74, ダンジョンで、………戦後報告⑫ 剣虎VS……?
『グゥオオオオオオオッ!』
ひと声吠えた剣虎は、躍り上がった。
その大きな体躯の虎の口は相当にデカい。
「セトラ、危ない!」
「ろ、老師!」
自分が張った障壁を解こうとして、シュッキンは慌てているし、他の連中にしたって、どうしたら良いのか分からない状況に陥っていたようだ。
「あ…、う…。」
剣虎にヤられると思った俺は、剣虎の持つド迫力に飲まれて体が硬直してしまい、動かせなくなった。
なのに頭の中では、ヤられると思っているというのに、どういう訳か安心感があって仕方ないんですけど………なぜ?
剣虎の牙が俺に掛かる直前に、俺の服のポケットから肩に飛び出てきた魔物がいます。
アダマンタイトをその身に取り込んだアダマンスライムの二匹です。
『プルン』『ポヨン』
その体を震わせたあとに驚くべき変化が………。
齧り付こうとしていた剣虎の牙を俺の頭をプルンが覆い、顔面と首をポヨンがカバーしてくれた。レベルが高いであろう剣虎の牙と、それなりの成長のスライムのアダマンタイトの薄い体が拮抗していた。
「セトラ、いまよ!」
ルナの言葉に体が動いた。
「お……、おう!」
大きく開いている口にワームを煎じた風邪薬を突っ込み、目を白黒させたところに猫科に評判の良かった福焼きを取り出して、目の前でチラつかせて興味を引くと真後ろに放り投げた。
『グオ? ミャギャ? ……ミャー!』
母剣虎の真後ろでラグビーボールのように、イレギュラーバウンドしている福焼きにバシバシと猫パンチを浴びせる母剣虎。更にイレギュラーバウンドを繰り返す、福焼きに、またパンチするを繰り返したあと、ガブリとやって満足した猫ちゃんがいました。
その頃には、シュッキンの障壁も解けており、三匹のチビ剣虎たちも寄ってきていた。
『ミャウミャア!』『ミャミャミャウ!』『ミャンミャア!』
チビ剣虎たちの言葉に、ようやく落ち着きを取り戻した母剣虎でした。
『ギュウゥゥゥ? ギュア?』
ちらりと申し訳なさそうに、こちらを見る母剣虎の姿に、ついププッと吹き出してしまいました。
『ミャギャウ』
笑ってしまった俺をちょっと睨みつけながら、謝ってきた。
本当に素直なヤツだな。
「あー、びっくりしたぁ。それにしても『プルンもポヨンもありがとな。』」
『ププルン』『ポポヨン』
俺の窮地を救ったというのに、謙虚な発言だな。
「『りょーかい。すぐに用意するよ』」
「これで十五階をクリアか……。異界への門があるかも知れないところまでもう半分っていうことだね。」
そう感慨深げに呟く、ルナが居ましたが魔王は微かに首を振っているから、ここらで締めませんと。
「ルナ、最後の扉が開いた時にそれを感想にした方が良いよ。これからの階層がこんなに広い大地だったり平坦な道だったりするとは限らないだろう? よく、昔から言われているじゃないか。勝って兜の緒を締めよ、って。目標が見えた時が最大の試練の降ってくる時だって考えなきゃ……。これはゲームなんかじゃ無いんだから。」
「さてと。『俺たちは次の階に降りるけどお前たちはどうする? この階で別れ………』」
『『『ミャギュウミュウミャアウ!』』』
三匹のチビ剣虎は付いてくるようです。
『『『『ガウゥガウ!』』』』
刀狼、角狼、猫科の短刀虎たちが十五階のボスである剣虎に、激励を送っています。
ふ…と、笑みを漏らした母剣虎は、俺の方に振り向いた。
『ガウ? ミャアァオミャオミャオ!』
「『え? あるじ? 俺がか?』」
『ニャン!』
くぅっ、可愛いやつめ。
P.S. 意外なことが発生、福焼きを多めにおいて十六階へと進もうとしたんだが、刀狼、角狼、短刀虎たちの各群れからチビ剣虎たちと同じ年の子が、オスメス一匹ずつ付いてくることになりました。って俺のところは魔物の幼稚園かよ?
『『『『『『『『ミャアゥ!』』』』』』』』
もう、想転移しなくても周りがしっかり頷くのが見えるくらいには共感しているな、おまいら………orz