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(6)

Aちゃんの店へ行く途中、ダダから連絡。

「今さらだけど…、お前にクスリ投与するの忘れてた。」

じゃ、ボクが眠ってしまったのは…。

「…そのせいかもしれない。」

ダダのバカーッ。

「ちゃんと、クスリ入れたから今度は大丈夫。…だと思う。」

「マッ、頑張れヤ。」

「ナカムラのおじさん、さっきススムに教えてた事、オレ教えてもらってナイ。」

ムゥか?おじさんじゃない、お兄さんだ。

いいんだ。お前には必要ない事だ。

「ケチ!」


「ナカムラさん、さっきから何ブツブツ言ってるの?」

「向こうに、ダダって相棒がいてね。そいつと話してるんだ。」

「それとムゥとも話してる。キミの事教えてくれた子だよ。」

「ありがとうって、伝えて。

 あの子がいなかったら、ナカムラさん呼べなかったよ。」

だそうだ、ムゥ。

「どうって事ないさ。」とムゥが照れてる。


「こんにちはー!」

ドアのカウベルがガランガランと音をたてる。

ススムくんの後ろから居心地悪そうについていく。

「いらっしゃい。久しぶりねススムくん。」

「ナカムラさんもいらっしゃいませ。」

閉店間際で客もいない。店番のララァがひとり。

「もうすぐ、Aさん帰って来ますヨ。会いにきたんでしょ?」

「マァ、そう。」口ごもる。

彼女は奥に行くとコーヒーと紙パックのジュースを持って戻ってきた。

ボクにコーヒーをすすめ、ススムくんにジュースを差し出す。

「それ、今度インドネシアから入荷したコーヒーです。

 気に入ったら買って下さいネ。」

しっかり者ですね。カワイイだけじゃないんだ。

「じゃあ、ひとつ。」

「ありがとうございます。」

嬉しそうにレトロなレジスターに向かい、挽きコーヒーの入った袋とお釣りを持ってくる。

「でも、びっくりしたな。大人で“ココロで話せる”ヒトは初めてだったから。」

「ええ、私もナカムラさんが初めてです。

 ススムくんやリンちゃんにも会えて日本に来れて本当によかったです。」

「日本は長いの?」

「2年になります。」

「日本語上手だね。2年なんて思えない。」

「インドで日本の方のお手伝いする替わりに

 学校の費用を援助して頂いたんです。だから少し…。」

「日本の大学に留学出来たのもその人のお陰です。

 ココのバイトもその人の紹介なんです。」

「Aさんは彼の長年の友人だって言ってました。

 同じ女性同士だから助けてもらえるだろうって。」

へーっ、Aちゃんの友達にそんなイイ奴いたっけ?

「今日、彼来ますよ。

 月に一度、私の様子見ながらAさんにも世話になってるからって

 食事にいくんです。…そうだ、Aさんに会いにきたんですよね?」

「いいよ、気にしないで。Aちゃんの顔見たら帰るつもりだったから。」

「あっ、彼来ました。Aさんも一緒です。」

店の外に男女2人。いつものキレイなAちゃん。

隣の男性がララァの想い人ね。隠してるけど話しの端々に感じるモノ。

落ち着いていてカッコイイじゃないか。やっぱり男は30からだね。

悔しいけどこうして見ると似合いの二人だよ。

…Tじゃないか!


例のガランガランの音と共に二人が入って来た。

ボクは最初からTを睨んでる。

Tのほうは、何だララァの側にいるこの若造は?って顔でボクを見る。

やがて、気がついて

「ナカムラか?行動が軽薄だと歳を取るのも忘れるのか?」と皮肉を言ってきた。

「お前こそ、この10年何やってたんだ。Aちゃんほっといて!」

「じゃあ、こうすりゃイイのか」

Aちゃんの肩を抱いて引き寄せた。

カッとなって

「Aちゃんに触るな!」とボクが怒鳴る。

「入籍しろだの触るなだの、お前の言ってる事は支離滅裂だ!」

Tが怒鳴り返してくる。


「イイカゲンにしなさい!ララァもススムくんもいるのよ!」

Aちゃんに怒られて我に還る。ほんと、みっともない。


Tの方も、恥ずかしくなったのかAちゃんに、

「ごめん。先に店に行ってる。」と言って出て行った。

ララァが「Tさんをご存知でしたか?」と聞いてくる。

「ごめんね。驚かせて…。ボクのヤキモチだよ。Tはイイ奴だよ。」

Aちゃんに「何もかもゴメン。また来る。」とだけ言って店の外に出る。

後ろからススムくんが追いかけてきた。

「待ってヨ、ナカムラさん。Aお姉ちゃんと仲直りするんじゃないの?」

「…そうだね。でも、また怒らせてしまった。しばらくは行けないな。」


お姉ちゃんは、心の中で「待って!」って言ってるのに。

聞こえないのかな?


