(2) マユカの静かな侵略
時は誰にでも平等に流れる。
それが唯一の平等であったかもしれない。
ミロシュは聖暦一五四二年三月と四月には仲間と出会っておらず、極めて地味な生活を過していた。
しかし、マユカは召喚された生徒達の中で、もっとも華やかな生活をある意味、おくっていたかもしれない。
ミロシュが降りたパーヴィリア王国の南西には、獣人族が支配するイゴル王国があった。
さらに、その西へいくとバルナシュト大陸でもっとも国土が広いグナイゼル王国だ。
グナイゼル王国の王家や貴族のほとんどは人間である。
マユカはそのグナイゼル王国の都に降りた。
グナイゼル王国は大国だった。各種産業に栄え、強兵の国でもあった。
しかし、四代前に即位した国王が極めて暗愚であり、死後に後継争いが生じて、繁栄は失われた。
国土は大陸一だが、人口は流出と内乱による減少によって、もう大陸一ではない。
現在の国王ヨハンネス一世も暗愚であり、政治は乱れ、貧富の差がひどくなった。
国民は王族や貴族に対する反感を蓄積していた。
まさに、マユカが望んでいた国であった。
マユカは最初にターゲットとする人間を決めていた。
同じ三年二組の坂西浩二だ。
エフセイから得られた情報で、彼も近くに降りたらしい。
彼が盟約をかわしたのは下級天使で、手を出しても問題ないそうだ。
天使は人間に直接手出しできないらしい。
『黄昏条約』に違反するという。エフセイに条約の全容をきいたが、全ては教えられないそうだ。
条約は神をも縛るらしい。
いずれ、この条約の全てを知る必要がある、とマユカは考えていた。
坂西浩二と偶然の出会いを装って会うのはマユカにとって簡単だった。
元々、彼が自分に好意を持っているのは知っている。
異世界で心細くなっていた彼は、偶然の出会いを演出すると、とても喜んだ。
哀れなほどに。
マユカは彼に調子をあわせて、エフセイに用意してもらった小さな家へと二人で入った。
内心の邪な期待を必死に隠している彼に魔法をかけて陶酔させ、覚醒剤を投与するのはとても簡単だった。
簡単すぎて、マユカは失笑した。
マユカが貸してもらったエフセイの召使は、見た目が人間そっくりである。
レブラノイドという種族で老いない代わりに、寿命が短く約四十年しかないらしい。
青年と若い女性、一人ずついて、端正な容貌でそれなりに戦える強さだそうだ。
青年の名前がセイア、女性の名前がセイだった。
「セイ、後はよろしく」
「かしこまりました」
セイが坂西浩二を天国に連れて行った。
天国で彼の魂は変質し、二度と元に戻らなかった。
坂西浩二に罪はない。ただ、運が悪かったのだ。
彼の非をあえて問うなら、ミロシュのように降りる土地を別に選ぶべきだった。
しかし、魔物や盗賊には警戒していても、好きな女の子からこんな仕打ちを受けるとは思っていなかったのだ。
だが、いきなり非業な最期を遂げるよりかはマシだったかもしれない。
事がすんだのを無表情なセイが報告する。
寝台の上で失神している浩二をマユカは確認した。
彼は至福の表情だった。
「お疲れ様」
「いえ、任務ですから」
「あなた達って恋愛感情とかあるの?」
「いえ、感情自体ほとんどありません」
「本当に?」
マユカにしては珍しく驚いた。
「はい。極めて希薄です。恋愛などもしません」
「そう、それはよかったわね」
淡々とマユカはかえした。
「ただ、演技はできます」
無表情なまま、セイは述べた。
「そう、これから何人も相手するだろうけど、できる限りの演技をしてあげて」
「かしこまりました」
マユカは浩二に視線をあわせて、
「もうずっと天国よ。よかったわね」
と言って、部屋から出た。
目が覚めた坂西浩二は、もうセイの虜だった。
彼が盟約を結んだ天使が気づいたときには手遅れだった。
浩二は聞く耳をもたず、マユカはこう繰り返すだけだ。
