85, 大暴走《スタンピード》 ⑨
お待たせしました。
目の前に浮かぶ映像が小説の元なモノですから、
少々大きさに戸惑い、時間が掛かりました。
『オオオオオオオオ…………、『源の白』の使い手め、その力の強さ感じるぞ。我が配下に告げる! あの使い手に全力で攻撃し、討ち果たせ!』
『源の黒』の使い手であるボスの下命に『応!』と答える多勢のモノの中に、『こ、これは……』と、呟くひとりのモノが居た。
なぜか『源の黒』のボスが言うような『源の白』の使い手から自分たちに近しい黒を感じていたのだ。だが、本質に近いところはやはり『白』のようなのだが、その使い手の近くからは自分たちに似た波動を示すモノが多数感じられた。これは一体どういうことだ?
だが、ソレ以外は『源の黒』を宿すモノからの命により、小さき黒のモノが寄り集まって体を成すと、大きな顎を持つ地中の殺し屋が形作られたようだ。
そういうことが何故か、俺の目の前に鑑定の画面が起動し映像として見せられていた。
その鑑定のサブ画面で、闇と無が強く反応していた。俺の中の『黒』の部分のようだな、人というモノの成り立ちということか。普通の人は本来、そうでもないのだろう。
だが俺はこの魔法士のレベルが高いからか?
思考している間に、前世の地球のニッポン州でもお馴染みだった昆虫のアリジゴクが大きさ三十メルで、タクラム砂漠の中心部にある煙突状になった空洞を地表目指して駆け上がってきていた。
空洞の大きさはアリジゴクよりも一回り大きい。その内側の壁を黒玉虫という魔物がびっしりと埋めていた。ソレを足掛かりに相当な速度で上がってきていた。
ということは、俺たちが居る湖の大きさよりも大きいということだ。
本来なら、空洞が出来た時点で俺たちは下へ落ちているはずだった。
そう、本来なら、な。
しかし、ちょうどの間際で仲間になった者たちの力が物を言っていた。
土蜘蛛とその子供たち、そして、アルケニーのテュッキア、彼らの蜘蛛の糸は頑丈でしなやか、岩と石で出来ている湖が乗っかっていても揺らぎもしないほどの物だった。
空洞の中心部に浮かぶ三十メルの直径の湖と魔法陣のちょうど真下から上ってきていたアリジゴクなる『黒』の魔物。
そこにルナが発動中の魔法をぶつけた事になる。
しかし次の瞬間、アリジゴクの大あごは三十メル直径の湖を真下からギリギリと挟んでいた。三重の魔法陣を組んだソレを外側から挟み込むほどに巨大な魔物に先程までの威圧感を薄れさせていたア・クラツ王と魔法士四天王の方々には退場して貰うとしよう。
なぜなら、魔法陣に呼び寄せたア・クラツ王とその配下の魔法士四天王は、自分たちの理解の範疇にない出来事に二回目の魔法の発動を起動できないでいたからだ。
まぁ、無理もないか、失伝されたはずの長距離転移魔法の存在と、タクラム砂漠での大アリジゴクによる怪異と攻撃。
心が折れないだけでも良しとすべきか?
「この程度の魔物に萎縮しているようでは、到底僕らの相手には不足です。このまま国に転移しましょう………。はて、何ですかね、その目をする意味は……。ああ、僕らが足掻くところを見ていたいのですか?」
そう突き放した言葉に刺激されたか、ア・クラツと四天王の一人のアンフ・カンがムッとした目を向けてくる。
「よくも言ってくれたな。ここまで付き合わせてくれたのだ、我らには事の顛末を知る権利がある。つんぼ桟敷ではないところで、その力とやらを見せて貰うぞ。」
そう言って動こうとしたが魔法陣に括られているのにどこへ行こうというのだか………。
そう思ってジト目で見ていたら、「早く我らを転移させろ」とは、どれだけ、強気なのやら。
まぁ、大勢に影響の無いところで見ていて貰ってと、パレットリア側の一角に転移させました。その場から動けないように少々場所的には高いところですが、眺望は確約出来るはずです。そして、逃げられません。
直径と高さが共に十メルの塔で、階段などはありません。床暖房の石を取り出して十メルの高さに組んだだけですから。
さて、雷塵を受けた昆虫系の魔物の場合、その体内を血流(?)として巡る銅水溶液が強磁力によってイオン化し、その行動を阻害させるはずなのだが、やはり大きさによる物かそれとも別の要因かは分からないが、アリジゴクの大あごはいまだ活動していた。
それに続く形で砂漠の中心地の地中深くから黒玉虫が螺旋状に上ってきていたようで、ルナが把握した魔法の雷塵を受けて破裂しているのだが、それでも時折無事に出てくるものもあり、皆が対処に翻弄されていた。
「そっちに行ったぞ!」
「わぁ、出て来た!」
「何でこんなに堅いんだ?」
と、まぁ様々な言葉が飛び交っている。
空洞の壁をよじ登ってきていた黒玉虫は、その一部に動揺が見られたので状況を確認していたら、そこには従魔のダイマオウグソクムシのタマちゃんの姿が………。
『僕たちのあるじ様には手を出させないよ!』
そう言って、触覚で相手をツンツンし、それで得られた情報を周りの魔物たちに発信していた。
『この子ら、黒真珠虫だよ』と。
『!』
その情報を得た猫系の魔物や獣人たちは、猫パンチで掬い上げてはディノが作った即席の直径十メル深さ二十メルくらいのサイズの水を張った池に叩き込んでいた。
その必死な様子から、また何か有用な資源でも見つけたのだろうか?
なんと言ってもプのネコ耳姫様たちが必死の働きです。
「黒真珠虫……、どのくらいのを抱えているのかしら……?」
その響きにこちらの魔法陣の連中がそちらに行きたそうですが、今はストップを掛けておきます。
「こらこら、どっちを向いている? 目の前の脅威を取り除かないと、ご褒美は貰えないよ? 気を散らして、死んで貰っても困るので止めてくださいね。今必死こいてる君たちも魔法陣には必要なんですからね。」
もっとも、黒真珠虫からソレを取り出す時は生きたまま、譲り受けないとただの黒石にしかならないのでソレだけは伝えておきました。鑑定って便利です。