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(10) 聖暦一五四三年一月 エーケダールの戦い<3>

 獣のごとき喚声がエーケダールの戦場を支配している。

 鉄、革、汗の臭いをかき消すように血臭が広がりつつあった。

 ある者は蛮勇で敵をなぎ倒し、ある者は沈着冷静さによって敵の攻撃を防いでいく。


 知勇で敵を倒すか倒されるか、あるいは運不運で攻撃をしのぐか。

 剣が槍が斧が、そして魔術が死者と負傷者を次々と生み出していく。


 中央において、シードル=ブローム率いる重装騎兵団が怒濤のごとき突破力によって、パーヴィリア軍中央先陣を構成する北部諸侯軍を撃破しつつあった。

 先頭にあるは齢六〇をこえるシードル=ブローム。

 彼に宝剣で斬りつけられれば、よほどの業物か魔力や闘気で保護した武具で受ける必要があった。

 そうでなければ、武具ごと破壊されて、致命的な一撃を食らうのだ。


 乱戦にある今、シードルは己の武力で敵陣を突破すべく先頭にいた。

 一人、また一人、パーヴィリア兵が討たれていく。

 その様子を見た雑兵はシードルを避けて、道を開く。


「ブローム公覚悟!」

 と悲壮な覚悟で、あるいは功名のためにシードルに襲いかかる騎士が何人もいた。

 自分から戦いを挑むだけあって、さすがに武具ごと破壊される騎士はほとんどいなかった。

 しかし、五合、あるいは十合も打ち合えば、シードルに討ち取られるのが大半であった。


「突き破るぞ! 我に続けぇっ!!」

 主将自ら戦うのは軽率とよくいわれる。

 しかし、主将自らが武勇を振るう軍はとてつもなく強い。


 兵士、あるいは専従の騎士とて感情がある。

 それは、人間、竜人どちらであれ、かわりはない。


『自分だけが死ぬ思いをして戦っているのに、将軍だけが安全な後ろの本陣でのうのうと座っているのか?』

 そういう思いを胸に抱いて、士気が上がるはずもない。


『将軍だというのに、自分達と同じように命がけで戦っている』

 兵士にそう思われることによって、軍の士気は大いに向上する。


 ましてや、武勇優れた者であれば、なおさら効果は絶大であった。

 古代中国においては、楚漢抗争の項羽、三国志の呂布、関羽、張飛。

 西洋ではアレクサンドロス大王が有名だろう。


 老練な将軍として、シードル=ブロームはそのことを熟知していた。

 だが、それゆえに狙われることもある。

 火球が、雷撃が、彼めがけて飛んでくる。


 その多くは宝剣から衝撃波を飛ばし、相殺していく。

 直撃を避けられないときは、マントで防いだ。

 理力や防御魔術による魔術防御が低下していくが、仕方がないとシードルは割り切っていた。


 パーヴィリア北部諸侯でもっとも多くの兵を率いていたのはボルーフカ辺境伯だ。

 当主は三四才のエヴシェン=ブラジェク=ボルーフカ。

 鋼のごとき意思を感じさせ、灰色の髪を短く刈り込んでいた。

 姓を見ればわかるように、アウグナシオン教団のブラジェク大司教の親族だ。


 周囲からの評判は悪くなく、領内の統治は順調であった。

 また、辺境伯の名に恥じないだけの武勇も併せ持つ。

 それでも、先陣で自ら剣を振るうのは危険すぎると避けて、本陣にて投影スクリーンを見ながら、指示を出していた。


 エヴシェンの表情は時間が経つにつれ、険しく厳しくなっていく。

 ボルーフカ辺境伯の部隊は、北部諸侯の中においては充実している方であった。

 優れた騎士、魔術士を召抱えている。

 エヴシェンに対する忠誠心も低くなく、士気も高かった。


 しかし、それでも劣勢であった。

 簡単なことだ。

