冒険者ギルドにて
いきなり、三つの題名が立ち上がり、四苦八苦していました。
まずは、一つ目です。
「おい、聞いたかよ、またあのチビ王が従魔を連れてきたんだってよ。今度はロック鳥だってよ。この支部では元の大きさに出来ないからタクラム砂漠まで行ったって話だ。」
金属鎧に身を包んだ、強面の男が豪快に話している。
「いや、マジでびっくりしたよ。承認になる、ならないではなく、その小型化状態だけでもビンビンとヤバイ気がしていたのに、あの王様『ピー助』って呼んでいるんだぜ。あのロック鳥に『ピー助』ってあり得ん。俺は目が点だったぞ。」
また、別の冒険者がその話を受け継いでいく。
「すごいよね。ここの共同浴場のダイマオウグソクムシの展示もあの子でしょう」
女性冒険者もすでに虜のようで話に目を輝かせていた。
その共同浴場は最近、この冒険者ギルドの敷地内に新設されたゴーレムハウスという施設に付属されているもので、さっきから話題になっている人物からの貸与品という事になっている。
男女に分かれていく通路に巨大なガラス張りの窓があってそこにダイマオウグソクムシが展示されているのである。そして、展示されているだけならそんなでも無いのだが、きっちり耐魔法耐スキルの障壁が掛けられており、試しにでもそんなことをしようものなら、それらは全て本人に跳ね返されるようになっているという。
その障壁の技術だけでも超一級品なのに、地割れなどの天変地異などがあった場合、ゴーレムハウスが起立し移動するという何ともな設計。
これを誰が考えたというのか、その技術だけでも大陸を手中に入れられる可能性がある。
だから、私が派遣されたとも言えるのだが……。
この施設だけで、冒険者ギルドに入る収入は、新施設導入前と後では雲泥の差がついている。ダンジョンの生成物、魔物たちの残す魔石や皮や肉などの買取りの他に別枠で入るのである。大陸中の支部から施設の貸与か増設を求める文書が届いているが、求める先が違うために答えられないのが現状と聞く。
しかもその人物は、この施設をガルバドスン魔法学院に売却し、学生や教授、事務局の人間までを含んだその生活に潤いをもたらしていた。
私が情報を求めていた者は、この支部ではすでに有名な人物のようだな。
ここはタクラム砂漠に面したガルバドスン魔法学院を囲む学院都市の冒険者ギルドだ。
私は、密命を受けて、ここに派遣されてきた。渡りの一介の冒険者を演じている。
かつては、冒険者だったこともあるからな。
だが、パレットリア新国という新しい国の情報が、街中の至る所で聞くだけで、こんなに簡単に手に入るとは思ってもいなかった。
確かに砂漠の浸食を受けているらしいが、新しい技術で、民を繁栄させ、重用しているとも聞いた。この何もない砂漠でそれだけのことが出来るとはどういう手腕を用いているのか調べよという、とある方の直通の勅命だった。
ここは学院都市内に生まれたダンジョンの攻略のための位置づけになっている。
だが、魔法学院の内部にも特殊なダンジョンが存在するらしい。
そうでなければ、この大陸のどこにロック鳥が住める山脈があるというのか、この大陸は、その全てがテーブルマウンテンの天辺に存在している。
地面の下がどうなっているかまでは調べようもなかったが、急峻な山脈などの無い極めて平坦な大陸、中央にある広大なタクラム砂漠を挟んで北部一帯に清涼な気候のスクーワトルアやド・コーア、ク・ビッシ、ヨタハ・チなどが、南部に広がるタクラム・チューを含む連邦国家群、東端にアレディア教主国、西端に我がレディアン皇国があり、この大陸四強を唱えている。
そこに新風が吹き上がった。
そして、その広大なタクラム砂漠のスクーワトルア側にカクシの森に連なってパレットリア新国が数年前に建国された。数十年前に滅ぼされたタクラム・ガンを前身に持つ、その国は正当なタクラム・ガンの血筋を引き継いだものが王になった。
タクラム・ガンを滅ぼしたタクラム・チューが認証した事から、傀儡政権とも噂されていた。
私に勅命が下ったのは丁度その頃のこと。それほど、タクラム・チューの国が警戒されていると言うことの証だった。
だが、この国は明るい。タクラム・チューの次期皇帝だった男が、何故か、国防大臣に叙されている。スクーワトルアの第二王子の子が、政治的手腕を振るっている。なんと言っても魔王が相談役に収まっている。スクーワトルアを数十年支え続けた辣腕宰相が、にこやかに経済を回し続けている。あのガルバドスン魔法学院で輝いていたルナティックマジックの才媛が、あの時のメンバーで魔法師団を纏めている。
どんな奇跡が起きたら、こんな人員が揃うというのだ?
事、ここに到って、私は決意した。
『拝啓、レディアン皇帝様、私は私の成すべき事を見つけました。あのルナティック・マジックを構成していた彼らに再会し、私の進むべき道を思い出したのです。…………レディアン皇帝様に見出して頂いた幸運や奇跡をいま現在の私には恩返しも出来ませんが、達者にお暮らしください。いままでのご加護、ご支援本当にありがとうございました。 一冒険者に戻ったサッツシ・ダクィタ』
その手紙は厳重に封をされ、更に厳重に封をされた小箱をくくりつけて、発送された。
レディアン皇国の冒険者ギルド直通の火もぐ便で。
たまたま、彼が手にした入浴用のワームコインの紙に『小玉』と記されており、彼は感謝のための贈り物を手にした。
彼がその手紙を出したその日、ルナ達の元にそして俺たちの元に、帰還した。
敏腕の冒険者として、そして、俺たちの仲間として。
「ふ……、あやつもまた、取り込まれてしまったか……。たまに会いに来るように返事を出しておくか。それにしても、あやつの幸運がこれほどであったとは……」
レディアン皇国女帝、ミレリー・レディアン・ミズノは、寂しく微笑んだ。
その白魚のような手に彼からの贈り物、『小玉』と書かれた紙と、その中身である小玉を転がせて……。
ガルバドスン魔法学院及び各国の共同浴場で販売されるワームコインの包装用の紙には、たまに文字が書かれている。銀貨一枚の時もあれば、『小玉』の時もある。
ちなみに『小玉』の、当選確率は一〇〇万の一〇〇万倍分の一である。まず、当たらない確率。でも、誰かはきっと当たる。そんな確率。でも、前後の人はショックで寝込んだほどの確率。人と人の出会いもそんなものかもね。
「久し振りだね、サッツシ・ダクィタ」
「ああっ、セトラ。新国の国王って、お前だったのか?」
「これで、結界挑戦部全員ね。」
ほら、腐れ縁…………。