73, ダンジョンで、………戦後報告⑫ 剣虎?……猫?
すいません、ふりがなが上手くいかずに時間が経ってしまいました。
ひとまず、次に続きます。
剣虎のチビちゃんたちが元気になったため、喜んだのはスキップ。同じ猫科として、彼らよりも少しお姉ちゃんとして、接することが出来たからだ。
そして、先達が言うことはいつも同じ………。
『ミャオニャオ ニャーオォン ミャニャニャオ。ニャウンニャ ニャニャウン。』
『ご飯』というその言葉を聞いて、剣虎のチビちゃんたちの目の色が変わった。
『『『ニャミァア、グミャングミャン!』』』
チビ虎たちが、そう騒ぐのを聞いて周りの従魔たちと、障壁の外の連中までもが同調し、俺の仲間たちも何か美味しい気配でも察したのか、「ご飯、ご飯」とシュプレヒコールを始めた。さっきぶちまけたハチミツ入りの薬のせいだろうか………?
「お前らなぁ、元気になるのは良いけど、すぐにご飯とかあり得ないだろう? 自分たちで探しなさい。ほら行くぞ、取ってこーい! 取ってこーい! 取ってこーい!」
もうヤケです、層庫から小型の竜頭を取り出して、別々の三方向に打ち放ちました、これで狼君たちはオッケーでしょう。あ、雪狼と森林狼、夢幻狼の率いる群れは互いに争うことを避け、時間差を微妙に利用し、三方向へ駆け出していった。刀狼、角狼たちは、お互いの仲間が別々の方向へと向かい、相当に混乱しておりました。
猫科の短刀虎などは、興味なかったのかその場で居残り、スフィンクスのような箱座りを披露してくれました。
おい、ボスって居ねーの?
後は、その猫ちゃんたちですが、タイ焼きの型を深くした鉄板で焼いたホットヤーキ風のタイ焼きを作り、中には小麦粉を捏ねて作った魚型のクッキーが入っており、それらにハチミツが搦んでいるという特別仕様。
弾力性がある程度ありますから、叩いて良し、囓って良し、楽しんで貰いましょう!
福焼きと命名しました。フグの形をしているからです。毒はありません。
しかし意外にも、これがドラ吉ドラ子夫妻と、火トカゲたちにも好評だったこと。
ああ、ロック鳥のピー助にも大好評でした。何が受けるのか、作ってみないと分からないもので………。
狼君たちの子供たちもこれを気に入っていたようで、叩いては大はしゃぎ、囓っては大はしゃぎと大暴れ。ルナに叱られてました。
まぁ、そのルナも………。
「美味しーい! 何これ。面白ーい!」
ドーナッテを見た時の感想がどーなっているのかと、疑問を持ったものだという。はしゃいでいるルナを恨めしそうに、見つめるレインやソーダのやるせない顔といったら、もう………。
「えへへ、レイン、ソーダ、みんなもゴメンナサイね。」
みんなの態度にルナが赤い顔で謝っていた。
「何これ……、美味しー!」
「うん……、美味いんだけどこの形状と噛み応えに想像と差があるから、微妙だなぁ」
文句言うヤツは、自分で作ってください。
俺も苦言を呈しますから。
ヒト族用に作ったのは、みたらし団子風のドーナッテ。小麦粉で小さな団子状に丸めて作って軽く揚げた、揚げパン。
みたらし団子風なのは、ハチミツが掛かっているから。
ハチミツの掛かっていないバージョンで女王蜂たちの食事になりました。自分たちで溜めた特殊なハチミツを使うそうです。ムサシ丸がこっそり持っていった福焼きは、女王蜂特権で献上されました。
従魔が増えると、各自に合わせた調整がそれなりに必要になることも増えます…………。
ちなみに、ロケットハナ・ビーの女王蜂とこれから分蜂するはずの女王蜂候補生たちは、揃ってパレットリア新国に移転することになりました。
いったい何が目当てなんでしょーねー?
『ふぅむ、我があるじ殿は多才だな、このような食事があるとは思ってもいなかった』
朱雀のクアットロさんは、福焼きを一つ抱えていたまま、おもむろに感想を告げてきた。
『俺だって思っていなかったさ。でも、俺たちの仲間も、俺もお前たちといると結構楽しいんだって事、忘れないでくれよな』
だけど、チビ剣虎の三匹のパクつき状態を見ていると不安に駆られます。
ここしばらく食事していなかったような食べっぷり………。
そして、親に対する無関心(?)。
それは何かを証明するようで怖かったのです。
だから、隠れているものを探すための重さ検出型の索敵魔法を使いました。ただ、これには、とんでもない副作用が………。
仕方ないよね、緊急事態かも知れないんだもの……。
「グラビティ・サーチ、前方向。」
一応、障壁の際まで進んでやりましたが余波はあるので……。俺の周り半径二メルは確実に作用範囲に含まれます。黒い発光が淡く出ますから分かるには分かるんですけどね。
地面の上に薄く魔力を流し、重力を検知して、その存在の重さを調べること。それがこの魔法の極意。単純に言えば、すごく広い範囲にスポンジを敷くことかな?
ただ、副作用が周りに及びます。
「え、重力検知? 何で、そんな魔法知っているの? というよりパットたちは発光している半径から出て!」
この魔法の危険性が分かってしまったヒリュキが慌てて叫ぶ。
「え? どういうこと?」
いまだにその危険性が分からないルナはエリアの中に………。早く出ろって。
「あれは、対象の範囲を重力で操作するんだ、ただし、術者の周りにも及ぶ。その範囲の重さをアイツは知ってしまうんだ、特に体重とか……。」
そうヒリュキが言った途端に女性陣が範囲から、いっせいに飛び退いた。
「えーっ、マジで嫌だなぁ……。」
そして、ヒリュキの横から炎が吹き上がった。
いままで検知範囲にいたルナである。
「アンタねー、少し説明してからそういう魔法を使いなさいよ!」
そう言うと、検知範囲にも関わらず、凄く重い拳を俺に叩き付けた。
「ぐほぉっ………。」
俺自身が重くなっているので、体は飛びませんでしたが、意識は数瞬、飛びました。
完全に……。
確かに俺の説明が足りなかったからなんですが……。それでも、これはあんまりな気がします。
「す、すまない。事前に話しておきたかったが、一刻を争う事態かもって思ったら、使ってしまっていたんだ。」
意識が戻った時に対象をこの階の奥地に発見。送転移で跳んだのですが……。
そこには、衰弱しきった剣虎の親子を発見し、急遽、転移を発動し障壁内に戻ってきました。転移には送転移のような加速の衝撃が無いため、壊れ物扱いのものには必要になる。
『ミュウミューン』と、心配そうな声で寄ってくる子供たちを留める障壁をシュッキンに張ってもらい、手早く鑑定する。
【剣虎の親、風邪による諸症状で衰弱激しい。また、出産直後のため、非常に空腹。食物の匂いに敏感。危険! 危険!】と、出てきた。
と、俺の体についている匂いに反応したのか、剣虎がゆらりと立ち上がる。
剣呑な雰囲気にヤバイ! と、思った次の瞬間、痩せ衰えていたはずの剣虎が大きな口を開けて飛びかかってきた…………。