 シードル=ブローム率いる軍はボルーフカ軍より精強で、忠誠心が高く、士気が高かった。


 声を枯らしながらもエヴシェンは指示を出して、後詰全てを繰り出し、シードル率いる軍を防ごうとする。

 しかし、兵士の何人かは左右へと逃走を始め、重装騎兵団の突進は止まらなかった。


 間もなく、先頭を走るシードル=ブロームはエヴシェンがいる本陣に到着しようとしていた。

 エヴシェンは決断する。


「アレシュ、ここを脱出しろ。お前達、戦いが終わるまでアレシュを保護してやってくれ」

「何を『かしこまりました』いうんですか!?」

 アレシュとエヴシェンの腹心の返事が重なる。


 エヴシェンの嫡男アレシュは一五才。

 父譲りの顔立ちと知勇を兼ね備えていた。


「この会戦でパーヴィリア軍が勝利できたとしても、我が軍の敗北は免れぬだろう」

 エヴシェンが投影スクリーンを見やると、部隊の数多くが左右にわかれて敗走状態に陥っていた。


「ならば、父上も一緒に!」

 アレシュは激情のままに叫ぶ。


「それはできぬ。私は辺境伯として責任をとる必要がある」

「ヨナーシュ陛下は寛容なお方ではないですか! 何も父上が残らなくても」

 アレシュにもスクリーンは見えている。

 この場に留まるというのは重装騎兵団との戦いを意味し、あの勢いを食い止められるとは思えなかった。


「……直属の部下には寛容だが、おそらく諸侯に対してはそうではない」

 三四才にして辺境伯当主のエヴシェンと一五才のアレシュでは、ヨナーシュに対する見方が異なっていた。


「そんな……」

 アレシュはうなだれる。


「我が部隊が敗れても、私が戦死すれば、お前までとがめはうけまい。我が命でボルーフカ家の命運をあがなう。そう考えれば、惜しくもあるまい」

「父上、私は賛成できません!」

 アレシュは涙がこぼれ始めていた。


「無様をさらすなっ! 戦場で涙を見せるような教育をしたつもりはない!」

「でも、父上……」

「お前には見所がある。生き延びれば、よりよき未来を築けよう。それに私がブローム公を討てれば、勝ち目はある。絶対に私が負けるとは限らない」

 エヴシェンは自分でも信じていない言葉を息子に語った。


「やはり、父上だけをおいていくなんて……」

「お前はそこまで惰弱だったのかっ! お前達、アレシュを連れて行けっ! もう、ぐだぐだと話す時間などないわっ!」

「父上っ!」


 嫌がるアレシュを、数人がかりでおさえつける。

 そのまま、無理やり引きずっていく様を、エヴシェンは目を細めて見つめていた。

 やがて、エヴシェンの視界からアレシュが消え、魔術士が叫ぶ。


「直に敵の重装騎兵団が到着します! 先頭はおそらくブローム公です!」

「来たな。私自ら迎撃する。馬をこれへ」

「はっ」


 エヴシェンは部下が連れてきた白馬にまたがり、ボルーフカ家に代々伝わる宝槍を右手に持つ。

 馬上から部下に檄を飛ばす。


「敵はアズヴァーラ王国公爵にして敵軍最強のお方だ。相手にとって不足なし。命を惜しむな、名こそ惜しめ!」

「おう!」

 ボルーフカ家に仕えてきた譜代の家来、数十名がエヴシェンの檄にこたえた。


 エヴシェンは白馬を駆け、部下がそれに続き、突撃を敢行する。

 向かうは破竹の勢いを続けるシードル=ブローム率いる重装騎兵団。

 数十対約二千。

 死兵と化さねば、ありえぬ突撃であった。


 エヴシェンが目指すのはシードル=ブロームただ一人。

 万一、いや、億が一でも、勝機があるとしたら、シードルを討つことであった。


「我の名はエヴシェン=ブラジェク=ボルーフカ! ブローム公! ブローム公よ、我と一騎打ちいたせん!」

 エヴシェンは大音声を放つ。


