だろうな……。
『あの地球の壊滅時にわたしらも新天地へと向かうためにその水槽ごと移動させられたんですわ。あるじ様の世話のお陰で、わたしの食べ物は尽きる事も無く過ごせたんですわ。結構長い時間生きてましたけど、気がついたらここで魔物やってました。』
そりゃあ、お疲れ様だったね。
そのゲンブが言うモテ期? は、その頃の事だと思う。
だが、そんなにモテていたようには感じられなかったのだが、女の子の幼馴染みたちは凄い近くに居たのは覚えているが………それの事か?
「ゲンブって、亀さん?」
しまった……、ここにその頃の関係者がいる事を忘れていた。
ようやく、目の覚めたマァミ・サーサ・パーラーがボソッと聞いてきた。
彼女もミズィホ・カナクィもマァサン・ミャシィトも、幼き頃の関係者だった。
てか、良く覚えていたな? マァミ。
「まぁ、そういうことだね。」
『あるじ様、そりゃ覚えていると思いますよ? わたしを持ってガ○ラ~とか言って手に掴んで追い掛けてましたよ?』
ゲンブの言葉に一瞬、俺は言葉が出てこなかった。
『俺、そんな事してたんだ……。』
あの時の俺は、そういうことばかりしていたかも知れないな………orz
「………それでゲンブの本体は、この大きさだという事でいいのか?」
少々疑問に思っていた事を聞いてみる。あまりにデカいのと、背中に階段を二つくっつけているからだな。このままで、移動するというのはちょっと有り得ないからな。
『いえ、本体は以前よりかは大きくなったとは思いますが、いまあるじ様の立っている場所は、わたしの外装という事になりますか? わたしの本体はこの外装の甲羅七枚分の大きさです』
そう言われてアチコチ見てみると、今、俺が調理しているところが他の甲羅よりやや黒い………。ってか、ここかよオイ!
『ひょっとして、俺お前を踏んでいるのか?』
そう問い掛けると、
『ハァ、その様で。』
早く言えよ。調理が終わるまで避けられねーじゃないかよ。
ゲンブと会話していたら、続々とカレーの匂いに気付いて幽鬼のごとく立ち上がってくる者が多数おりました。どこから取り出したのか、皆それぞれが器を持って並んでいました。そいつらも、ゲンブを踏んでいますから一段落するまで無理でしょうかね。
『あるじ様の懸念は分かりますが、この外装も便利なんですよ。甲羅をポップアップします。』
そういうと少し、離れたところにある甲羅が一枚垂直に移動し、その近くの甲羅が半分ほどの高さに上がると、テーブルと椅子として使えるようになっていた。
『なるほど、……便利だな。』