「悪いようにはしないわ。彼を使い捨てにしないし、強くするから」
マユカは上級天使であるエフセイの盟約者だ。
天使はその言葉を受け入れるしかなかった。
次のターゲットは桜沢那美だった。
彼女も近くに降りていた。この近くに降りているのは三人だけである。
『黄昏条約』により、世界への影響が大きすぎる因子の召喚は禁じられている。
条約の網の目をくぐるため、高坂川高校の生徒達はハイグラシア各地に分散されて、召喚されていた。降りる場所はランダムではない。そういう説明をマユカはエフセイから受けていた。
彼女はマユカに推薦枠を奪われたのを根に持ち、彼女の噂を流して停学処分を受けていた。
つまり、彼女はマユカを恨んでいて、近寄っても警戒されるだろう。
だから、先に坂西浩二を虜にしたのだ。彼女をつるために必要だったから。
後は坂西浩二の場合と同じであった。
彼を使って桜沢那美をつった後、魔法と薬剤で夢心地にした。
一つ違うのは、相手するのがセイではなくセイアだってことだ。
彼女もまた、セイアの虜となり、魂が鎖に結ばれた。
彼女と盟約を結んだ天使が抗議しにきたが、坂西浩二の時と同じようにマユカはあしらった。
これでひとまずの手駒はそろった。
マユカ、セイア、セイ、コウジ、ナミの五人で探索にでかける。
マユカは戦わない。四人が戦って得られた経験値をもらうだけだ。
彼女はレベルアップで得られたスキルポイントを蓄積していく。
彼女にはとりたいスキルがあったが、極めて大量のポイントが必要だった。
坂西浩二はレベルポイントUP(2)、桜沢那美は経験値獲得UP(1.2倍)を取得していたのをマユカは聞き出していた。これで常人よりは成長速度が早いのがわかった。
だから、二人を当面、失うわけにはいかない。
彼と彼女が壊れないよう、薬物の添加はへらし、魔法でカバーしてある。
セイとセイアも彼と彼女を精神的にフォローしていた。
彼ら四人は探索中もとても楽しく会話している。
一見、とても微笑ましい光景であった。
駆け出しの冒険者達が力をあわせて魔物を屠っていく。
ナミが危なくなったら、セイアがかばった。
「セイア、ありがとう!」
「これくらい当然だよ、ナミ」
身体を張ってナミをかばったセイアの端正な横顔を見て、ナミは幸せだった。
(私、ハイグラシアに来れてよかった……)
また、セイを攻撃しようとした魔物をコウジが倒す。
ミロシュやカミル、シモナ達ととても似ている。
しかし、本質はまるで違っていた。
それを三人は知っているが、二人は知らない。
マユカのレベルが十になったところで、探索を一時うちきる。
マユカの魔力や魔攻が上がり、より大物を手駒に加えるべく狙えるようになったからだ。
マユカは巧みに四人を用いて、強い冒険者と会う機会を作っていく。
高レベルの冒険者は、隙がなく魔法耐性が強い。
薬剤をのませるなど、細工をしなければまず無理であった。
しかし、マユカの精神魔法は極めて強力だ。レベルアップをしてから、より一層。
なので、すんなりうまくいくことが多かった。
しかし、抵抗されたこともある。
どうしようもない場合は始末したが、大抵は成功した。
魔法に抵抗できる法具を持っていても、薬剤には抵抗できなかった。
薬剤に耐性があっても、魔法に対抗できない者もいた。
一人加えるごとにマユカが持つ戦力が増えていく。
両方に抵抗できる強者であっても、すでに十人をこえていたマユカ達には歯が立たなかった。
マユカは遥かに強化されたパーティで探索を再開した。
セイとセイアは同行させていない。
彼と彼女には、留守を預かる者達に夢を見せてあげる任務があった。
ナミとコウジはもはやかなり使える冒険者になっていた。
彼らも強力な冒険者達と同行するメリットを享受しているからだ。
彼らが強くなることによって、彼らの盟約者である天使達もマユカに協力的となった。
