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(28) 聖暦一五四二年六月 国王との謁見

 聖暦一五四二年六月十九日午後。


 ヨナーシュ二世率いる王軍がソヴェスラフに入場した。

 軍勢は民衆に歓呼の声で迎えられる。

 その中を粛然とした姿勢で行軍していった。

 アウグナシオン教団のコウタのように、浮かれている者も何人かいたが。


 六月十一日に始まった悪夢の日々は過ぎ去り、ソヴェスラフの民は再び平穏を取り戻す。

 ヨナーシュ二世は、ソヴェスラフの民に飲食物を無料で提供し、それと共に布告する。


「ソヴェスラフの民を危険にさらした事をわびなければならぬ。だが、予は民を守護する務めを真摯に行うつもりである。ボグワフ鉱山は予率いる王軍が必ずや取り戻し、完全なる安寧を民にもたらすであろう。 ヨナーシュ二世」


 また、特に北辺から逃げてきた貧民に対して、手厚く物資を配布していった。

 ソヴェスラフ中に国王万歳、王国万歳の歓声が鳴り響く。

 強制されたものでなく、心からのものだ。

 民衆の眼からして、ヨナーシュ二世は最良に近い統治者であった。


 民衆からすれば一安心であったが、軍の任務はまだ終了していない。

 これから立て続けにボグワフ鉱山奪還作戦が行われるのだ。


 ヨナーシュ二世はソヴェスラフにて、論功行賞を行うつもりであった。

 スピードを重視するヨナーシュ二世ならではのものだ。

 なので、典礼大臣及びその下僚が同行していた。

 彼らはソヴェスラフにて早速、論功行賞の準備にとりかかる。

 軍功をとりまとめて、どのような褒賞を与えるべきかの原案を作成する必要があった。


 将軍達士官は、明後日から行われるボグワフ鉱山奪還作戦のとりまとめに当たっている。

 兵卒達の半数はソヴェスラフ北辺にて夜営するための準備にとりかかった。

 ほとんど死者が出ていないので、一万四千の軍勢がそのまま健在だ。

 ソヴェスラフの宿泊施設には限りがあり、旧スラム地区にて夜営せざるを得ない。


 もう半数はゴーズァイ達の死体を焼いて、城外に埋める作業を続けていた。

 放置すれば、疫病の原因になる恐れがあるし、農地が汚染されてしまうかもしれない。


 夜となっても、ソヴェスラフ市街は騒がしかった。

 国王から酒食が提供されているのもあるが、今日くらいは誰もが騒ぎたかった。

 農村部で働いている者は、明日から荒らされた農地を再整備する過酷な仕事が待っている。

 鉱山関連で働いている者は、鉱山が奪還されるまで、まだ見通しがたたない。

 彼らは、信頼する国王がきっと取り戻してくれるだろう、と信じている。

 しかし、絶対ではないこともわかっている。

 わだかまる不安を今夜くらいは忘れたかった。


 ミロシュ達というか、ミロシュはさすがに精神的に疲れ、政庁客室で休み、静かに過ごした。

 彼らは論功行賞があるまでは、一介の冒険者であり、軍務に縛られることもない。

 だが、明日には重要なやるべき事がある。

 ヨナーシュ二世との私的な謁見だ。

 公式な論功行賞の前に、ミロシュ達と会ってみたいという国王の意向により、セッティングされた。

 ミロシュ達にとって、これから仕えるべき主君との初対面の場となる。

 粗相をせぬよう、英気を養う必要があった。


 夜は過ぎ、日が昇り、六月二十日を迎えた。

 ミロシュ達は迎えに来た侍従武官に従い、政庁に設けられている国王執務室へ向かう。

 国王はほとんど王都ザハリッシュに滞在しているため、滅多に使われることのない部屋だ。

 しかし、いつでも国王が使用できるよう、入念に手入れされている。


 ミロシュ達は脇の部屋にて、杖などを預け、ローブなどの衣服も脱いで、官服を着させられる。

 これは、国王など貴人と面会するにあたって、よくあることであった。

 暗殺への警戒で武器のみならず、防具も解除されるのだ。

 国王の甥にあたるカミルはともかく、ミロシュ、シモナは無位無官だ。

 なので、面会するにあたって、ミロシュとシモナの身元保証書にカミルとドレイシー執政官がサインして提出している。

 万一のことがあった場合、カミルとドレイシー執政官が責任をとるということだ。

 カミルの場合、父である公爵も連帯責任を負わせられるだろう。




 カミルはそのことを知っていたので前夜、応接室にてドレイシー執政官に謝意を述べている。


「何をおっしゃられます。私いやソヴェスラフが、カミル様達にしていただいたことを思えば、大したことはありませぬ」


 ミロシュとシモナもカミルに仕組みを教えられて、感謝する。


「ドレイシー様、どうもありがとうございます」

 ミロシュは丁重に一礼した。

 いわば、連帯保証人になってくれたのだ。

 カミルのお陰というのがあると思うが、好意に対して素直にありがたかった。


「ミロシュ殿、官位役職に違いはあれど、私達は共に陛下に仕える同僚となりましょう。これからはよろしくお願いいたします」

「僕の、あ、いえ、私のような者に対してのご好意、きっと忘れませぬ」

 ミロシュは、自分でも芝居がかっていると思うが、かわっていく立場にふさわしい言葉遣いに改めるつもりだった。

 自分が今まで読んできた本を頼りとしたあやふやなものだが。

 間違えている部分があれば、カミルに修正してもらわなければならないだろう。


 ミロシュの硬くも初々しい言葉遣いは、かつての若い自分を思い出したドレイシーに薄い笑みをもたらした。


「ミロシュ殿、カミル殿下がついている以上、私がでしゃばることもありませぬが、何かありましたら、いつでもご相談下さい。面会を申し出てくだされば、いつでも対応いたしましょう」

