わたしたちはアルケニーである
わたしたちはアルケニー、名前はまだ無い。
ヒト族の体に似た部分を持つクモの魔物である。
お祖母さまには名があるが、わたしたちにはそこまでの自意識は薄い。
まだ生まれて間もないからだ。
長い年月というとお祖母さまに叱られてしまうが、生まれて一、二年のわたしたちにはそこまでの自覚がない。魔物の中では弱い部類に入るからだろうか?
生き延びて次の世代を産む事が出来れば、そこで天啓のように閃くらしい。
ただ、お祖母さまは種族の中でもごく初期から名を持っていたと言われている。
『わたしはテュッキア・ラダ!』って、言っていたほどの肝っ玉祖母ちゃんである。
それが、二年ほど前から、このダンジョンに籠もっていたはずのお祖母さまが消息を絶った。
とはいえ、ダンジョンには、【ちょっとヒト族の世界に行ってくるわね】という書き置きがあったのでそんなには心配していなかったのだが、最近久し振りに何やらヒト族の気配がしたので、ダンジョンにある通路からヒト族の結界(ヒト族は障壁と呼んでいるもの)の前に姉妹たちと集合していたら、身なりの良いヒト族の少年が出て来た。
『光よ』という言葉とともに、いきなり目の前が明るくなって私たちは眩しくて顔を手で覆い光を遮っていたのだが、その身なりの良い少年は鼻血を噴出すると、バタンと倒れてしまった。
『何?』
その後も入ってくる少年たちが鼻血を出しては倒れていき、不審に思ったのであろうヒト族の少女たちはその異変を見て同族であるはずの、同行している少年たちを殴り倒し始めた。
それを見てわたしたちは何の病気なのか怖くなって震えていたものだ。
『ヒト族の少年は病気持ち?』とか、『ヒト族の少女たちはバイオレンス?』とか、『ヒト族って怖っ!』とか、わたしたち思っていました。
そうこうしている内に身なりの良い少年とネコ耳族の少女が二人、ヒト族の少女が何やら言い争いを始めた。少女たちの顔が赤くなっていくではないか、流行病の類いかと思っていたわ、わたしたち。
事態が進むのをずーっと待っていたわ。
そうしたら……。
「「「セトラ「ちゃん「「叔父様」」」が好きです。お付き合いしてください。」」」って、三人の少女たちが大告白~!
何故かわたしたちも胸が高鳴る。
っと、あそこにいるのはお祖母ちゃん、何で? 変なモノ着てるの?
でも、モノは良さそう!
『あれ、ロック鳥のダウンで出来ている……?』
そうボソッと言葉をこぼしたのは末の妹。簡単な鑑定を持っている。
でも待って! ロック鳥ですってこの大陸にいない魔物でしょう? 確か北の方の白い大陸の尖ったところにいるって聞いているわ。どうやって、そんなの取ったの?
『あの少年の肩にいる小鳥……、ロック鳥ってなっている。』
聞いていて、妹の鑑定が暴走したのかと思った。だって、ロック鳥っていったらスッゴイ大きな鳥だって聞いていたから。
「スイーツで乾杯するわよ!」
という言葉にハッと我に返った。
す、すすすすすす、スイーツと仰いましたか?
ヒト族の町で最近スイーツなるモノが流行っていると聞いていた。小さな箱から出てくる黄色い衝撃とか言うものや、ネコ耳族が夢中になるという魚の形の焼き物だとか凄く噂になっているのだ。
何故か知らないけど、その『スイーツ』なる言葉に心が躍ったわ。障壁の外側には、わたしたち姉妹が鈴生り。なのに、障壁の中では、お祖母ちゃんがパクついていたから、つい口走っちゃった。
『あー、おばあちゃんだけぇー、ずるぅい!』という声に、つい反応してしまったのは身なりの良い少年。
お祖母ちゃんの方を見て、吹き出していた。
「お、おばあちゃんだと………ぷぷ、ぐほぅっ………。」
八本足の移動速度は目にも留まらぬ速さで………、神速のライトフックが炸裂した。
少年が高々と打ち上げられ、口走ってしまったわたしにも鋭い視線が。こ、怖~い!
そのあと、水竜が出て来たり、ドラゴンが人化したのが出て来たりしたが、そんなには驚かなかったのだけど。お祖母ちゃんまでが人化したのには、驚いた。
でもそれよりも、何よりもあの絵の本の綺麗なヒト族の姿に魅了された。
わたしも、お祖母ちゃんみたいになりたいな……。
『お祖母ちゃん、あの少年の従魔になっているの?』という、末の妹の言葉に何故か確信した。
『そうなのだ。』と。そして、スイーツをゲットするのだ!
『『『『『『『『『『『『『『わたしも従魔にして!』』』』』』』』』』』』』』
何のことはない、姉妹全員が従魔になった。お祖母ちゃんは苦笑いしていました。
「三人の恋人に、人化した従魔が十四人かい、ハーレムだねぇ。」
ヒト族の言葉で話すお祖母ちゃんに、むくれる少年はあるじ様になったが、最初の言葉は一言だけ………。
『スイーツ食いたければ、早く服を着ろ!』
イメージが伝わってきて、納得した。だからヒト族の少女たちは、服とやらを着ているのか、と。わたしたちには、本来隠すべきものでは無いけど、ヒト族の中では、優劣が生じるモノなのだという事に。現在、倒れている者たちにとっては毒なのだと。
『目の毒? わたしたちは毒なんて持っていないけど、ね。気の毒なヒト族たち………。』
『お前らもいずれ分かるさ、その時が来ればな。』
そう言ってあるじ様は笑っていた。
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読んでくださっている方々、ありがとうございます。
なかなか十七階に進まないなと思っていたら、これが浮かんできました。
さてさて、これからは登場人物たちも思春期。
何が起こりますやら………orz