98, ダンジョンで、………新規攻略、十五から
一年ぶりの剣虎の階、連れて行った刀狼、角狼、短刀虎たちの各群れから来ていたチビ剣虎たちと同じ年の子は、オスメス一匹ずつ付いて来ていたが、一年を経過した事で、ある程度の技量を持った存在になった事でそれぞれの集団へと戻っていった。魔物の幼稚園は終了かよ?
そう思っていたのですが、戻っていったはずの連中が、群れから離れてまた俺のところに戻ってきます。なんで? 君たち戻ったんじゃないの?
『『ミャウ!ミャウミャミャミャオゥ』』
と、短刀虎のオスメスの二頭と。
『『『『アウ!アゥオウゥオゥアォオゥ』』』』
と、刀狼、角狼のオスメスの二頭が従魔に加わりました。いいのかよ、おい。
こちらとしては戦力が高くなるからいい事はいいのだが、早急に召喚術とか勉強しなければ。あぁ、回復術もヒールとその上のハイヒールは何とか覚えたし、こちらの方も覚えていかなければなるまい。火モグラたちにガルバドスンの講堂にでも風貝を仕掛けさせようかな。
いや、それ以前に次はテュッキアの居た階だ。何が出てくるかは分からないが、用心に越した事はない。心して、掛からねばなるまい。
十六階への階段を降りて、扉を開けた瞬間は暗かったので良かったのですが、あまりに暗かったので後続に居た誰かが『光よ』と魔法を唱えたのです。
そこは桃源郷だったのかも知れません。アルケニーの皆さんがセーフティエリアの障壁にくっついてこちらを見ていました。
再び、俺は血の海に沈みました。
「お、おい、セトラ。どうしたって………」
後続の男子諸君はいきなり倒れた俺をみて怖気を振るったようですが、彼らも正面を見た瞬間、同じように血の海に沈んだのです。
一緒に出て来た婦女子諸君は、「スモーク」とか、「ホワイトアウト」とかの魔法を瞬時に構成した人も居たようですが、それよりも自分の拳を使って、男子諸君を力尽くで沈めた人が多かったです。
「ロケットアッパー!」「シャイニング・スクェア!」などという言葉が飛び交っていました。
ともあれ、ぜいぜいと息を切らして立っているのは女子諸君。
幸せそうな顔をして、気絶しているのは男子諸君という構図が出来上がっていました。
破壊力のあるボンキュッボンもイイですが、控えめなソレもまた……よしでしょう。
「で、セトラちゃんはそこで何しているですか?」
コヨミ姉ェの言葉が、壮絶な怒りとともに倒れていた俺に降ってきた時は、ものすごい寒くて身動きできませんでした。
『何故………、見抜かれたんだ………?』と、そう思っている俺にさらに冷静な声が降りかかる。しばらく、その存在感を忘れていました、プのネコ耳姫様たちのスキル、兎耳という地獄耳、片目で見たら何気にレベルが上がっていました。
治療順番を決めなければと走り回っていたという事ですか?
酷く荒い心音になっている中に平静なリズムを刻んでいる心音があれば、そりゃバレますなぁ。でもこれはちょっと………。
「まあ、じっくりと鑑賞していたのは認めましょう。ですが、あなた方のその殺気は一国の王に向けていいレベルのものじゃないですよ? それに、あなた方に何の権限があってそういうことをなさるのでしょうか。お聞きしたいところですね。」
少し穏やかではない言葉になったのは、明らかな殺意の混じった視線と言葉に、少々行きすぎたものを感じてもいたからだ。
鼻血は確かに噴いたが、倒れる寸前にハイヒールを掛けてある。横向きに倒れていたから、障壁の向こうを鑑賞するのには、支障はなかった。
まだ六歳という身で、そこまでの性衝動的なものは無い。ああ綺麗だなとしか思ってはいない。
ただ、他の男子が倒れたままなのに、平静で起き上がってもそれはそれで問題ありかと思う。まだ明確に誰を娶るとか、そんな話など微塵も出ていない身の上では、ね。
「正式な申込みも申し込まれもしていないのです。その上での殺意というのは少しやり過ぎではありませんかな?」
「「「……………」」」
「セトラ、アンタも言い過ぎだけど、コヨミたちもねぇ……。」
黙ってしまった彼女たちに、シノブさんが近寄る。何かコショコショと話していた。
「言いたい事があれば素直に言ってしまわないと、後悔するだけよ?」
シノブさんの実体験ですからね、ソレ。
ずいぶんと迷っていた三人の女性と言っておこう。
「「「セトラ「ちゃん「「叔父様」」」が好きです。お付き合いしてください。」」」
真っ赤な顔での告白に周りからはオーッという歓声と拍手が………。
「女の子にこれだけ言わせたんだ、よもや「イヤ」とは言うまいね?」
シノブさんの脅しが入るが、この場の雰囲気で断れるものですかい?
障壁の向こうのアルケニーさんたちもガン見しておられますがな。
「むぅ……。分かりました、承りましょう。ですが、俺としてもまだ六歳ですから、その辺よろしくお願いしますね、お姉様方。」
俺が受けたのは嬉しいらしいが、ただ、最後の言葉にはショックを受けていたようだ。
「あぅぅぅ、恥ずかしいよぅ。でも、嬉しい!」
というコヨミ姉ェの言葉が複雑な心情を語っていた。
シノブさんが呆れたように、
「あの人の子供らしいよ、アンタも。その年で三人かい……。」
そう言っていましたが。
そういうシノブさんだって、熱烈大爆発だったって聞きましたよ?
「アイツはバラしすぎなんだよ、もう。」
そう言っている顔は幸せそうなんですけど、ね。
は~、アツイアツイ。




