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「Aお姉ちゃん。」

「ススムくん“お姉ちゃん”はやめてちょうだい。

もう“お姉ちゃん”って歳じゃないのよ。」

「小さい頃からそう呼んでるンだもの。じゃあ “Aさん”?」

「なんか硬いわネ。“おばちゃん”でイイわよ。」

「…ナカムラさんが“違う!”って怒る。きっと。」


おしゃべりしながら商品のホコリを静電気ダスターで払っていた

Aお姉ちゃんの手が止まる。


「ナカムラさん、どうしてる?元気?」

「元気だよ。昼間はお父さんとセンターに勤めてる。小遣いが欲しいンだって。」


お姉ちゃんのココロの中は“ナカムラさん”でいっぱい。

ナカムラさんのココロの中は“Aちゃん”でいっぱい。

でも会う度、ナカムラさんはお姉ちゃんを怒らせる。

そして、ナカムラさんは落ち込む。

ワケわかんない。

一度聞いてみたいけど、

そういうの聞くのは“ダメ”って言われたしナ…。


紙パックのジュースをストローでズズーッと吸い上げる。


「じゃあ、ナカムラさんみたいに“Aちゃん”でイイ?」

Aお姉ちゃんはチョット考えて

「イイわよ。」と答える。


ガランガランと木製のドアがあいてララァお姉ちゃんが入って来た。

「こんにちは、Aさん。今日は何か届くモノありますか?」

「いいえ、ナイわよ。いつもの店番お願いね。」「はい。」

「ススムくん、いらっしゃい。」「こんにちは、ララァお姉ちゃん。」


またもやガランガランとカウベルが鳴る。

スーツ男が花束持ってスキップして入って来た!

Aちゃんに花束を差し出すと

「昔みたいでしょ?」ってニッと笑う。

ナカムラさん?

何?その髪型、そのメガネ。お勤めの時はそういう格好?

ボクとララァは眼中に無いカンジ。

「昼間ならいるかなと思って…。じゃあ!」と帰って行く。

あっけに取られる3人。

外を見るとセンターの黒クラウン。

後部座席にお父さん。

運転席に乗り込もうとするナカムラさんに何か怒鳴ってる。

ナカムラさん笑いながら受けてる。

車は、行ってしまった。


いきなり、Aちゃんが笑い出す。

今回の二人は違うパターン。

そういう事もあるんだね。

…しかし、あれでもボクのチカラの先生なんだ。

なんか恥ずかしくなってきた。

_________________________________________________________


次の日もボクは、Aちゃんの店に花束を持って立ち寄る。

イシカワさんに怒鳴られながら。

「仕事中だろ!」

「ちょっとダケです。」

歌声が聞こえる。

“ラヴァーズコンチェルト”だ。

ララァかな?

店にはいる。

Aちゃんはいなかった。

「ナカムラさん、Aさん今日はお休みです。」

「具合でも?」

「いいえ、台湾に仕入れに。明日の夕方帰ります。店には明後日から出ます。」

「じゃあ、コレ、ララァにあげる。」

ララァに花束を渡す。

「“じゃあ”なんですね。」クスッと笑う。

「ごめん。」とボクも笑う。

「歌、イイね。」

「お世辞じゃなく、こんなカワイイ“ラヴァーズコンチェルト”もイイナって思ったもの。」

はにかんで「ありがとう」とララァが言う。

「じゃあ!」と店を出る。

「オマエは!」

イシカワさんが怒ってる。

「大丈夫です。会議にはちゃんと間に合わせます。」

ボクが笑って車を出す。


その一部始終をTが見てたとは知らなかった。


_________________________________________________________



会議が終わって、イシカワさんに頼まれた炭酸飲料を自販機で買って

局長室に戻る所を以前同僚だった男につかまった。

「ヨッ、ナカムラの甥だって?似てるな。」

「よく言われます。」

「“ナカムラ”はどうしてる?」

「姿を消したままで、ボクは知りません。」

「ふざけた奴だったからな、

 そういえば奴とAを取り合ってたTって知ってる?」

Aちゃんを呼び捨てにするな。腹が立つ。

「優秀な人だって聞いてます。」

「そうなんだよ、だけど暴力事件じゃね。

 今ごろオレらの上司なのに、一介の研究員さ。落ちたよな。」

なんだ、コイツは。

以前は友達ヅラしてたクセに!

