77, 大暴走《スタンピード》 ①
遅くなりました。
パレットリア新国に戻って、目にしたのはロックイートが採石場に、サンドイートがパレットリア新国の城壁の前に咲き誇っていた風景だった。ロックイートの種が城壁の前の砂漠地帯に飛んでいき芽吹いたもの。
元々、この砂漠は塩が混じっており、水に沈殿させその上澄みを集めて蒸発させるという手間を掛けて採集されていた。
これはこの砂漠の出来かたに由来する。数百年ほど前に起きた大暴走を神の雷の力を持って殲滅した古事は有名で、その時の魔物が体内に凝縮していた塩がこの砂漠に眠っているという。
ちなみに、パレットリアにある旧城は、それらを大地から抽出して、岩塩として、地上に排出させることが可能である。
ロケットハナ・ビーが従魔として加わった時に、塩に関して旧城の方で検索し、情報を得ていた。その際、ディノに城壁の強化を指示し、城壁の四方に堀を造らせた。
その一部を伸ばすように言い、東の砂漠の中心部まで一メルの幅の石を使い、砂漠中心部では一メルほどの深度で新国の城壁に近付くにつれ深くなる段々畑のようにパレットリア新国まで砂が流れるような構造のものを造らせていた。城壁内側のすぐ脇にある堀に、塩が溜まるようにしていた。
その塩を得るための貯砂地(雨が降れば貯水池にもなる)は、このあいだの俺の帰還時に降らせた雨で水が湛えられている。その貯水池の周りに貧相なテントが立ち並んでいた。
十分な砂漠の日差しに水は蒸発するのだが、その蒸発した水をテントの端で受け止め樽に入れて飲み水を確保するという画期的な方法を思い出した連中がいたようである。
「タク・トゥル、これは一体どういう事だ?」
留守を任せたタク・トゥルに問い掛ける。
「彼らの多くは、獣人族です。東端にあるアレディア教主国からの避難民ということですが、城内に居る者たちとも面識があるものが………、意外に多いようで。私達の方でも対応に苦慮していた状態でして、いまは、あそこの貯水池周辺に陣取っていますが、早晩、城内への入国を希望してくるものと思われます。」
「アレディア教主国がこの国を狙っているということのようだな」
そう、俺の見解を伝える。
「まずは兵糧攻めをしておいて、圧倒的な数量で落とすつもりでしょうな」
タク・トゥルも同じ見解のようだ。
「では、あそこにいる連中に警告を発してきてくれ。いや、俺が行こう。ドラ吉、用意しておけよ。」
『了解です、あるじ様』
「なんと言って警告するおつもりか?」
タク・トゥルが問うてくる。
「無論、立ち退きを要請してくる。その際、城内に居る者で、彼らと共に居たいという意思表示をする者がいたらともに立ち去ってくれるように要請するよ。」
俺の言葉に、タク・トゥルが仕方なさそうな顔で頷く。
「仕方ありませんな、どうしてもという者だけは、例の方法を採りますか?」
その言葉に俺も頷く。
「『ああ、そうしてくれ。ドラ吉、出るぞ! コーネツ、音声録っておけよ。』」
火もぐロードの端末に仕掛けた大量の風貝で、あちらの意思を確認し、こちらの行動を決める。入国審査の時には、ヒリュキにも参加して貰おう。
そうして、元の大きさに戻ったドラ吉の角のところに俺は立ち、貯水池へと向かった。
羽ばたく事もせずにしっかりと大地を踏みしめたドラゴンの角のところから、辺り一帯に響くように風属性魔法のスピークを使った。
「この辺りに住まう者たちに告げる。この地より疾く立ち去れ!!」
術を行使しながら、自分でも非道い物言いだなとは、……思っているのだが、いま城内に居る者たちと、ここに居る者たちでは、状況に違いがある。
城内に居る者たちは奴隷として、奴隷商人の馬車に乗せられていた。行くところがないからという理由で、城内の細々とした事をやって貰っている。だが、この難民の中に知り合いが居て、彼らと今後過ごしたい者が居るなら、お互いの幸せのために城内から去って貰っても何らかまわない。
というか、それが出来なかったから帰れない者が続出したのだから。
「ここは、戦場となる場所だ。君たちの命を散らせたくはない。もし、城内に知り合いが居るというなら、共に手を取り合ってこの地より、遠くに逃げて貰いたい。城内の食料は限られているし、何より、君たちがすることの出来る仕事はここには無い。速やかにここを去れ! 只今を以てここは要塞となる。この水場も含めて立ち入り禁止だ。魔人ディノよ、リフトアップしろ!」
『ははっ。』
それらしいゴツゴツした岩の雰囲気を纏って、換装岩団の魔人ディノが登場した。
難民たちを睥睨すると、静かに手を地面に向けて力を放つ。
「我があるじの命により、お前の真の姿を見せるが良い。」
その言葉と共に、眼下の貯水池が振動し、隆起した………ほぼ三メルは上に………。
『ドラ吉、ひと声。東に向けて威嚇を放て!』
『はい、あるじ様。』
『ガオオオォォォォッ………』
ドラゴンの一声に難民の連中も腰を抜かしていたが。
城内に戻ると、状況を聞きに『工事屋』と同期の連中が集まってきていました。