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敵の目の前でのんびりと話をする奴ってのも珍しいもんだが、僕達はその珍しい奴に今なっている。何故か、それは敵が一向にこちらに向かって来ないからであった。もう怒っている素振りは見せないものの、首を定期的に縦に振りこちらに注意を向けていないのだ。
「で、どうするの?」
僕が聞くと、その男、(先程聞いたが、名前を久保田千次郎というらしい)がニヤついた。
「先手必勝と言うだろう。だからあいつが攻撃する前にこっちから行ってぶっ飛ばす」
成る程それはいいと僕も納得したが、よくよく考えると疑問が出て来た。即ち人間の力でぶん殴ったとしてあの怪物が倒れるのか、ということである。
「あー、その辺は大丈夫だ。実を言うと俺も超能力者なのだ。お前はさっき空気を止めていたが俺は何かを動かす方が得意だ。詰まり速く動けるので。」そう久保田は言ったが、まだ疑問がある。
「与える衝撃が強いと反動もでかいぞ。」
「それも大丈夫だ。私が超能力を使い続けていると、身体能力の超強化までなされたのだ。」
成る程其れなら安心だ。と思っていると、久保田が構えを作った。それは、体を半身にし、足を曲げ、前に出した左足でしっかりと大地を踏み右足は軽く踏み、開いた左手を前へ大きく出し、右手を弓を射る時の様に引き、軽く拳を握る、あの余りにも有名な構えである。その有名さは数ある構えの中で一二を争うものだ。
「だがそれはクロスカウンター!」
人の言うことは注意して聞いた方が良いものであるが、僕がそう言った時、既に久保田は飛び出していた。風のびゅうっとなる音がする。怪物の方へ目を向けると、怪物は全くガードの一つもせずに突っ立っていたので、上に吹っ飛んでいた。
「え?上?」
どういうことだ。
見ると、見事なアッパーのポーズを極めていた。しかしそのまま止まっている訳はなく、上に向かって諸手を挙げた。久保田が小さく体を動かすと、こちらには何の変化もない、が怪物の方は何かしら効果があったようで少しばかり上昇速度が速くなったとみえる。
「何をしたんだい?」
と聞くと久保田は
「あの怪物に衝撃を与えて宇宙まで吹っ飛ばすって作戦だ。まあ、あいつも宇宙進出出来るんだ、嬉しいだろう。」
などと呑気なことを言っている。呑気なことを言っている内にも怪物はずんずん上へ進んで行って、今は目視も危うい状況だ。しかし何故宇宙に飛ばすのか、聞いてみると
「え?あいつ宇宙人じゃないの?」と彼一流のギャグかは知らないが、すっとぼけたことを言っている。
「もし宇宙人だって、宇宙に返す義理はあるめえよ。」
「江戸っ子気取りめ。しかしあいつに攻撃が効かない可能性もあったわけだ。昔から倒せない相手は宇宙に飛ばすのが一番だって決まってる。」
「そもそも宇宙人と決まった訳じゃないよ。もしかしたら、そう、異世界人かもしらん。」
「異世界"人"ってのは無いだろう。あるなら異世界生物、略して異物とかだ。」何故略したかは知らんが、確かにそうだと納得する部分もある。
「しかし当人がいない以上、ここで言い合っても解決は望めない。ここは解散という事で。」
それがいい、と久保田も同意して、解散することにした。その前に連絡先を交換してからだったが。