むこうから、イシカワさんが呼ぶ。

「何やってんだ、炭酸買ってきたか?」

助かった、ワザとそいつの足を踏んづけて

「スミマセン。急いでるんで失礼します。」と

イシカワさんの所へ走っていった。

ザマァミロ!下衆ヤロウ!

コレがAちゃんの陰口だったらぶん殴ってるゾ! 


これと同じ事がTに起こったとしたら…。


______________________________________________________



「ナカムラさん、コレ観て!」

ススムくんが動画配信サービスのサイトを見てボクを呼ぶ。

まさか、Hな動画とか…。

残念、ハズレ。

ん?これは、ボクとススムくん?

バックが海中であったり高い山の上であったりと変わっていく。

その前で踊る2人。

曲は“SHAKE A TAIL FEATHER”シェキナベイベーだ!

「コレ、どうしたの?」とボク。

「この間モニターの前で踊ったでしょ。」

「あれをお母さんがカメラで撮って見せてくれたんだ。」

「それをゴンに見せたら面白いって、編集してくれてこのサイトに乗せたんだ。」

へーっ。

…カウント20,000回超え!スゴイじゃない!

「ゴンがさ、他に動画あったら編集してくれるって。」

「でさ、この動画みて自分もやりたいっていう子がたくさんいるんだ。」

「いいんじゃない。映画みたいにさ、大勢で

 “SHAKE A TAIL FEATHER”踊ったらカッコイイよ。」

「みんなに声かけてみる!」なんか、ススムくんイキイキしてるな。


ボクが心配する事なくこのまま古い人類も新しい人類もなじんでいくかも。

それなら、ボクの仕事は終わりだ。そろそろ帰ろう。


ダダ、帰ろうかな。

「Aちゃんとは、どうするんだ?」

「オレから見りゃお前とTは互いに意識しすぎだ。」

「お前ら二人で盛り上がって彼女達は、ほったらかしじゃないか。」

彼女たち?

「お前、気がつかないのか?Tが好きなのはAちゃんじゃない。ララァだ。」

えっ?

「そして、Tはオマエがララァにちょっかい出してると思ってる。10年前みたいにダ!」

ええっ?

「Tから見りゃ、オマエはAちゃんにもララァにも手を出す二股ヤロウだよ。」

えええっ?…こういうのも“恋は盲目”って言うのかな。

「知らねぇよ!」


なんで教えてくれなかったんだよ。

「…面白かったカラ。」

ダダーッ!

_________________________________________________________



台湾のホテル。


携帯の呼び出し音。Tさん?珍しいわ。

「Aです。」

「聞きたい事がある。」

「ナカムラはララァの事をどう思ってるんだ。」

何かあったのかしら?

「直接彼に聞けばイイじゃない。」

「それは…」

「私からは仲のイイ友達同士にしか見えないけど。」

「Tさん、そんなヤキモチやく位ならララァにプロポーズしたら?」

「彼女はアナタが好きよ。あなたの気持ちも同じでしょ。何故なの?」

黙ってる。

イライラする。

「電話、切るわよ。」

「彼女は若すぎる。歳相応の相手が似合いだ。」

「今の言葉、ララァが聞いたらきっと泣くわ。」

「Tさん、若い女の子に変なウワサが立たないようにって私も一緒に食事させて頂いたけど、

彼女はもう20歳よ。私はもう一緒にいかないわ。」

電話を切った。

_________________________________________________________



閉店間際のAの店


ガランガランとカウベルの音と共にボクは花束を持って現れる。

「Aちゃん、台湾どうだった?寂しかったヨ。」

一回転して花束を渡す。

我ながら変なテンション。

(“今夜こそは”の下心は隠したい。)

側でララァが笑いを堪えてる。

ニコッと笑ってAちゃんが言う。

「いつもお花をありがとう、ナカムラさん。」

「今度来る時はプロポーズ意外すべてお断りヨ!」

ボクは店から追い出された。


Tの事、考えなくていいんだと思った途端コレ。

神様は…神様がいればの話だがボクの事、笑いものにしてるよネ。



ナカムラ花束作戦、失敗に終わる。

“ラヴァーズコンチェルト”はサラ・ヴォーンが有名ですが

ララァはシュープリームスのカンジで。

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