82, 大暴走《スタンピード》 ⑥
遅くなりました。
宣戦布告という言葉を言い放った俺の行動に、ア・クラツ王を含め軍議をしていた将軍も周りの貴族たちも、唖然としたまま言葉も発せず動けないようだ。
毒気を抜かれた状態とは、まさにこのことか?
「く、くく、くははははは。面白いことを言う小僧だ! この俺の前まで来て言う言葉がそれ、か。」
ようやくア・クラツ王が言葉を振り絞った。そして、何やら手信号をすると大声で命令を発した。
「そこの愚かな敵の王を引っ捕らえぇい!」
と、宣った。
エラく大雑把な性格だな。軍議の間にどうやって入ったのかという理屈は後回しのようだな。大体、普通に考えて王様が一人で来ると思うか?
報告を受けた魔法師団の上層部の人?とか、そこに居た将軍職の人とかが、ぞろぞろワタワタとやってきては杖や刀を向けて取り囲んでいる。さてさて、シュッキンの障壁はどうなるかな?
「へぇー、大層な城構えの割には、客にお茶菓子も出せないような財政状態なんですかぁ? 大変なんですねぇ。」
ここは、その心根を揺さぶっておくベきかな?
この国の城は立派なものである。
砂漠に面している方は白い磁器タイルで覆い、海というか崖の方に面している方は波飛沫による浸食を受けないように空色をした磁器タイルで埋め尽くされていた。その近くに旧城が建ち、海水に含まれる塩を精製していた。その精製の途上で出るミネラルや栄養分をフィルターなどで漉した後に出る水が、この国の豊富な水道として存在していた。
「ふん、ご託はいい。こんな所までのこのこと出て来た者の末路を教えてやるがいい。殺せ!」
その言葉にまず魔法士が杖を構え、何やら呪文を詠唱している。
貫通した場合のことを考えて、どうやら、捕縛系の呪文のようだな。
だが、それは……。
「ふうん……。まずは歓迎の花火ですか? 僕はひと休みさせて頂きますね。」
そう言い放つと、層庫から手のひらに載る大きさのガラスの器に揺れているプリンを取り出して食べ始めた。
「! あれは……。まさか……。」
何? 周りの貴族の奥様方?が、ざわめいている。なんか変なものを出したか? 俺。そう思っていたら、やっと魔法が発動した。
「「「「「「「「「「風縛」」」」」」」」」」
あ~、それだったか………。この辺の風は俺が仕切っているから、発動すらしないぞ。
事実、そよ風ほどの風も吹かず、彼らの放った魔力はほんのちょっとの起動光の効果を発して、ただ世界に吸収された。
風の精霊たちからも『こんな血の匂いのする魔力を食べなくて良かった』と感謝されたくらいだ。シュッキンの障壁すら発動しなかった。
「タクラムから来た商会の特別便の目録に載っていた………。あちらの貴族の御用達のプリンでは……? って、あれだけの魔法を受けて無事? なんて事ですの?」
「ば、馬鹿な。我らの魔法が効かないというのか?」
魔法士の一人が、ぼそりとこぼす。
「長を呼んで来るんだ、後は四天王の方々も……」
隅の方で何かホショホショと相談し、一人が出て行った。うむ、気長な戦でいいねぇ。
では、こちらからも対抗策を。
「プルンとポヨン、出ておいで。」
ポケットに居るアダマンスライムのプルンとポヨンを呼び出す。
『プ、プルン』『ポヨン』
出て来た二人に持てる三〇セチ角くらいの大きさの箱を渡す。
『あのご婦人の所に持って行ってあげて。終わったら寄り道しないで帰ってくるんだよ。』
さっき、プリンを言い当てた奥様方の所へと送り出す。半分ずつ飲み込んで確保すると、ポンポコと弾んで行った。まぁ、刀持っている人たちは次々と斬りかかるが、アダマンタイトで鍛えられた剣なんて無いですから、単に斬りつけても弾かれるだけです。
お目当ての所の卓上に着くと、その物体を吐き出して、『プルン』が『ポヨン』に一〇〇鈴硬貨を三つ『プルン』と、渡す。『ポヨン』は『ポヨン』と受け取り、箱の角にあるスリットに入れていく。アダマンタイトのトゲを出したり引っ込めたりを十回繰り返してから、扉にある取っ手を開くと………。
『プルン』が『ポヨン』にガラスの皿に載せたプリンを差し出した。
『ポ、ポヨ…ン』と、『プルン』に感謝のチューを…って、うぉい!
演技指導をしたのはルナかなー………orz
ボケーッとしていたら斬り掛かられていました。シュッキンの障壁は問題なく作動しており、同じ障壁を持つ『プルン』と『ポヨン』を透過させて、維持されています。
『ポヨン』に出したのと同じプリンを『プルン』にも出してやり、仲睦まじく食べているのを乾いた笑いで見つめておりました。
『何をしておるか、さっさと殺せ』とか言う言葉が飛び交っていますが、貴族の奥方さまたちというモノはどうしてあんなに肝が据わっているのでしょう?
『プルン』と『ポヨン』の寸劇で毒気を抜かれていましたが、お一人が三〇〇鈴を入れてプリンをゲットすると、もう我先です。一応、『プルン』たちが設置すると、その箱の四つ脚から根が生えていき、卓の足を伝って城に碇を降ろした状態になっているので、簡単には倒れませんが。
「こ、これは………。」
俺に斬り掛かり、弾かれるというこの殺伐とした場所と、女性たちのうっとりした声で満ちあふれるという相反する行動のるつぼとなっている部屋に新たな人物が降臨した。
魔法士が付き従っているところを見ると、彼らの長のようだ。
シュッキンの障壁の中で普通に過ごしている俺を不思議そうに見ていたが、何やら見えたのか。震えて、その場に座り込んでしまった。
「お、………おおぉ。こ、この方こそ、『源の白』を従えし方。古き城の伝承に現れし方。」
そう、言葉を残して……額ずかれた。
………………はい……? 『源の白』って、何ですか?