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ハイグラシア新歴全書  作者: 火藤煌士
プロローグ
4/55

(4) サララとの盟約

 ミロシュは熟慮した結果、以下のようにポイントを割り振った。


===============


名前:ミロシュ

年齢:16 性別:男 種族:人間

身分:平民 経験値:120/200

レベル(残りポイント0):2

体力:36/36 魔力:36/36

腕力:20 持久力:20 敏捷:22

器用:19 魔攻:24 魔防:23

スキル(残りポイント0):

 翻訳読み書き(万能)、

 スキルポイントUP(2)、瞑想1、

 気配察知1、火属性魔法1

称号:

 異世界人

特記事項:

 入信:アウグナシオン

初期消費ボーナス:

 降下ポイント指定:1:パーヴィリア王国ソヴェスラフ近郊


===============


「どうですか? 何か問題があるようでしたら、教えて下さい」

 ミロシュは弱い魔物を倒せるよう最低限必要なスキルをとる。

 早さと魔法の威力に考慮して、敏捷を一、魔攻を二上げた。


 レベルを上げればかなり強くなれるように、スキルポイントUP(2)と瞑想を取得してある。

 自信のある割り振りだった。

 しかし、自分ではわからない欠点があるかもしれないので、ミロシュはサララに教えを乞う。


「私の感想を言ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、お願いします」

「理想的な割り振りだと思います。ミロシュさんはきっと『ハイグラシア』で偉大な業績を成し遂げるでしょう」

「いえ、僕なんかとてもとても。ただ、生き残るよう努力するだけです」


 ミロシュの本心だ。

 自分が特別優秀なつもりはない。

 勉強せずに東大当たり前という天才でもなければ、スポーツに特別優れているわけでもない。

 異世界人というアドバンテージを利用して、それなりの生活が営めるよう努力するつもりだ。

 しかし、召喚された生徒達の中で台頭できる自信はなかった。


「生き残りたいだけであれば、スキルポイントUPに割り振らず、もっと戦闘に役立つスキルを取得していたのでは? 戦闘で負ければ死にます。死ぬ危険を覚悟して、このスキルを取得するのは大望ある人だけです」

 サララは断言する。

 自信を持って。

 それに対して、ミロシュは視線をはずして、自信なさげに答える。


「危険なのはわかっています。しかし、リスクは減らしてますし、リターンは大きいと考えていますから」

「ええ、私はそれを大望だと指摘しているのですよ」

「……ある程度の力がなければ、自衛もできません」

 これもまた嘘偽りはない。

 力がなければ蹂躙されてもおかしくない世界だと、ミロシュは考えている。


「若いのに慎重ですね」

「命がかかっていますから」

 ミロシュの言葉を聞いてから、サララは笑みを消し、ミロシュを見つめる。

 サララの双眸に得体の知れない気配を感じる。

 ミロシュは怪訝に思い、サララに問いかけた。


「サララさん、どうしましたか?」

「決心がつきました。ミロシュさん、私と盟約を結びませんか?」


 ミロシュはサララが空想上の天使そっくりだと考えていた。

 純真そうで可憐な容貌で笑顔は愛くるしい。

 先ほど見た女神ほどではないが、人間臭さをほとんど感じさせないのだ。

 それでも、天使だから当たり前だと思っていた。


 しかし、今のサララは可憐な天使ではなく、真剣な眼差しの少女だ。

 視線にこめられている力がさっきとまるで違う。

 別人だ。

 そう、天使をやめて人間になったように思える。


「盟約ですか?」

 ミロシュは驚きを隠しきれず、サララの真意をうかがう。


「はい。盟約の内容ですが、私はミロシュさんに助力を行います。その代わり、ミロシュさんが強くなるに従い、私も強くなります。また、私が困った時はできる限りの助力をお願いします」

