夏の日の記憶
気づくと僕は公園の中にいる。
蝉の声が鼓膜に染み付く。
子供たちの愉快な声が耳を突く。
烏の声が僕を嘲る。
音は捉えられない。
そしてきっとそれは茜色の空に消えていく。
夏の蝉の声も。
子供たちのはしゃぎ声も。
烏のなく声も全部。
茜色の空に消えていく。
うつりゆく色の階調に、音は吸い込まれる。
全ては幻だったのだろうか。
夏の日の記憶はいつも曖昧だ。
過ぎ去りゆく時はこんなにも早くて、消えゆく声はこんなにも遠い。
気づくと僕は日差しの真下に立っている。
真っ赤に輝く太陽の光を浴び、僕はただ立っている。
逃げ水が現れ、僕を誘惑する。
追いかけると当たり前のように消え、その先にまた現れる。
そしてきっとそれは茜色の空に消えていく。
過ぎゆく時も。
強い日差しも。
茜色の空に消えていく。
幻想は現実の蓋をされ閉じ込められる。
夏の日の記憶はいつも曖昧だ。
何度目かの今日をただひたすらに繰り返す。
鼓膜に染み付いた音。
網膜に焼き付いた映像。
機関部は動かないのに、時計の針だけがひたすらに時を刻む。
見せかけの時間は回転するだけの機械。
見せかけの時計は、時を再生する幻灯機。
でも何もかもが消えていった茜色の空だけはいつまでもそこにあった。