 先頭を走るシードル=ブロームはただちに反応する。


「ボルーフカ辺境伯か! 私がシードル=ブロームだ。一騎打ち、喜んでお受けしよう!」

 右手に宝剣を煌かせ、シードルはエヴシェン目がけて突進する。


 両者の距離があっというまに詰まり、エヴシェンは宝槍でシードルに突きを見舞う。

 シードルが宝剣でその突きをさばき、刃が当たって白く輝き、甲高い金属音が響き渡る。

 そのまま交差して、二人とも馬首を巡らせ、再度ぶつかりあう。


 その間にも、部下同士での戦いが続いていた。

 とはいっても、数の差、質の差が大きく、ボルーフカ軍の兵士は一人、また一人と倒れていく。


 だが、エヴシェンからすれば、部下の苦闘を見やる余裕はなかった。

 自分が弱いと思ったことはない。

 しかし、シードル相手に武技で勝っているなどとは口が裂けてもいえなかった。


 こちらは槍で相手は剣、間合いを詰められれば、一気に不利となる。

 エヴシェンは小刻みに槍を繰り出し、シードルをけん制しながら、隙をうかがっていた。


 シードルの剣とエヴシェンの槍が幾度にも激しく当たる。

 だがついに決着の時を迎える。


 シードルがエヴシェンの槍をかいくぐり、袈裟懸けにエヴシェンの身体を切り裂く。

 もんどりうって落馬したエヴシェンは、虫の息であった。


「アレ……後のこ……」

 エヴシェンは瞑目し、そのまま息絶えた。

 馬上から、シードルは表情を変えないまま、エヴシェンに視線をやる。


「……エヴシェン=ブラジェク=ボルーフカ、このシードル=ブロームが討ち取ったっ!!」

「おおっ!!」

 シードルの部下達が大歓声をあげる。

 もはや、エヴシェンの部下は全て倒れていた。


「このまま前進する。私に続けっ!!」

 ついにシードル=ブローム率いる重装騎兵団はパーヴィリア軍中央先陣を突破した。


 重装騎兵団が向かうはパーヴィリア軍中央中団であった。

 中央にはカドルチェク公爵、右にはチェペク侯爵、左には諸教団の兵が陣を構えている。


 その様子を確認したシードルはすぐさま決断を下す。

 戦場において、迷いは禁物であった。


「蛇行して敵教団の兵を討つ! 後続の歩兵、魔術士団、弓兵はカドルチェク公爵、チェペク侯爵を抑えよ! 我々は諸教団の兵を突破して、敵王ヨナーシュの首を取る!」

「おおうっ!!」


 ほぼ無傷の重装騎兵団はくさび形隊形をとり、シードル=ブローム先頭に諸教団めがけて突進していった。


 ◇  ◇


 空でもシャルリーゼに仕える天使達とアウグナシオンに仕える天使達が戦いをはじめていた。

 サララは高井幸太のパートナーであるミルル、三条彰のパートナーであるアネットとチームを組んでいた。

 天使達の指揮官で浦辺佐織のパートナー、上級天使レギーハの指示によるものだ。


 サララ達のチームは中級天使であるアネットがリーダーだ。

 生真面目な彼女は先頭で戦うよう、サララ達に指示を出す。

 サララにとって、いい迷惑であった。


(乱戦の真っ只中で突進なんて無茶な。どこから、理力がとんでくるかもしれないというのに。シャルリーゼが飛竜を召喚する前ならよかったでしょう。こちらは圧倒的な戦力でしたから。でも今は五分五分です。あなたが死ぬのは構いませんが、私まで巻き込まないで欲しいですね)

 虫も殺さないような顔をしながら、アネットに対して辛らつな思いを抱くサララ。


 サララはミルルをちらっと見ると、ミルルもまた微妙な表情を浮かべていた。


 前にいて背中を見せるアネットを見やった後、サララは左手でミルルの右手を触り、念話をとばす。


(アネット様はああいわれましたが、敵はあなどれません。お互い慎重に戦いませんか?)