 ミロシュもまた眼差しに力をこめ、サララと視線をあわせる。

 二人の間で緊迫感が高まっていく。


「対等の盟約です。天使が盟約を結べる人間は一人だけなので、私は盟約を結ぶにふさわしい相手を探していました」

「お互いに利益がある盟約だと思いますが、どうして僕なんでしょうか?」

 ミロシュの顔つきが引き締まり、真剣みを帯びた。


「ミロシュさんは知性と能力を兼ね備え、生き残るのに必要な細心さを持ち合わせているからです」

「買いかぶりでは?」

 ミロシュの自己評価はそんなに高くなかった。

 高校生の評価といえば、学力とスポーツでほとんど決まるだろう。

 どちらも自分は突出して秀でていない。


「あなたは自己評価が低すぎます。日本という生ぬるい環境の国では、あなたの資質をうまく生かせてないようでしたが、ハイグラシアでは真価を発揮できると私は考えています」

 サララは表情をゆるめ、ミロシュに天使の微笑みを見せる。

 不意をつかれ、ミロシュはどきりとするが、


「どうして、そこまで僕を評価するのです?」

 と、ミロシュは笑みを返さない。 

 用心深さが表情を引き続き硬くする。


「これまでの問答とあなたの選択から、そう判断しました。もう一度言いますが、天使が盟約を結べるのは一人だけです。盟約相手が強くならなければ、私も強くなれません。ミロシュさん、私と一緒に強くなりませんか。世界で台頭してくれとは言いません。あなたが強くなるだけでいいのですから」


 サララは数多くの男性を魅了するであろう微笑を浮かべながら、ミロシュの説得を嫌がらずに続ける。

 なぜか?

 ミロシュのその用心深さがサララにとっては好ましいからだ。

 もう少し野望を持ってほしいとは思う。

 大きな力を早く手に入れようとするだろうから。

 しかし、無理をして死んでもらっては困る。

 盟約相手の死は自分の力が失われることになる。

 着実に強くなってくれる方が望ましい。


「盟約のデメリットを教えてください。サララさんが死ねば、僕も死ぬのでしょうか?」

「いいえ、そんなことはありません。逆にミロシュさんが死んでも私が死ぬことはありません。デメリットがあるとすれば、他の天使と盟約を結べなくなります。神々の加護を受けることは可能です。そういう機会があればですが。それと、お互いに盟約相手を害するような行為はできなくなります」

