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集中出来なければ滝の水圧は身体を容赦なく叩きのめす。

キミはすべての雑念を払い、只ひたすらその圧に攻しなければならない。

…というのが、やりたいのかい?ススムくん。

「はい!」

アァ、そんなキラキラした目で期待してくれるな。

現実は地味なもんだ。

何を後ろで似たような目をしてるんですか、イシカワさん。

_____________________________________________


休日のイシカワ家のダイニング。

少し遅い朝食の後、ボクとイシカワさんはテーブルでコーヒーを飲んでる。

イシカワさんはタブレットパソコンでニュースを読むフリしながら

タメイキばかりをもらすボクを気にしてる。

リンちゃんの身支度を終えてミセス・イシカワがやって来た。

ボクの様子を見て

「うっとうしいわネ。Aに振られたの?」と聞いてくる。

そんなに、ズケズケと。

「振られてはいません。…怒らせてしまいました。」とボク。

この男は…!って顔で

「10年アナタを待ってたAを怒らせたって、何をしたの?」

そんな事、言えるワケないでしょ。

話題を反らそうと、ポケットの札を出しイシカワさんに返す。

「使いませんでした、お返しします。」

イシカワさんが

「お前にやった金だからイイよ。

 花を買っていかなかったから怒ったんじゃないか?」

イヤ、そういう事じゃなくて…。

ミセス・イシカワもそれはナイって顔してる。

相変わらず大雑把だな。

「小遣いぐらいはナイとな。週明けオレと来い。仕事探してやる。」

「…ありがとうございます。」

何もかもが情けない。


HOSが終わったハズの朝食の仕度を始めた。

「おはよう。」

ススムくんが起きてきた。リンちゃんもいっしょ。

お母さんにハグ。お父さんにハグ。そしてボクにハグ。

「ナカムラさん、やっと会えた!」

「キミの家は毎朝こうなの?アメリカのTVドラマみたいだね。」

ちょっと、からかう。

「皆に久しぶりに会うみたいで…。」

ススムくんがはにかんで言う。

「いつもなら、寝坊した子にゴハンはあげません。HOSありがとう。」と、ミセス・イシカワ。

「坊ちゃまが元気になられて良かったです、奥様。」HOSが答える。

HOSは気配りが出来るんだ。スゴイ。


牛乳を飲みトーストにハムや野菜を挟みパクつきながら、

ススムくんは、事も無げに聞いてきた。

「Aお姉ちゃんの所に泊まったの?」

ボクはコーヒーを吹きそうになった。

「…何で知ってるの?」

「夜中に目が覚めて、ナカムラさんがいないからHOSに聞いたんだ。

 そしたら、お父さんやお母さんの会話の内容だと、

 Aお姉ちゃんの所に行ったらしいって。

 この時間まで帰らないなら泊まってるんじゃないかって。」

「それと、リンがナカムラのお兄ちゃんの頭の中を“情けない”

 “眠っちゃうなんて”“きっと疲れてたんだ”“何も出来なかった”

 “今度は”ばっかりグルグルしてるって言うんだ。」

「なんか、あったの?」

しまった!ガードがら空きだった。リンちゃんに読まれた!

ミセス・イシカワが堪えきれずに笑い出した。

イシカワさんが「どういう意味だ?」と彼女に聞く。

子ども2人はキョトンとしてる。

目を伏せ眉間にシワをよせ顔を赤くして、うつむくボク。

ボクの様子を気にしてHOSが聞いてくる。

「ナカムラさま、具合でも…。」

「大丈夫!」ボクは答える。

HOS,成年男子への気配りもお願いしたい。


ススムくんの食事が終わったので、本題に入った。

「ススムくん、ボクに助けてほしい事って何?」

ススムくんが“弟子にしてほしい”と言う。

“修行をしたい”と言う。

修行?なんで、また?

彼をターゲットにしていじめる上級生がいる。

逃げて相手にしないようにしてたけど一緒にいた子がつかまった。

上級生から彼を助けようとしたけど結局、2人とも殴られた。

悔しいし友だちも守りたい。だから、ナカムラさんに弟子入りして強くなりたい。

とススムくんは言う。

修行ねー。滝に打たれるとか?階段うさぎ飛びとか?(イツの時代だよ)