 サララはこれまでミルルと接してきた。

 ミルルは高井幸太の愚痴を話してくるなど、どちらかというと話がわかるように思える。

 それゆえの提案だった。


(サララさん、それはいいご提案ですね。そういたしましょう。アネット様は中級天使、私達は下級天使。分をわきまえないと)

 ミルルはうなずく。


(ミルルさんのおっしゃるとおりです。では、無理をしないということで)

(ええ、下級天使にふさわしい戦いをしましょう)

 つまり、サララもミルルも命が惜しかった。

 サララの読みどおり、暫定的にサララ-ミルル同盟が組まれた。


 アネットは二人の思惑に気づかず、シャルリーゼに仕える天使達に突撃していく。

 サララとミルルは少し距離をおいて、アネットに続いていった。


 ◇  ◇


 アズヴァーラ軍右翼先陣を率いるオーヴェ=ダールマン公爵は、投影スクリーンを凝視していた。

 対しているパーヴィリア軍左翼先陣は王軍第一師団だが、一進一退の攻防を続けていた。


 今のオーヴェを誰が見ても、機嫌がよくないとわかるだろう。

 部下の働き振りが悪いわけではない。

 懸命に戦っているのは見ればわかる。

 それでも、敵をおしきれない。


 敵師団長のヴェストル=ダンヘル=フリドルフは老練な指揮官だ。

 その手腕が自軍の攻勢を阻んでいた。

 敗勢というわけでもなく、形勢は互角。


 敵は見事だが、自軍も劣らぬ働きをしている。

 それでも、オーヴェは満足できなかった。

 このままでは戦功をあげられないだろう。


 そんなオーヴェに急報が入る。


「ブローム公爵様がボルーフカ辺境伯を討ち取り、敵中央先陣を突破しました!」

 という通信担当の魔術士からの知らせだ。


「何だとっ!?」

 オーヴェの表情は吉報を知らされた者が浮かべるものではなく、凶報を聞いたときに浮かべるものだ。


(このままでは、ブローム公に全て持っていかれる。この戦況で投入するのはまだ早いかもしれんが、もう時がない)


「騎兵に迂回攻撃するよう、伝えよ。敵左翼の横っ腹を食い破れ!」

「はっ!」


(私も出るか……。いや、まだ戦況をうかがうとしよう)


