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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真夏の一夜のホラー。

作者: 木原ゆう

「子供が出来ますた」


「はあ?」


 敬礼の姿勢で夫の零二にそう告げる私。


「だから、子供が出来ますた」


「……マジか」


 真夏の夜のアパートの一室。

 仕事から帰ったばかりのスーツ姿の零二。

 彼はそのままあんぐりと口を開け玄関で立ち尽くしている。


「でも、お前……子供が嫌いだから避妊薬を飲んでるって……」


 零二の顔が段々とニヤケ顔に変化して行く。

 彼はずっと子供を欲しがっていた。

 しかし私は拒否をし続けた。

 何故なら、子供が大嫌いだったから。


「それがね、旦那様よ。先週はだね、飲み忘れてたのに、あー、あれですよ。やっちまった訳ですよ」


 私は後ろに手を組みモジモジポーズを展開。

 さあ、早く私を抱き締めろ。

 そのニヤケ面でがばっと幸せを抱き締めろ、この色男が。


「よ……」


 よ?


「良くやったかえで!!俺は……俺はああああ!!!!」


「ぎゃふっ!」


 そのまま私の身体に抱きついて来た零二。

 情け無い事においおいと泣き始めてしまったではないか。


「……きちゅい。私も死ぬし、お腹の子も死みゅ……」


「あ、悪い……。つい、嬉しくなっちまって……」


 身体を離し、頭を掻きながらも謝罪する零二。

 私はバツが悪そうにしている彼の顔をこちらに引き寄せキスをする。


「ん……」


 彼は抵抗する事も無く私にその身を委ねて来る。

 いつもそう。

 私が『S』で彼が『M』。

 この関係は付き合っていた頃から全く変わってはいない。


 そんな幸せな毎日が続いていた。

 これからもっと幸せになる筈だった。

 

 彼女が、現れるまでは。





◆◇◆◇




 数ヵ月後。



ピンポーン。


 チャイムの音で目を覚ます私。


(んん……あ、私寝ちゃってたんだ……)


 慌てて壁掛け時計に視線を向けると午後の2時を指していた。

 洗濯物にお布団干し、今晩のおかずを作り終えた辺りで昼寝をしてしまっていたらしい。


ピンポーン。


(誰だろう……また新聞の勧誘の人かな……)


 私は重い腰を上げながらも玄関へと向う。

 ドアの覗き穴から外を見ると見知らぬ女性が立っているのが見える。


「はい、どちら様でしょうか?」


 ・・・。

 ・・・・・・。

 返事が無い。ただの屍の様だ。いや、違う。


(……こんなアホな事ばっかり考えているから零二に怒られるんだっつうの……)


 取り敢えずチェーンを外し、鍵を開けようと思った所で――。



ガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!



「きゃっ! え、な、何っ!?」


 大きくドアを叩き付ける音。

 私はそのあまりにも大きな音に恐怖し、そのまま後ずさってしまう。


「何よ……何なのよ一体……」


 すぐに静寂が訪れる。

 何だろう……。悪戯か?

 あの女性の人が?


 私は怖くなりそのままの姿勢で硬直する。



かちゃり。



「え――」


 ドアの鍵が回る音。

 相手は家のアパートの鍵を持っている・・・・・・・


 そしてゆっくりと開かれるドア。


 ドアの向こう側には先ほどの女性が立っている。

 

 そして彼女は右手に――。





◆◇◆◇





「零……二……」


 私は口に手を当て息を呑む様にそう呟く。


 女はゆらりゆらりと玄関を上がってくる。


「い……や……。来ないで……」


 完全に腰が抜けてしまった私。

 彼女は右手に零二を持っていた・・・・・・・・


 正確に言えば彼の首・・・を。


 その左手に持った出刃包丁で切り落としたのだろうか。

 切断面はやけにボロボロで、内部の骨が浮き彫りになってしまっている。


 私は零二の目を見た瞬間、込み上げるような激しい吐き気に見舞われてしまう。


「どうして……こん……な……」


 女は少し笑っている様だった。

 長い黒髪が顔全体を覆い隠し、その表情は読み取れないが、雰囲気でそう感じた。

 彼女は誰だ?

 何故零二にこんなに酷い事を――。


 女は包丁を逆手に持ち振り上げる。


 私は腰が抜けてしまい、どうする事も出来なくて、ただその光景を眺めているだけ。



すとん。



 という音と共に私の右手の指が3本ほど宙に舞った。


「ひぃ……!」


 一瞬何をされたのかが分らなかった。

 徐々に痛みが脳に伝わり全身に広がる。

 指を、


 指を、切断、された?



 叫び声を上げようとした瞬間、目の前に彼女の顔があった。


「――っ――!」


 恐怖で声が出ない。

 

 そして彼女は私の耳元で、小さなくぐもった声でこう言った。



『泥棒猫め』



「ひっ……!」


 そのあまりにも低い、恨みのこもった声は、この世のものとは思えなかった。

 私は恐怖のあまりに涙を零し失禁する。


 視界の隅で彼女がまた左手を掲げるのが見えた。


 そしてその手を私の腹部に勢い良く振り下ろした。



ザクッ。



 何度も。



ザクッ。



 何度も。



グシュッ。



 何度も何度も何度も何度も。


 彼女は笑いながら、新たな命が芽生えたばかりの私のお腹を集中的に――。



『その子も後で貴女から取り出して零二と同じ様に食べてあげる彼の一部がそこにあるのならば私にはその権利があるのだからその為にも少しは刻んでおかないと上手く食べれないから我慢してよね我慢出来るわよね我慢しなさい我慢しろ死ねこのクソアマが泥棒猫がカスのくせして人の男を寝取ってんじゃねえよクソビッチがさかって腰降って男食い漁って楽しいかゲスが死ね死ね死ねカスが死ね死ねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね』









 私は彼女に跡形も無く切り刻まれ、お腹の子を取り出され、








































「……っていう夢を昨日見たから、私は絶対に子供は作りません。絶対に、だ」


「おい」


















御免なさい。

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― 新着の感想 ―
[一言] という夢を見たの、夢オチよ?
2014/03/23 17:57 退会済み
管理
[一言] 最後がなんかコメディー……? ヤンデレセリフをあと900文字足してホラー大賞に出しましょうよ(笑)
2013/07/28 23:18 退会済み
管理
[一言] こえー 色んな意味で、、、
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