マユカはさらにレベルアップしていく。すると、薬剤創造も精神魔法も強力になっていく。
それらを用いて、冒険者ギルドに所属する強力な冒険者を次々と手中におさめていった。
パーティごと篭絡した冒険者は、そのまま活用していた。
パーティを別にもつ冒険者はいつもと同じように振舞うよう指示してあった。
そして、一人ずつ一人ずつ、かたにはめていくのだ――
マユカは何人か廃人がでるかもしれないと考えていたが、廃人になる者はいなかった。
これは皮肉なことに、覚醒剤を大量合成できないがゆえに、できる限り使用量を抑える必要があったからだ。
また、陶酔させる精神魔法との相性が思ったよりもよくて、少量の覚醒剤で相手の心を束縛することができたのも大きい。
彼女は極めて優秀な研究者であった。
もう、セイとセイアだけでは人手不足だった。
だから、容姿に優れた者を何人かピックアップして、マユカ本人が直々に手ほどきしてから、新たな要員へと仕立てた。
また、冒険者達に拠出させた資金で、拠点を大きな屋敷へ移した。
目ぼしい冒険者を獲得できたところで、マユカはいよいよ別のターゲットに乗り出す。
エフセイはグナイゼル王国にあるアウグナシオン教団に、マユカを支援するよう通達を出す。
上級天使であるエフセイの通達に、教団は全面協力を約束した。
といっても、グナイゼル王国にある教団の規模は大きくない。
アウグナシオンとは別の人間の守護神ファバイダンへの信仰が、グナイゼルではもっとも篤かった。グナイゼル王国に存在する教団で規模は最も大きい。
エフセイにはエフセイの思惑がある。
マユカの企てを成功させることによって、グナイゼル王国におけるファバイダン教団の勢力を弱らせて、アウグナシオンの教団を強化するつもりであった。
そうすれば、自分の功績となる。
マユカにとっては、教団が身元保証人になってくれるだけで十分だった。
教団が小さくても、何人かの要人と会うのに差し支えなかった。
いきなり大物を狙う必要はない。
例えば、王都にある冒険者ギルドのマスターは凄腕だった。
マユカが調べさせたところ、藪をつついて蛇を出す、という結果になりそうだった。
だから、マスターには手を出さず、サブマスターに手をのばして、篭絡に成功した。
商人ギルドのマスターである大商人も豪腕であり、成功するかどうか怪しかった。
だから、別の有力商人をおとしていった。商人本人がダメなら、跡継ぎを狙った。
篭絡された者が増えるに連れて、要員を増やして組織化していく。
魔法、薬剤、それだけではない、マユカが持つある種のカリスマに、多くの若者が惹きつけられてしまった。
だが、誰もがいきなり、完全に心を支配されるわけではない。
人間とはそんな簡単な生き物ではないのだ。
ある日、コウジがマユカに話しかけたことがあった。
「俺、このままだとダメになるんじゃないかって思ったことが何度もあったんですよ」
「そう、それで」
「でも、セイさんやマユカさんと離れたくないんです……」
「続けて」
「もしかしたら、これはその……って、だけど……」
コウジの眼差しは不安に揺れていた。
対照的にマユカは軽く微笑み、コウジの右手を両手で握ってあげた。
コウジはびくっとするが、マユカの両手から伝わる暖かみは気持ちよく、そのままにしておいた。
「もっと話して」
「セイさんが笑いかけてくれるのを見ると、マユカさんに見られてると、俺はどうしても……」
「どうしても?」
「一緒にいたくなるんです!」
「私も、よ」
マユカはコウジの顔に手を伸ばして、至高の微笑みをくれた。
「俺って必要ですよね!」
「もちろんよ。今日は寝床を共にしましょう、コウジ」
「……!? いいんですか?」
「ええ、一度もなかったでしょう。身も心も一緒になりましょう」
「はい! 俺はうれしいです!」
結局のところ、逃げ出そうとした獲物は何人もいたが、誰も逃げられなかった。
