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「助けて」

その単語を連呼しながら僕は何もできずにいた。ただ突っ立っているだけで、前方には怪物、それも二mほどの背丈のがやけに前傾姿勢で近づいてくる。これは確実に異常事態だ。

そもそもこんな夜に出歩くのが間違いだったと今になって後悔している。飲み物でも買いに行こうと外へ出たのだが、そこであいつとあってしまった。まさに後の祭りという奴だ。しかし、人外というものは、一目見て分かるものであるな。見つけた瞬間、全身に緊張がはしったものだ。


時刻は深夜三時、新聞配達人でさえまだ働いていない住宅街の路地である。怪物は徐々に近づいてくる、一歩一歩ぺた、ぺた、と足音を立ててこちらによろよろと来る。半開きにした口から漏れる息音が微かに聞こえる。逃げなきゃ逃げなきゃと思ってはいるが、何故か知らんが足が動かない。仕方が無いので来るな来るな来るなと、半ば諦めの気持ちで念じている。壁でも作りたい気分である。しかし一向に歩みを止めてくれる気配は無い。むしろ速度が速くなっている気がする。僕と怪物との距離が三mから二m台へと移る頃、願いが通じたのか怪物が歩を止めた。

そのまま時間が進む。安心してしまいそうになる自分に、僕はまだだ、まだいきなり飛びかかってくるパターンが残ってる、と言い聞かせた。緊張の混じる静寂が続く。その静寂を破ったのは、僕でも、怪物でも無かった。それは、別の、誰かの足音であった。

タッタッタと駆けてきて、僕の前に立ち止まった。

「大丈夫かい?」

その男が尋ねてきた。そいつはヒーロー気取りなのか、召し物を全部革で揃えて、マフラーを風にびらびらさせていた。平時ならあまり関わりたくない人種だが、今は緊急時である。私はこいつを囮にする案を自分の最優先にすることにした。

「大丈夫です。ええ、本当に。」

「そうか、では君は逃げたまえ。」

やけに自信がありそうだ。そう思っていると、男が怪物に飛び掛かった。その速度はとても常人には出せそうにないものであった。しかし、いや、だからこそ男は、急停止をした。速さが零になり、拳を突き出したままで固まっている。


痛い痛いと拳をさすっている男は、空に浮くことがさも茶飯の事であるかの様な態である。非常に驚きだ。僕は逃げることを忘れて、その場に留まってしまっているのに気が付いた。

「しまった。逃げるんだった。」

僕はいつの間にか動かせるようになっていた足で逃げようとした。

「ちょっと、待たれい。」

男に呼び止められてしまった。僕はしぶしぶ振り返り、この男に応じた。

「君も超能力が使えるならそういう風な態度を取ればいいのに、紛らわしいな。」

やはり関わらない方が良かったのかも知れない。いきなり電波な事を吐かれてしまった。

「そんなことより先に、あいつをどうにかしてくれないか」

意識してではないが、敬語が取れてしまった僕の言葉を、気に留めるでもなくそうだったそうだったと言ってしまう所が、この男の人に平語を使われる所以ではないかと思ってしまう。

「って、君があの壁を消してくれなきゃ倒すに倒せないじゃないか。」

「壁って?」その疑問は僕には当然のものだが、男にはそうでは無かった様で大分驚いた様だ。暫く固まっていたが、急に頷いてそうかそうかそういうことかと一人で納得しだした。

僕は全くわからないので「どういうとこだ」と聞くと、男はやけに嬉しそうに語り出した。

「つまり君はさっき、超能力の使いて、エスパーになったということだ。」

それだけでは何のことやらまだ分からないので「もっと詳しく」言うように注文した。すると男が、「超能力かあの怪物か」と聞き返してきたので、僕は「当然両方だろう」と言い放つ。

「まず超能力ってのは分かりやすいだろうけど、PKとかESPとかだよ。であの怪物は今君の作っている見えない壁で動きが取れなくなっているってわけだよ。あれが何者かは分からんがこことは違うところから来たって事は分かる。」

「そんな事僕でもわからい。しかし僕が魔法で作った壁はそんなにすごいか。」「魔法じゃない」「本当のことさって?」「そうだな」「そこは突っ込んでくれよ」「突っ込む?おぉエロ。さすが思春期、盛ってるな。」「黙れ」大分話が逸れてしまった。私は咳一つで気を切り替え、本来の話に戻る。

「で、その壁はどうやって消せばいい。」

男も気を切り替えたようで、少し真面目な風に答える。

「簡単だよ。消えろって念じるだけだからね。」

私は男の助言に従ってそう念じてみた。するとそれまで動かなかった怪物が急に動き出した。その動きは腕をしきりに上下させて顔を上に向けて何か叫んでいる、らしい。らしいというのは、僕には、全く何も聞こえないからだが、きっと音域外の声なんだろう。つまり、それを一言で形容すると「怒っている」ということだ。

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