 オーヴェは功名にかられて、自身が持っている唯一のカードをきった。


 ◇  ◇


 パーヴィリア軍右翼先陣を務めるのは王軍第二師団だ。

 対するレベッカ=グルンデン公爵率いるアズヴァーラ軍はすでに騎兵を繰り出して、迂回攻撃を始めていた。

 トマーシュ=ファルスキー=グロシェク王軍第二師団長は冷静に対応し、長槍兵をそろえ陣を備える。


 しかし、第二師団の兵二千に比べて、レベッカ率いる軍は四千。

 戦いの場が横へと広がると、数的劣勢が戦況に影響し始める。

 第二師団は次第に押され始め、レベッカは予備兵を繰り出し、更なる攻勢を仕掛けた。


「……閣下、このままでは苦しくなります」

 第二師団参謀長が投影スクリーンを見てから、師団長に小声でそう述べた。


「慌てる必要はない。この戦況は陛下も御覧になっている。第一魔術士団か、第四師団が支援するよう命令を下すだろう。恐らくは第一魔術士団だろうが」

 グロシェクがそう答えると間もなく、通信担当の魔術士から報告があった。


「第一魔術士団が敵左翼後方に一斉攻撃を開始。敵左翼に乱れが生じています!」

「報告、ご苦労。参謀長、今の間に隊形を整えよ」

「かしこまりました。思慮が行き届かずお許し下さい」

 参謀長は謝罪するが、グロシェクは左手を振る。


「気にするな。それよりも、敵がどう出るか注意を払え」

「はっ」


 ◇  ◇


 アズヴァーラ国王のバルタザールは中央後方にて、最新の戦況を把握していた。

 中央先陣のシードル=ブロームが敵中央を突破し、左翼のレベッカはやや優勢、右翼のオーヴェは互角といった戦況に満足していた。

 予備兵力は、左翼後方のマーカム=ヒョランダルと右翼後方のエステリア=ヤンソン、そして手元にいる軍であった。


 バルタザールは右翼後方のヤンソン軍を中央に持っていって、ブローム軍の後方を埋め、左翼後方のヒョランダル軍をレベッカ軍のさらに左へ前進するよう、指令を下す。


 中央に穴をあけないようにし、最左翼にヒョランダル軍を持っていくことで左翼からの攻勢を強化する。

 右翼のオーヴェ軍は互角のまま持ちこたえてもらう。

 うまくいけば、中央と左翼からパーヴィリア軍を撃破できるだろう。

 これで手持ちの予備兵力はバルタザール軍のみとなる。


 バルタザールの意図は当初の予定通り、短期で決着をつけることだ。

 問題は予備兵力がわずかとなったことで、戦場の新たな展開に対処しづらくなること。

 バルタザールとしてはそのリスクよりも、一気に勝利することを優先した。


 ◇  ◇


 ヴァステノス教団のドリディン法王は従者二人を連れて、アウグナシオン教団のブラジェク大司教の陣へ出向く。

 間もなく、シードル=ブローム率いる重装騎兵団が襲い掛かってくる。

 そんなタイミングの来訪だが、ブラジェクは陣へ受け入れた。


「ドリディン猊下、間もなく敵がやって参ります」

「わかっておる。それゆえに座興を見せに参った」

「はて、座興とは?」

「ブローム公の実力を見たくてな。わしの魔術を披露しにきたのよ。前衛から放たなければ、味方を巻き込むかもしれんのでな」


 ドリディンは魔術を司る神ヴァステノスの教団トップとして、魔術の手腕に極めて優れていた。

 すでに八十三歳と高齢だが、彼は寿命が長いドワーフであり、まだまだ現役であった。


「それは頼もしい限りです。重装騎兵団の勢いを止めれば、迎撃しやすくなるでしょう」

 ブラジェクとしては願ってもない申し出だ。

 投影スクリーンで見る限り、勢い鋭くまともに迎撃するのは避けたい相手であった。


「ならば、共に転移魔術で前へ行くとしようか」

「仰せのままに」


 ドリディンと従者二人、ブラジェクは魔術で教団兵最前衛へと転移する。


「猊下、我々の魔力も使われますか?」

 美しい少年従者のミヒェルは甘い声でドリディンの意向をうかがう。


「いや、座興よ。そこまでする必要はあるまい。あくまで、ブローム公の実力を確かめたいだけぞ」

「御意」

 ドリディンとミヒェルのやりとりを聞いて、ブラジェクは眉をひそめる。

 ブラジェクとしては全力で攻撃してもらいたかったが、それを強制できる相手ではなかった。


「では、確かめてみるとするか」

 ドリディンは軽くそう言うや否や、右手に持つ杖から魔力を前方に流し込んでいく。


 魔力は青い炎と化し、みるみるふくらんでいく。

 凄まじい熱量が生じ、地面が焼け焦げ、ガラス化が進む。

 ドリディンは自分たちにその熱がこないよう、シールドを張って熱を遮断する。


 青白い火球はその大きさが直径四メートルにまで膨れ上がった。

 かつてミロシュが放った火球が直径一メートル強だ。

 特に顔色を変えることなく、ドリディンはその火球を制御している。

 冷徹なブラジェクですら、その様を見て圧倒されそうになった。


「どれ、この火球を防げるかな」


 ドリディンは杖を一振りし、火球を重装騎兵団に放つ。

 轟音をあげて、先頭のシードル=ブロームへ襲いかかる。


 重装騎兵団からも、その恐るべき火球の姿は当然見えていた。

 しかし、逃げ出す者も顔色を変える者もいなかった。

 なぜか?


 自分達を率いるシードル=ブロームに対して、絶大な信頼を抱いているからだ。

 シードルならば防いでくれる。

 その気持ちが彼らを動揺させなかった。


 そして、シードルは彼らの信頼にこたえる。


「竜気一閃!!」


 シードルの右手に持つ宝剣が前へ振り払われると共に、刃から放たれた白き竜気が火球を消し去る。

 熱気の中、重装騎兵が駆け抜ける。


「目指すはヨナーシュ王の首、ただ一つ! 私に続けぇっ!!」

「おおうっ!!」


 重装騎兵団の突撃は止まらない。

 高坂川高校の生徒達がいるアウグナシオン教団の陣へ突入しようとしていた。

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