 カミルにドレイシーが大臣格の重臣であることをすでに教えられていたミロシュは、その言葉にかなりの重みがあることに気づく。


「そのお言葉、ありがたく受け止めさせていただきます」


 丁重さと謝意に彩られたミロシュの返答に、ドレイシーは満足げに頷いた。




 前夜に以上の会話が行われていたが、ドレイシー執政官は同行せず、執務に励んでいた。

 衝立がおかれ、ミロシュ、カミルとシモナは別々に着替えをした。

 サララはソヴェスラフに集まっている天使達の会合に出席している。


 上は白、下は黒いズボンの官服に着替えたミロシュ達は、いよいよ国王執務室に入室する。

 ミロシュばかりでなく、カミル、シモナも緊張して手足の動きがややぎこちない。

 ミロシュ、シモナは国王という貴人と会うことに対しての緊張であったが、カミルはヨナーシュ二世という人物を知っているがゆえの緊張であった。


「三人ともよく来てくれたな」

 だが、その緊張をほぐすかのような柔らかい声が発せられた。

 むろん、ヨナーシュ二世のものだ。


 ヨナーシュは両手を広げ、笑みを浮かべていた。

 彼は四十近いが、ほとんどの者からして三十前後に見えるだろう。

 全身をくるむ活気と鋭気、若々しく整った金髪碧眼の容貌がそう見せるのだ。


「さぁ、そこに座ってくれ」

 ヨナーシュの言葉に応じて、ミロシュ達はソファーに座る。

 対面にヨナーシュが座った。

 薄い笑みを浮かべていたが、ミロシュ達に感じさせる威厳と鋭気は半端なものではない。


 部屋の隅に侍従二人、武官二人、魔術師二人が立っていた。

 脇の部屋にはさらに多くの護衛がつめている。

 また、魔法に対する厳重な防御結界が張り巡らされていた。

 暗殺に対する警戒だ。


 ハイグラシアにおいて、このような警戒はごく一般的に行われている。

 貴人に対する暗殺手段として、もっとも多いのは魔法や毒物を用いたものだ。

 逆に剣などを用いるのは、そう多くない。

 やはり、貴人には多くの護衛がついており、近距離からの暗殺は難しいからだ。

 魔法を用いれば、遠くから暗殺が行え、実行者は脱出しやすい。

 なので、魔法に対する警戒は厳しかった。


 ヨナーシュは私的な謁見を好み、よく行っている。

 人材を発掘し、登用するために必要だからだ。

 だが、それが可能なのは、彼が卓越した強さを持つからであった。

 凶刃を振るわれても、強力な魔法をうちこまれても、防げるからだ。


 多くの国王や国の代表者は、そう簡単に冒険者などを近づけなかった。

 普通の冒険者であれば、もちろん会う必要などない。

 高名な冒険者相手だと警戒する。

 強ければ強いほど、暗殺される可能性があるからだ。

 過去にそういった事例はいくつもある。

 なので、ハイグラシアにおいては、国王と冒険者の謁見など極まれであった。


 ミロシュとシモナはソファーの座り心地に驚く。

 柔らかさと革表面のなめらかさがとても心地よかった。

 調度の豪華さに、ミロシュはまるで昔見た博物館のようだと思う。

 机、壁面、衝立、置物、絵画など、ありとあらゆる物に細緻で美しさを感じさせる細工が施されていた。