必要ないんだけどね。

遊んでりゃイイんだよ。皆が笑ってくれる事とか考えながらサ。


バルコニーに場所を移動する。

イシカワさんもオモシロそうだとついてきた

「ススムくん、キミ上級生につかまった時、殴り返せなかったでしょ?」

ススムくんは思い出して答えた。

「だって、殴ったら相手の痛みとか、悔しいとか、

 コノヤローとか伝わってきてイヤなんだ。」

「じゃぁ、キミがチカラを使って相手をこらしめたくても、出来ないんじゃない?」

アッとススムくんが気づく。

「ボクたちはそういう人間なんだ。」

「キミがお父さんぐらいの歳になる頃には悔しい思いしなくてすむんだろうけどね。」


「殴り返せないって…。ススムはこの先、自分の身を守れるのか?」

話を聞いてたイシカワさんが不安そうに聞いてきた。

「敵を作らない事です。それはイシカワさんもあの子たちも同じですよ。」


「ススムくん、相手が殴ってくる時はうまく避けてる?相手の動き読めるでしょ。」

「ウン、避けれる。でも避ければ避けるほど怒ってくるんだ。」

「最初の一発ぐらいは受けてみよう。相手の怒りもおさまるかもしれない。」

「イヤだ。痛いよ。」

「梱包材のエア・クッションで身体を覆ってるカンジで想像してみて。」

思ったより早い反応。ボクがススムくんの腹にパンチ。彼が後ろに後ずさる。

驚いてイシカワさんがやって来る。

「痛くなかったでしょ?」

「ウン、押されたけど痛くない。」

「想像するのは、鉄でもゴムでもいいけどイメージしたモノは

 そのままキミにも影響するから鉄だと重くて動けなくなるんだ。」

「コレができるのはキミやボクのような強いチカラを持つ者だけだから、

 誰かが一緒にいる時は、逃げる事。それが第一だからね。

 友達がつかまったら、キミが殴られ役になるしかないね。」

「かっこ悪い!」

「かっこ悪くてもダ!」


「その上級生は何故、キミを狙うの?」

「…たぶん、ソイツの秘密を知ってるから。」

「秘密だって、思わなかったんだ。

 ソイツ保健室の先生が好きでよくズルして保健室に行くんだ。

 それで保健室の先生が休みの日があって…

 わざわざ、ソイツの所に行って保健室の先生休みだよって、言ったんだ」

「その子をカラカイに行ったんだね。発端はキミじゃないか。」

「ごめんなさい。」


「今後は人の心を簡単に覗かないように。コレはエチケットだ。

 勝手に入ってくるモノもあると思うけどそれも口に出しちゃいけないよ。」

「…はい。」

そうそう、リンちゃんにも教えておこう。


最後に教えておこうか迷ったけど“もしも”の時を考えて。

「イシカワさん、ちょっとイイですか?」

「倒れると危ないんでソコの椅子に座ってください。」

「?」

「ススムくん、首のココと腰のココ中から強く押すと動けなくなるんだ。」

「イシカワさん動いてみて下さい。」

「動けないよ。」「今、どうです?」

イシカワさんが立ち上がった。

「もう一度座ってください。ススムくん出来る?」

ススムくんがチカラを使う。

「イシカワさん、動けます?」「ダメ。」

「ススムくん、放して」

途端にイシカワさんが首や肩を柔軟体操をするように動かす。

「今のお父さんの気持ちわかるでしょ?」

「…イヤだ、恐い。って。」

「もう、だめだって時だけ使うンだよ。使われた方はキミの事を怖がるからね。」

「キミの事を…。」

まだ、子どもだものそんな事、言えないよ。

今日の授業、終わり。


「アイツ、いじめられてたなんて知らなかった。」

「イシカワさん達に心配かけたくなかったんでしょ。

 それにイジメって程でもなかったし。」

「ススムとリンはオレらの考えてる事、ぜんぶわかるのか?」

「覗かないように教えますから大丈夫です。

 飛び出してくるのは殆どが感情的なモノですから表情を読むのと大差ありません。」

「ボクなんて、ミセス・イシカワの考えなんて読めた事ありませんモノ。」

「そうか、しっかりしなくちゃナ。」


中に入るとミセス・イシカワがボクを見てクスクス笑う。

まだ、引っ張ってるの。しつこいなー。

「さっき、Aから電話があってね。」

「昨日、ナカムラさんが来たけど、彼がどこに住んでるかも知らなくって

 連絡場所ぐらい聞いておけばよかったって後悔してるって言ってわよ。」

「客としてウチにいるわよ。って教えてあげたから。」

「アナタ達、どっちもどっちよネ。」


夕方。

Aちゃんそろそろ閉店の時間かな。

ひと目会うだけでも…。

怒ってるかな。会ってくれないかな。

見るだけでも…。

ロビーに降りようとHOSを呼ぶ。

「HOS出かけて来るから。」

「お夕食はいかが致しましょう?」

「外で済ませてくるよ。」

「行ってらっしゃいませ」


「ナカムラさん、何処行くの?Aお姉さんの所?」

「ボクも行ってイイ?」

子どもが一緒だと邪険にはしないよね。イイカモ!

「HOS、ススムくんと一緒にでかけてくるよ。」


今回はベスト・キッドみたいになってる。

この後、どうしよう。

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