「それに嘘偽りはないですね?」

「ありません。天地神明に誓って」


 サララは神に誓わなかった。

 そのことにミロシュは気づかなかった。


 ミロシュはサララから目線をはずして、考える。

 この盟約があれば、死ぬ確率が大きく下がるだろう。

 とても魅力的な内容だ。

 しかし、将来にわたって盟約に縛られ、サララに利用される可能性がある。

 行動の自由を保ちたいミロシュにとってはデメリットだ。

 長所と短所を考慮した結果、ミロシュは決断を下す。


「サララさんを疑い、失礼なことを言ってすみませんでした。その盟約、喜んで結ばせていただきます」

 これから赴くハイグラシアには知己なんてもちろんいない。

 助け合える相手が必要だろう。

 ミロシュは短所に目をつぶった。


「用心深くなるのは当たり前ですから、気にしないで下さい。盟約を受けていただいてうれしく思います。共に強くなりましょう」


 サララは一息おいて、

「誰よりも強く、侵されることない最強を目指しましょう」

 と、今までの会話でもっとも声に力をこめた。


 外見は可憐な美少女のサララである。

 普通ならこのような言葉に違和感を伴うが、ミロシュはそう感じなかった。

 サララの眼は力強く、強烈な意志が宿っていた。

 眼にこもった覇気にふさわしい言葉だ。


「それでは、盟約を結びましょう。両手を出して下さい」

 サララに言われ、ミロシュは両手を出す。

 ミロシュの両手にサララは両手を重ねあわせた。


 ミロシュはサララの温もりを感じる。

 それは心地いいものであった。

 天使がもつ力だろうか、それとも、サララの可憐な容貌がもたらすものか。

 あるいは、妹以外では冷え冷えとした人間関係しか持たない自分の心が慰められているのだろうか。


「世界よ、ご照覧あれ。大いなる創造神よ、ご照覧あれ。我、天使サララとここにありし人間ミロシュが結びし魂の盟約を!」

 サララが言葉を紡いだ後、二人の両手から光が発せられた。

 ミロシュは両手に強い熱を感じるが、痛みはない。

 サララとミロシュを光が覆った後、光が消えた。


「これで盟約が結ばれました。私たちは一心同体です」

「頼もしく思います、サララさん」

 二人の眼差しは一変して優しくなり、なごやかな雰囲気が流れる。


「それでは、盟約がステータスに反映されたか確認してください」


 ミロシュはステータスを確認する。

 スキルに『経験値獲得UP(1.5倍)』、称号に『天使の盟約者』、特記事項に『盟約:天使サララ』が加わっていた。


「盟約はわかりますが、このスキルは……」

 とまどうミロシュにサララはこたえる。


「私の理力を消費して、スキルをプレゼントしました。ミロシュがレベルアップして強くなれば、私は失った理力以上の力が得られますから」

「このスキルやスキルで得られた経験値は、不吉な話ですけどサララさんが死ねば失われますか?」


 ミロシュの用心深さにサララは苦笑せざるを得ない。

 この用心深さは生来のものだろうか。


 サララは内心でそう考えながら、

「いえ、大丈夫ですよ。そのスキルも経験値も失われません。その前提で計画をたててください」

 と、顔に微笑をはりつけて答えた。


「どうもすみません。失礼な質問ばかりで」

「いいえ、必要な質問だと思いますよ」


 謝りながらも、ミロシュは内心、自分にとって都合がよすぎると感じていた。

 『経験値獲得UP(1.5倍)』は極めて大きなメリットだ。

 それを無償で手に入れることなどありえない。

 都合が良すぎるというものだ。

 後々、自分が強くなれば、サララにこの借りを返すよう要求されるだろう。

 ぞっとしないが、今はこのスキルをうまく利用するしかない。


「ステータスは決まりましたが、ハイグラシアに降りるまでまだ二十時間以上あります。なので、ここで少しでも火属性魔法の鍛錬をしませんか」

「え、それは可能なんですか?」

「はい。ステータスを最終決定すれば、そこから鍛錬は可能です。盟約を結んだ以上、私はミロシュさんに有利な情報を提供していきますよ」


 相変わらずの微笑みを浮かべながら、サララはそう言った。

 しかし、別に盟約を結んでいなくても、召喚された生徒達全員に伝える情報だった。

 まだ完全に信頼されてない自分を少しでも信じてもらえるよう、そう言ったまでだ。


「どうもありがとうございます。では少しでも強くなるために火属性魔法を鍛錬することにします」

「はい、がんばって下さい」

 さすがに用心深いミロシュもサララの好意を信じた。

 貴重な情報が得られて喜んだということもある。


 この天使と人間の盟約は、現時点では世界に何の影響も与えることはなかった。

 しかし、やがて世界にとって大きな意味をもつのだ。

 ある者はこの盟約に感謝し、ある者はこの盟約を恨み呪うことになる。

 世界は今、大いなる変革に一歩近づいた。

 ある神の言葉より抜粋し、ここに記す。


 ◇  ◇


 アウグナシオンは万華鏡をのぞいていた。

 万華鏡の中では、彼女に仕える天使達が数多くの生徒達と盟約を結んでいる。


「順調のようね。あらあら……」

 その中には文字通り、身体が結ばれている者達が何人もいた。


「困ったものね」

 と、言いつつも、アウグナシオンの顔は笑っている。


「結びつきが強まれば強まるほど、真剣みが増して早く強くなってくれるでしょう。実にいいこと」

 アウグナシオンは笑みを浮かべながら、他に誰か面白いことをしていないか、のぞいて探す。


 やがて、彼女の神眼は数人の優秀な人間達に向けられ、観察し続ける。

 彼女の笑みは会心のものとなっていった。

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