「今は私的な場だ。身分を気にせず、気楽に話してもらいたい。まずは、パーヴィリア国王としてそなたらの働きに感謝の言葉を述べさせてもらおう。ありがとう、よくやってくれた」

 ヨナーシュや部屋の豪華さに圧倒されていたミロシュ達だったが、その言葉にはっとする。


「いえ、当然のことをしたまでです」

 カミルが代表して受け答える。

 個人的に質問されない限り、カミルが代表して返答するよう、三人は打ち合わせをしていた。

 その後、カミルがミロシュとシモナを紹介する。


「カミル、そなたらは予に仕える気持ちがあるのだな?」

「はい。仕官させていただければ、うれしく思います」

「なぜだ? 王位継承権を捨てて、冒険者の道を選んだお前が翻意した理由を知りたい」

 ヨナーシュは顔から笑みを消していた。

 彼がカミルを見る視線は鋭く、脇で見ていたミロシュとシモナは息をのむが、カミルは落ち着いていた。


「私が考えを変えたのは、ミロシュと出会ったからです」

「……ミロシュ君のことを詳しく聞かせてもらおうか」

 今度はヨナーシュがミロシュの眼を見る。

 ミロシュは自分の内面までのぞかれているような気分に陥り、鼓動が早くなったのを感じる。

 しかし、両手のこぶしを握って落ち着きを取り戻すべくつとめる。


(神々と戦う覚悟を決めたんだ。相手はいくら国王でも人間にすぎないじゃないか!)


 ミロシュは瞳に力をこめて、ヨナーシュと視線をあわせる。

 それから、ルーヴェストンのことをのぞいて、これまでにあったことを全て話していく。

 打ち合わせで、ルーヴェストン関連以外は嘘をつかないと決めていた。

 カミルはヨナーシュの鋭さを二人に教え、嘘は見抜かれる可能性が高く、そうなった場合、取り返しがつかないことを教えたのだ。


 ミロシュがアウグナシオンに召喚されたことを述べた時、ヨナーシュは驚いたようだったが、何も言わなかったので、ミロシュは話を続ける。


「私は最初、静かに生きていくつもりでした。なので、元々は黒髪でしたが金髪に変えて、顔もこの地に住む人々に似せたんです。しかし、魔物の襲来で考えが変わりました。ハイグラシアにおいては、様々な意味で力を持たなくてはただ翻弄されるだけだと。自分は力を蓄えて、魔物達に殺されたような力弱い人達を助けていきたく思います。カミルとシモナは私の考えに賛同してくれて、生死を共にしてくれることになりました。カミルに相談した結果、陛下に仕えることをすすめてくれたわけです」


 ミロシュは話し終えて、ヨナーシュを見つめる。

 ルーヴェストンや神々と戦うことは省いたが、その他は全て本当の話だ。

 だから、やましい思いを抱くことなく、真摯に話すことができた。

 ヨナーシュが自分の思いをどう受け止めたのか、ミロシュは多少不安に思いながらもヨナーシュの言葉を待った。


「よく話してくれたな、興味深く面白い話だった。そなたらにいくつか質問させてもらおう。まず一つ目だが、教団に身をおくことは考えなかったのか」

「それも考えましたが、カミルが協力してくれる以上、陛下にお仕えする方が好ましいと思いました。私は教団についてよく知りませんし、盟約を結んだ天使サララも陛下にお仕えすることを賛同してくれました」

