94, ダンジョンで、………新規攻略、一から
大量に従魔を引き連れていった第一陣を呆然と見送ってしまった。
その、一大戦力に慌てた俺は、
「従魔の力は極力借りないでくださいね、そんなの無くても十分に攻略可能ですからね。おやつポイントには、なりませんよ!」
と、釘を刺しておいた、どのくらい効果があるかは分からないが………ね。
「ファ、火球きゃあ?」
詠唱をしようとしたジュウンに、レイが飛びついて口を塞いだ。
「「みんな、忘れちゃ駄目だよ、撃つなら生活魔法だからね!」」
レイとルナの言葉にハッとする。
ただ前回の失敗の轍は踏みたくなかったようで、イクヨの気象の知識を利用した水魔法を全員で掛けては、探知し、近い魔物だけを駆逐していくやり方に変更していた。
仕掛ける魔法は、生活魔法か初級魔法。
「チッ………、覚えていたか。減点しようと思っていたのに。」
ぼそっと呟くと、顔色を変えてみんなに伝達していく者もいたけど。
「えんま帳、開いているよ! 注意して!」
と、まあそんな感じで、一階のスライムは簡単に突破し、二階へ。次はダイマオウグソクムシ。テンションが上がるかと、期待していたが、期待外れに終わってしまった。
なぜなら、二階の魔物はレンタルだからだ。
パレットリア新国のダンジョンからのレンタル。
それも、第一陣の彼らが専属で世話をしている個体を、わざわざレンタルしてきていました。
気付いた時の第一陣の顔。それは、見物でした。
だって、キューキュー鳴きながら寄って行ってしまうんだもの、それぞれの相方に。
それを見た瞬間に、全員が癒やされていましたよ。
一頻り世話して、後ろ髪を引かれながら足早に次の階へ急ぐその姿にホロリときたなぁ~、俺。
「ウソ! 狙っていたでしょ!」
まあ、その通りなんですが……。
三階のダイマオウイカは所在不明で、ダイマジョオウイカは魔王の背中に引っ付いていて、後任のマオウイカたちは王座争いで、ほとんどが瀕死状態。
しばらくは無法地帯のままです。
ダイマジョオウイカによると、
「あたし、知らな~い。頑張ってねぇ~。」とのこと。
変われば変わるモノです。
四階には毒素の吹き出す池があったのですが、ポッツリとアスパラのように立っていた世界樹の若芽の若様ナンノキと出会った場所。
また何の木か知りませんが、立っていました。
それを見て(どこに眼が?)、ナンノキが仰け反っておりました。
『キ、キギィキィキ』
若様の母上って事は………。もしや世界樹さまですか?
『ギィギィ、ギィギィ、ギィギギギィギィ』
若干幹の太さがナンノキよりは確実にあるそのお方?は、ナンノキに向かって怒りの波動を叩き付ける。ナンノキが縮み上がっています。
『ナンノキの母上殿か? 初めてお目に掛かる。ナンノキのあるじをしているものです。あなたが今おられる毒の池で、俺が踏みそうになってしまいまして、でまあ、彼が焼かれていくのを助けた次第ですね。』
そう言って助け船? に入ると、不思議そうに呟いた。
『ナンノキ? ナンノキとはこの者の事を指すのか? あるじと言ったか? 何を以て契約などしたのだ、この者は?』
呆れた口調で想転移にも動じていない、たいした方?だ。
『ちゃんと若様らしく、俺の言い訳も聞かずに手打ちを為されようとして、毒に焼かれたのです。ですが俺にも責任有る事ですし、そのままにしておく訳にもいかず、当座の契約金として、ワームコイン二枚とフラレンチ・トゥストを二枚渡していますね。ナンノキと名を付けさせてもらっています。』
あの時の情景を思い出して、詳しく告げる。
『ワームコインとフラレンチ・トゥストというものを見せてもらいたいが良いだろうか?』
なんか、家庭訪問みたいになってきたな。若様のナンノキは何か木の体を捻っているが、アレは恥じているというのかな?
『ああ、これですよ。』
そう言って層庫から取り出したのは、ナンノキに出したワーム・コインと新型のオムレツバージョンのフラレンチ・トゥスト。
小さな皿に盛って、渡したら、クルリと回るうちに一つずつ消えていきます。
『むうっ………、こ、これは………。』
何やら唸っておりましたが、というかナンノキもそうだけど、どうやって食べているの?
今回のフラレンチ・トゥストは、ほぼ五センチ角の超ふわふわバージョン。
周りでも「うわっ、美味しそう!」とか「ああっ、あれは!」とか言っていますが……。
『今まで食した事の無いほどに、美味しかったわ。これほどのものなれば、あなたが魅了されるのも仕方ありませんね。今後もこの方に助力しなさい。一族の者に了承を貰うためにも、あなたにこの洞を渡します。確実に送りなさい。いいですね?』
そうナンノキに告げるナンノキの母上殿です。しっかりしておられる。
ナンノキが、了承の意を震えて伝えていた。
その直後に、フラレンチ・トゥスト新型のおやつ祭りになりました。
ナンノキの母上殿もクルリと回って食しながらも自分の洞に入れていくのをナンノキが唖然と見ていました。
お陰で彼らの口がどこにあるのかが判明しました。洞の他に唖然とした丸い口が開いていたからです。
次は五階ですね。どうなっているかな?