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前日の予感に対して、月曜日は特に変わったことは何もなかった。そして火曜日も、水曜日も、木曜日もそれからずっと何もなかった。其の間も久保田との交流は続いており、ちょくちょく会ってもいた。そして敵も現れなかった。
それから一ヶ月程が経ったもうすぐ冬休みを迎える日曜日。その日は久保田と遊びに出かけていた。その帰りがけ、人通りも少なくなった道路を歩いていた。周りにはマンションやら個人経営の店やらが並んでいて、そこから吹き込む風は冬の匂いを僕達にこれでもかとぶつけている。
「ちょっと寒いね。」
僕がそういうと久保田はそうだな、と肯定したが、それ以上会話が発展する事は無く、ただ黙々と家路を行くだけだった。
五分程歩いて、もうすぐ自宅へ着くという時に後ろから声を掛けられた。声から察するに男の、大分歳のいったのらしい。
「何ですか?」
僕が後ろを振り向き、そう疑問の意を口にした。だが男は手に何かを持ち、こちらに差し出したままで何も答えない。数秒が経ち、再び帰路へ着こうとした時、男がただ一言「あげる」と言葉を発した。僕はこういう奴には関わらないようにしているんだと、男を無視しようとしたが、久保田がそれを阻止した。男の手に持っているものが久保田の興味を惹いたらしい。
「何だそれ。」
そのたった二語で構成された短い言葉は良く久保田の心情を表していた。それに対し、
「これらは一種の転移装置で、主に異世界へ行くために使われる。これを持ち、どこそこへ行きたい、と願うと穴が開きそこへ行けるというわけだ。もちろん二人同時にだって行ける。」
男の台詞は長かったけれどもこちらは感情がこもっていないように感じた。ただそれを手にした久保田は興奮しており、今にもそれを使いそうな勢いだった。いや、実際その場でそれを使った。どこに来たのか場所は、分からない。ただドラゴンがいる世界だということは分かる。何故か、それは簡単だ。目の前にいるんだからね。
「何で僕まで連れてくるんだよ。」
僕が不平を言うと、久保田は平然として
「帰りたいんだったら、二個あるよ。」
そう言った。いや、別にそんなに帰りたいわけじゃ無いけれど取り敢えず聞いただけだと弁解をしておいた。
「それより、逃げた方が良さそうじゃない?」
それには大賛成だ。