79, 大暴走《スタンピード》 ③
まさかの三連投です。
「そう、ただではこの国には入れないんだ。言ったろ、自分が出来ることを持って、料理でも学問でも、鍛冶だって大工だって何だって、この国には必要なのさ。ただ、入る時には身分は問わないよってなっているだけ。だから、元貴族で魔獣お世話係も居るし、元奴隷で一軒の料理屋を営んでいる者も居る。きちんと名前を登録し、腕輪を受け取ることが必要なのさ。」
俺がその【奴隷】制度を説明していると、ルナ達があれ?という顔をする。
「私達は? その奴隷制度の範疇に入っていないじゃないのよ。」
「工事屋」の面々も不思議そうに首を捻っている。
「必要か? お前たちは俺の言葉に逆らって何か攻撃するというのか? 必要なら、その措置を執るけど……。いらねぇべ。」
俺の方が不思議だった。学院の仲間で、「工事屋」のメンバーで、学院のダンジョンを攻略している者同士で前世からの因縁持ちで、どこに心配の種があるんだか?
「まあ、必要なら、その腕輪だけでも渡すぞ。かなり優秀な造りだからな。なぁ、シュッキン?」
シュッキンとの合作であることを示す。その意味合いはハッキリしていた。
「ありがとうございます、老師。でもアイディアとしては既に老師が示されていたのですから。」
シュッキンが照れていた。
「珍しいわね、シュッキン。そんな殊勝な姿にはさすがに胸に来るものがあるわね。」
ルナが珍しいものを見たと、感慨深げに言った。
「「「「「「それで、その腕輪って何?」」」」」」
「こんな感じのものだけど………。」
自分がしている腕輪を見せた。前世の時の腕時計に近いものがある。一周ぐるりと十二個の魔石と一緒に、小さな魔法陣を刻んである。魔石は、どこにであるような小っちゃサイズだ。
「あまり、豪華な感じのものじゃないのね。」
「そうだな、ごく普通の造りにした。せいぜい、障壁を仕込んでいるくらいだな。」
「ふーん、そう。………って、しょ、障壁?」
何やら、ルナが絶句していた。
「あれ? 知らんかったか? 従魔化した魔物たちには従魔登録票と一緒に渡しているんだ。登録票に付いている穴を利用しているから、魔石を取り替えるだけで、再利用可能だからな。キナコ見せてやってくれ。」
「ミャン、ミャミャミャ」
首輪に付いている確認票を誇らしげに見せるキナコ。そこには小振りだが、形のいい魔石が赤い色を放っていた。
「老師に言われて最初に思ったのは、このようなシステムが必要かって事だったんだけど、意外にも需要が多かった。無断で従魔を狙ってくるヤツが多かったせいもある。今では、ほとんど全ての従魔がこれを所持している。まず、障壁は二つ展開できる。一つは自分の魔力が溜まりきった際の逃がし弁として補助的に溜めておいて、発動するもので、これはそう緊急で無くても自由意思で使用できるもの。もう一つは魔石からの緊急時に最大出力で発生させるものに分かれるが、こちらは、拘束用でもある。どちらも、個人用の障壁を発生させる。」
ちなみに刻んだのは、俺なので他の者の意思を受け付けない。俺以上の魔力の持ち主ならあり得ないことでもないが……。
「現状、持っているのは、俺とタク・トゥル、ヒリュキ、シャイナー、シュッキンと従魔たちだな。」
そう言うと、ルナとパット、プの姫様を筆頭に全員が手を出してくる。
「私(俺)たちにもくれよ。」
男も女も全員が手を出してきたために、腕輪のデザインを統一させるかどうかで話し合いになってしまった。
「結局のところ、見事に全員バラバラ、か。」
一つだけ、確認を取っておかなくてはならないことがあった。
「これを受け取ると言うことがどういう事なのか、よく考えてからにしろよ?」
「分かっているさ、セトラ。大丈夫だ、俺たちはお前から離れられない。」
「お前のおやつがある限り………な。」
ウェーキの思わせぶりな言葉に感動して損した。
「はぁ、もう……分かったよ。腕輪は、臣下候補としての名目で渡すよ。だけど、俺のおやつは限定だからな。お前らも色んなアイディア出してくれよ。」
これから、過酷な戦争になるかも知れないっていうのに、なんてお気楽な連中ばかりなんだよ、こいつら。悩んでいる俺がバカみたいじゃないか!
知らず、にやついていたら、ヒリュキとウェーキが……。
「「セトラ、お前はいつも通りが一番なんだぜ!」」
俺の背中を押してくれました。
どうやら、俺に背中を預けられる奴らが出来たようです、大量に……………、泣いてなんかいないんだからね!