冒険者、商人の次に狙うのは、貴族、軍部であった。
やり口は同じだ。徐々に狙う相手の階級を上げていく。
大隊長、連隊長、将軍、と。
男爵、子爵、伯爵、と。
本人がだめなら、御付の者からおとしていく。
マルッティ=カートラ=ヘイスカネンは二十三歳だ。彼は大貴族であるヘイスカネン侯爵家の跡取りであった。
才気はほどほどにあり、まずは美貌の貴公子といえた。
身分、資産、容貌と一通り揃っており、彼は若さに応じた火遊びを時々していた。
マルッティは悪友である伯爵家の跡継ぎに紹介されて、マユカ=アサバと出会うことになる。
もちろん、その悪友はマユカに篭絡されていた。
マルッティはマユカと一夜を共にした。
いや、一夜では満足できず、何度も何度も。
彼が必要なマユカは彼が自分に依存するまで、いくらでも相手をする。
押し留めるべき御付きの者も篭絡されていた。
マルッティはマユカに全てを捧げることになる。
彼が今までに出会ってきた女は全て土くれにすぎなかった。
マユカと出会うのが遅すぎた、と彼は思った。
時折、彼女の奥底にある何かを彼の理性は拒否していたが、彼女が理性を全て喰らってしまったのだ。
彼の魂はマユカの色に染まった。
マルッティという人脈を手に入れたマユカはいよいよ王手を狙う。
かつて、地球の古代にはローマ帝国という国があった。
ローマ皇帝は何人も殺害されているが、殺害犯となるのは信頼されているはずの親衛隊長であることがままあった。
また、父殺しの皇子、王子など、歴史には腐るほどいる。
マユカは昔にいた歴史話が好きなパトロンから、そういう話を何回も聞かされていた。
つまり、王位継承権を持っていて、もっとも操りやすい者を手中におさめればよかった。
その答えは、タハヴォ=サムリ=フルメリンタ=バロカンナス第二王子である。
タハヴォ第二王子は二十五歳であり、賢明で家臣の心を集めている王太子と違って、凡庸な遊び人だと有名であった。
それでいながら、第二王子であるので、王位継承権は高い。
マユカは第二王子と寝所を共にすべく、マルッティを伝手にして、王子の身辺を静かに篭絡していった。
マルッティは嫉妬したが、事が成就した後の成り行きを聞かされるとマユカに従った。
彼には色欲以外の欲望も十分にあった。
いよいよ、マユカはタハヴォ第二王子と面会することに成功し、彼の心を射止めた。
マユカがここまでに至れた最大の理由は、バロカンナス朝グナイゼル王国が命数を使い果たしていたからだ。
まっとうな国、たとえば、ミロシュが降りたパーヴィリア王国であれば、具眼の士が真相に気づいて、ここに至るまでにマユカを止めただろう。他の国でも同様である。
グナイゼル王国に有能な者が誰もいなかったわけではない。
内乱などで失われていたが、何人かはマユカの動きに気づいていた。
しかし、その者達もマユカを止める前に自己保身で精一杯であった。
王国はもはや、賢臣よりも自己の欲望を満たそうとする者達が大半だったのだ。
つまり、王国の死は必然であり、死神がマユカ=アサバという名前であったのにすぎない。
豪奢な寝所でタハヴォはマユカの妖艶な裸身に見とれていた。
彼女の切れ長な瞳に斜め横から見つめられると、彼は欲情が駆り立てられるのを自覚する。
その様を見やって、彼女は薄っすらと笑った。
数々の美姫を見飽きていた彼ですら、マユカの微笑みに目が吸い寄せられる。
しかし、その微笑みは壊れていた。
タハヴォにはわからなかったが。
自分の心はすでに壊れているのをマユカは知っていた。
父親に襲われてから、壊れたのか。
それとも、両親が死んだ時に、壊れていたのか。
いや、最初から壊れていたのかもしれない。
だから、他人も壊そう。マユカはそう考えた。
みんなも自分と同じにすればいいんだ。
他人の人生が壊れるのは心地よかった。
少し、自分の心が癒されるような気がしていた。
