88, 大暴走《スタンピード》 ⑫慟哭
その落雷で、失われていた視界が戻った時、そこに居たのは彼女の慟哭をその身に受けている黒焦げの男たち。
回復魔法を学んでいればと、ひどく後悔したのを覚えている。
彼女のその慟哭に俺は引きずられ、目の前のアリジゴクを含めた下のヤツに痛撃を与えた。『源の黒』を『源の白』の魔法で黒く塗りつぶすくらいには、怒りのこもった攻撃だったと思う。
今となってはそんなことはあまりにも、どうでもいいことだった。
ヒリュキと、魔王の……………生きていない世界では。
「アアアアアアアアアアアアア!」
パットの慟哭が響き渡る。
立てなくなったその姿は、天を睨んでいた。泣いていた。いや、啼いていたのだ。
自分を護って……、その命を散らした思い人たちを思って……。
彼女のステータスが、その称号がめまぐるしく変化していた。
幼き理解者、嘆く者、掴む者と変化し、音妃、波動姫、多岐音召へと変化した。
自分の能力の限界を超えて、自分が出来ることを探し求め続けていたのだと思う。
称号の変化は、それを表しているのだろう。
そして、彼女は見つけてしまった。
いまの自分を助けてくれる………、彼らを。
後から考えたら、その時の俺は聴牌っていたのだと思う。俺たちには、いつも助けてくれる仲間がいるのだということに気付けなかったからな。
それだけ、俺たちが受けた衝撃は大きかったということだな。
彼らに関しての全てを諦めかけていた俺の枯渇しかけていた魔力がフル充填され、それが何かの魔法に装填されていく。
「何が……」と思って顔を上げると、何かを見つけたパットの強い意志の籠もった眼が俺を見つめていた。
「見つけた……。力を貸してくれる人たち。だからお願い……セトラくん、私たちに力を貸して! 召喚して!」
そう言って繋ぐパットの手からは何かの魔力的なパスと魔法力のパスが繋がった。
「我ら望む者。我らの望みを叶えし者を望む者。時の彼方より来たれよ、捜転移!」
パットの膨大な思いのこもった魔力で紡がれた俺の転移魔法は、彼らを呼び出してしまった。
光の扉を開いて……。
ヒリュキと私は満足していた。
だって、好きな女の子を守ったんだぜ、そこは当然というものだろう?
障壁を二枚とも抜けてくるとは思わず、自分の魔力でも抵抗していたが、それも限界に来てしまった。どちらかが、残っていればまだ、パットの心を癒やすことが出来ると思っていた。………思っていたんだ。
だから、いま……悔やんでいるよ。好きな女の子を、みんなを悲しませている。
だけど、セトラ。お前の層庫に切り札があったっていうのに、忘れているぞ。
もっとも、一人しか………出来ないけどな。
シャイナーと僕は満足していたんだ、彼女の悲痛な泣き声を聞くまでは。
好きな女の子を守って、でもこれは………、くそぅ。情けない自分に腹が立つよ。
見抜けなかったんだから、自分の能力を過信していた。
ああ、そうだね、若様が持っているかは分からないものな。でも、シャイナーまでパットが好きになっていたとは……。気付かなかったよ………orz
でも、パットは全てが上手くいく方法を探していた。
探してしまったんだよな、僕たちのためにさ。
でも、これからは、そんなことはしないし、させない。僕たちのためにフタを開けてしまった彼女のためにも、絶対に。
そう、そうなの、私はいつも失敗している。気付くのが遅い?かも知れないわね。気付いた時には、二人を好きになっていた。命の限界の場所で、お互いに命を賭けながら、二人とダンスしていたような気がするもの。そして、その時が来ても二人の元を去ることが出来なかったわ。ズルいのね、私って……。
二人の息の合ったダンスに嫉妬していたのだと思う、そして、唐突に切られた繋がり。あの戦いから二百年もの間、私は、孤独だった。仲間たちに祝福されても、家族を得ても、子供を授かっても、わかり合えていたお前たちが居ないことに、悔やみ、嘆き、苦しんでいたんだ。でも………、あの戦いが無かったら、私たちは出会えていない。
私はお前たちに出会えて嬉しかったんだ。
ふ、知っていたさ。戦闘の度に君は綺麗になっていくし、戦闘の度に戦っている君たちのダンスが上手くなっていることに気がついていたさ。言葉ではなく、心の琴線がお互いに調律されていったことに僕は嫉妬していたよ。僕は、ライデン教授の作ったあの機械に心を乗せてパットと一緒に戦っていたんだから、ね。
僕も君に、君たちに出会えて嬉しかったんだと思う。
だから、私(僕)たちは、もし生き延びることが出来たら、遠慮はしないよ。
さぁ、招待状は届いた。
踊る相手は決まったか、諸君。さあ、舞踏会への扉を開こう!