「……天使がとめなかったのだな。カミル、生死を共にするほど、ミロシュ君にほれこんだのかな」

 ヨナーシュはまた軽く笑みを浮かべた。


「はい。惨たらしく殺された民を思い遣るミロシュの心に惹かれるものがありました」

「カミルも弱者をいたわってやりたいと思っているのか?」

「できる限りのことをしたいと考えています」

「カミルがそういうことを考えていたとは気づかなかったな」

 カミルを見るヨナーシュの目つきが厳しくなったようにミロシュは思えた。


「家を出る前からそう強く思っていたわけではありません。ミロシュに感化されたところがあります」

「……なるほどな」

 といって、ヨナーシュはミロシュを見つめる。

 しばらくして、ヨナーシュはミロシュからシモナへと視線をうつした。


「シモナ君はエルフだというのに、人間である予に仕えるのにわだかまりはないのか」

 エルフが異種族に仕えるのはごくまれであった。

 ほとんどのエルフが、アルノーシュ王国のようなハイエルフが統治している国に仕えている。


 シモナは魔力障りであることや、自分の出自、ミロシュ達との経緯をヨナーシュに話す。


「なので、あたしにこだわりはありません。ミロシュの力になれればそれでいいんです」

「失礼な質問で悪いとは思うが、必要なので聞かせてもらおう。シモナ君は異種族のミロシュ君のために死ねるのかな?」

「はい。あたしの命はミロシュのものです」

 シモナはためらいなくそう言い切った。

 ミロシュは少し顔を赤くする。


「カミルだけでなく、エルフのシモナ君にまでそう言わせるとはミロシュ君は大したものだ」

「いえ、そんな……」

 ヨナーシュの声に感嘆の響きが混じる。

 影浦徹平がアルノーシュ王国で体験したように、エルフは異種族になかなか心を開かない。

 寿命が長いエルフの矜持の高さを、ヨナーシュはよく知っていた。


「最後の質問だ。ミロシュ君の物言いだと、仕える予よりも弱き民への配慮を優先しそうだな」

 ヨナーシュは意地悪い顔になる。


「いえ、そのようなことは……」

「ハハッ、冗談だよ。それにカミルなら予にそう思われる危険性をわかっていたはずだ。だから、予に仕官する理由をたとえば、英邁なる予に仕えたい、と言葉をかざろうとは思わなかったのかな?」

「仕えるべき主君に嘘をつきたくはありませんでした。確かにこれから、板ばさみになるような状況に陥るかもしれません。しかし、二人の智恵、いや、僕に協力してくれる人々がでてきたら、その人達の知恵も借りて、できる限り打開できるよう、努力するつもりです」

 つい、癖で僕といってしまったことに気づいたミロシュはしまった、と思う。

 そんな些細なことをヨナーシュは気にせず、笑みが深くなる。


「三人の事情はよくわかった。喜んで三人を召抱えよう。予から出仕を頼みたいくらいだ」

「ありがとうございます、陛下」

 カミルが頭を下げ、ミロシュとシモナがそれに続く。


「感謝したいのは予の方だ、カミル。ミロシュ君、いや、家臣となるからには、呼び捨てにさせてもらうぞ。ミロシュによく予への出仕をすすめてくれたな。今までの話からして、シモナもミロシュがその気にならねば、予に仕えることはなかったようだしな」