それは彼女の錯覚かもしれない、というのに、彼女は壊し続けた。
だが、現代地球では限界があった。一女子高生にできることなど、しれていた。
しかし、ハイグラシアではもっと多くの存在を壊せそうだ。
そうすれば、自分はもっと癒されるだろう。
エルフやドワーフも虜になったのだ。
天使、あるいは神なども面白いと思う。
薬剤や魔法にこだわる必要はない。
ただ、壊れればよいのだ。
もっとも、好みの男と交わるのも悪くはなかった。
エフセイは最上の部類であった。
マユカは思う。
どこかに自分の魂をもっと満足させてくれる男はいないのだろうか。
抱いてくれる形でもいいし。抱いてあげる形でもいい。
だが最上は、自分がその男の魂を貪ることだろう。
決して、殺すことを意味していない。
その男の魂を自分の魂と同じ形にすればいいのだ。
そうすれば、自分の本当のパートナーとなる。
坂西浩二は人間の中では一番おいしかった。
想像以上だったので彼を何度も満足させたし、私も満足した。
彼は私と生死を共にするだろう。
彼はそうなったのだから。
だが、もっと抵抗してくれる純粋で強靭な魂の持ち主が望ましい。
マユカはそういう男と出会えるよう、全力を尽くすつもりだ。
坂西浩二の例からして、高坂川高校の男達はみんなすばらしいだろう。
全員がパートナー候補だった。
いや、全員が犠牲者候補だった。
「タハヴォ殿下はたくましいですね」
「いや、マユカの美しさの前では、な」
タハヴォはごくり、とつばをのんだ。
「殿下にできる限りの奉仕をさせていただきます。共に快楽の極みへと参りましょう」
マユカの言葉にタハヴォは興奮を隠せなかった。
タハヴォがマユカの身体を浅ましくも貪っていく。
タハヴォを冷淡な眼差しで見ながら、マユカは心中でつぶやいた。
(あなたはどこまで私に抵抗できますか)
(どこまで、私の魂と同じになってくれますか)
マユカ=アサバこと浅葉真由香がグナイゼル王国に対して行っている事は、「静かな侵略」というべきものであった。
地球においても、古代中国では越国が呉王夫差に美女西施を差し出して、国を傾けさせたことがある。いわゆる「傾国の美女」だ。
現代においても、「ハニートラップ」といわれる言葉があるように、色仕掛けで要人を手中におさめる策戦が用いられている。
浅葉真由香には当然、これらの知識があった。
ゆえに彼女が行っていることは精神魔法の利用というオリジナル要素はあるが、亜流に過ぎない。
だが、二千年以上の歴史を持つ策戦である。効果があるから使われ続けるのだ。
彼女自身が傾国の美女であることもあって、亜流だろうが絶大な効果があった。
マユカ=アサバはハイグラシアにおいて、もっとも影響力を持つ異世界人の一人となる。
やがて、ミロシュのみならず、ミロシュが在住しているパーヴィリア王国と関係をもつことになるが、後日の話だ。
ただし、その関係は祝福されるものではなかった。
彼女の心に純粋な善意というものが、ほとんど残ってなかったのだから、そうなるのは必然というものであった。
彼女は後世の人々から、蛇蝎のごとく嫌われる。
彼女の行動を記した書物の一部は禁書にすらなった。
『ハイグラシア新歴全書』も、彼女について記したページをカットして刊行している国がある。
何人かは、何柱かの神々は、かなり酷薄な行動をとっていても弁護する歴史家が、一人は出てきた。
心からのものではなく、新説を披露する事で歴史家として名をあげるためにという不純な動機ではあったが。
しかし、彼女には弁護する歴史家が一人も現れていない。
彼女はあまりにも多くの人々を破滅させたから?
それだけではなかった。
そんな神々や人々は他にも現れることになる。
最大の理由は、彼女の行動をほとんど理解できなかったからだ。
理解できなければ、学説など唱えられない。
そんな彼女を死が優しく抱擁するまで、しばらくの歳月が必要となる。