「ナカムラさん、僕たちHOSに食事はイイって言って来たから帰ってもゴハンないよ。」

「そんなに厳しいの。」

「家のキマリなんだ。食事はいっしょに。出来ない時は連絡って。」

「…何か食べたいモノある?」

「“一楽”のラーメン食べたい!」

小遣いはやっぱり、必要だな。


店のカギをかけながら、

「ララァ、Tさんの気持ちはアナタにしか向いてないから大丈夫よ。」

「ちょっとダケ悲しかったけど、平気です。」

「そうね、私も悲しかったわ。まだ、あんな事言うなんて。」

ホント、バカな男たち!


店に向かいながら、大人気ない事をしたと後悔した。

ナカムラの奴、昔のまま現れてヒトの気持ちをかき乱す。

ララァの側にいるナカムラ。

オレなんかよりずっとサマになってる2人。

十五の歳の差は大きい。

以前のAちゃんのように束縛したくないと気持ちも伝えないまま距離をおいていた。

歳相応の相手が出来ても受け止めようと覚悟していたのに。

本当に腹の立つ奴!

________________________________________


休み明け。

ススムくんは久々の学校へ。

ボクはイシカワさんと一緒にマンションを出た。

職探しっていうから、取りあえずスーツ。

「お前の便利でいいな。考えるだけでイイんだろ。」

イシカワさんが服の事を聞いてくる。

「マァ、そうです。それより、どこに行くんですか?」

駐車場に行かない。

「徒歩でいけるんですか?」

「お前の元の職場だよ。オレ付けの秘書にしてやる。そのほうが都合がイイだろ?」

「イシカワさん、今の役職は?」

「アジア支部東京局長だよ。偉くなったダロ?」

「スゴイじゃないですか!」

「なったばかりでね。付き合いばかりが多くて…、現場でワイワイの頃がよかったよ。」

「臨時雇いになるけど、それでイイよな。」

「十分です。ススムくんの件が落ち着けば帰りますから。」

イシカワさんが黙ってる。何を考えてるのかな?

「ところで、ボクの事知ってる人もまだいますよね。」

「女の子たちはいないな。男はけっこういるゾ。懐かしいか?」

そうじゃなくて…。

ボクは前髪を全部上げヒタイを出し。ダテメガネをかける。

「何やってんだ?」

「10年経っても変わってないなんて怪しいでしょ?

 ナカムラって呼んでもらってイイですけど、

 10年前のナカムラとは別人ですからね。

 年齢は25でお願いします。

 そうだ、彼の甥っ子って事なら似ていても大丈夫でしょう。」

「よく考えるな、お前スパイになれるぞ。」

あなたが大雑把なんです。


懐かしい総務。

内装は変わったけど以前と同じ場所。Aちゃんと別れた場所。

「私の秘書兼運転手をやってくれるナカムラ君だ。

 急遽、臨時雇いって事でお願いするよ。」

「じゃあナカムラ、手続き終わったら部屋に来いよ。」

「はい。」

セミロングの女の子が書類を持ってきて説明してくれる。

「氏名、住所、年齢その他の記入をお願いします。」

ボクが書いている間、ボクの偽造免許証をコピーしている。

書き上げた書類を彼女に渡す。彼女はボクの免許証を返しながら

「週末までには通行証が出来上がりますからソノ間はコレを使って下さい。

 局長のお部屋は三階の突き当たりです。」

 にこやかに対応しながら白いカードを渡す。

一瞬、10年前のAちゃんを思い出す。

「キミの名前教えてよ」

彼女ガちょっと驚いて「Cです。」と答える。

握手しながらポケットのアメを渡す。

「これからヨロシクね。Cちゃん」

彼女に手を振り、総務をあとにする。

いつものクセが…。

それでも、1週間もするとソレがボクの社交辞令なのだと

総務の女の子たちに認識されていった。


そして、ココにいると思っていたTが別の職場にいるのを知った。

出世頭と言われていたTがココをやめた理由も。


お昼に彼女たちと食堂に居合わせた際、興味本位でTの事を聞いてみた。

「知ってるわよTさんでしょ。カッコ良かったもの。」

「5年前にデリー支局の次長になって、

 帰ってきたらイシカワ局長の右腕になるって言われてたのに

 3年前に暴力事件起こして辞表だしてやめたのよ。

 局の皆が信じられないって言ってたもの」

「その後、イシカワ局長の口利きで大学の研究員になったって聞いてる。」

あのTが暴力事件。確かに信じられない話だ。

…でもボクには関係ない話だ。Tなんか。


それでも、ソノ話が気になり夕食後イシカワさんに聞いてみた。

「東京とデリーじゃ遠くてね。彼も詳しい事は言ってくれないし。

 ただ、彼がそうしたのはよっぽどの“何か”があったと思っただけなんだ。

 暴力事件で辞めた人間を雇ってくれる所もなくて、

 結局私の大学時代の恩師に頼み込んで研究員として置いてもらったんだ。

 今じゃ恩師もよく紹介してくれたって言ってる。彼は頑張ってるよ。」


デリー、インド、Tに学費を出してもらったララァ…。

ララァは何か知ってるのかな?


「一楽」はナルトに出てくるラーメン屋から名前を頂戴しました。

ウーン、何かレディースコミックみたいになって来た。困った。

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