「お仕えするとあれば、陛下ほどの英主はおられません」

 カミルの真情であった。

 ヨナーシュの厳しさ、怖さも知っているが、門地にこだわらず能力で引き立ててくれる国王はごく限られている。


「予も息子達や甥達の中で、そなたがもっとも優れていると思っていた。ゆえに、気持ちを変えて仕えてくれることはうれしく思っているぞ」

「……滅多なことは仰らないで下さい。私は王位継承権を返上したとはいえ、誤解を招きます」

「そうだな。アーモスにも気を遣わせているようだ。すまなく思っている」

「いえ……」

 父の配慮がヨナーシュに気づかれていることを知り、カミルはヨナーシュの鋭さを再認識する。


「それでは、そなたらの処遇だが、カミルは大勲爵士で七ヶ村を治めてもらおう。言っておくが、アーモスには書状で了解を得ている」

 ドレイシーの上奏でカミルの事を知ったヨナーシュは、行軍中も王都で留守居を務めているアーモスと早馬で連絡をとり続けていた。

 アーモスばかりでなく、国務が滞らないよう王都との連絡を密にし、国王の判断が必要な事項の決裁を夜営中にすませるようにしていた。


「……父上も了解しているのであれば、異存はありません」

 ヨナーシュの手際のよさにカミルは驚きを隠せない。


「所領の統治はアーモスの助けを借りればよかろう。身分の低さに内心不服かもしれんが、軍功をあげれば、すぐに昇爵させるつもりだ」

「不服など、とんでもありません。昇爵できるよう、努力いたします」

 王族の処遇は各国でまちまちであった。

 カミルの爵位は王族にしては低いかもしれないが、所領が七ヶ村もある。

 領地がない子爵や男爵よりも、実質的な収入は上だろう。

 国情によって異なるが、王族の数が多い国では王の甥でもカミル以下の待遇はいくらでもあった。


 カミルはひとまず、父の部下を代官として派遣してもらい、所領を統治するつもりだ。

 ルーヴェストンにスキルなしでの戦い方を教わる方が先決であった。


「ミロシュには大騎士爵の爵位を与えよう。現時点で所領を与えても統治は難しかろうし、無役とする。カミルを寄り親とし、まずは実力を養い、多くのことを学ぶが良い。それだけでは、そなたがあげた軍功とつりあわぬゆえ、折をみて引き上げる。どうかな?」

 大貴族は寄り親として、弱小貴族である寄り子と結ばれる制度があった。

 寄り親は寄り子の面倒を見る必要があり、寄り子は寄り親の指示に従わなければならない。

 カミルは父公爵の寄り子となる。


「喜んでお受けします。陛下のご配慮に感謝いたします」

 ミロシュとしては最良の処遇といっていい。

 カミル同様、今はとにかくルーヴェストンの指導で力をつけたい。

 そのためには時間がとられない無役が望ましかった。

 むろん、所領の統治などできる状態ではない。


「うむ」

 ヨナーシュにも思惑はある。

 ソヴェスラフの決戦で召喚された者達の成長力を知った以上、ミロシュにも成長してもらいたい。

 なので、うかつな任務を与えるより、カミルに預けたほうがいいだろうということだ。

 折をみて、成長したミロシュの実力をテストするつもりだった。


「シモナには騎士爵の爵位を与える。後はミロシュと同じだ。ミロシュ達と引き離すような配置にしないと約束する。シモナにはそれが一番よかろう」

「はいっ! 感謝いたします」

 シモナが元気よくこたえ、ヨナーシュは好ましそうに頷いた。


「明日から行われるボグワフ鉱山の奪還作戦は参加せずともよい。偵察の結果、大した問題もなく奪還できそうなのでな」

 すでに斥候を鉱山にはなっていたが、強力な魔物はいないという報告をヨナーシュは受け取っていた。


「かしこまりました」

 カミルが代表してこたえる。


「正式な論功行賞ならびに叙爵式は十日後あたりとなろう。楽しみにしているがいい。その時にまた会おう」


 以上でヨナーシュとの謁見が終わった。

 ミロシュ達は結果に満足して、退室する。

 希望通りの処遇だったからだ。


 三人が退室した後でも、ヨナーシュは笑みを絶やさない。

 公式謁見ではいくつかサプライズを用意するつもりだ。

 ヨナーシュは似たようなことをよく行っている。

 そのサプライズにどう対処するかで、人物の真価を見極めるためだ。


(そなたらの器量を試させてもらうぞ)


 ヨナーシュは侍従に次の面会者を呼ぶよう、指示を出した。

 国王である彼にとって、やるべき事はいくらでもあったのだ。


 ミロシュは公式謁見にて、ブラジェク並びに高坂川高校の生徒達と初めて会うことになる。

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