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(4)

迷いながらも気がつけばAちゃんの店の前。

せめて、外から姿だけでもと道を挟んだ街路樹の影から店内を伺う。


店内には褐色の肌の女の子。整った顔。深い色の大きな瞳。

クセの強い髪を束ねてる。額に赤い印。

外国人?客ではなさそう。バイトの娘かな?

時刻はそろそろ閉店の時間。Aちゃんは留守だろうか? 


「永遠のお暇を“勝手に”頂戴した騎士さま。何をしていらっしゃるのですか?」

懐かしい声。振り返るとAちゃんがクスクス笑って立っている。

「コレは姫さま、ご機嫌麗しく。お顔を拝見致したく潜んでおりました。」

彼女が笑う。久々の笑顔。嬉しい。涙が出るほど嬉しい。


彼女がボクの腕に手をまわし店へ引っ張っていく。

「小さいけど、私のお店よ。すごいでしょ?」

ボクがうなづく。彼女が笑う。幸せな気分。

店へ入ると、さきほどの女の子がボクらを見て少し驚いたよう。

「ララァ、私の騎士さま。ナカムラさんよ。」

“あなたが…”という顔で

「お話は聞いています。初めましてナカムラさん。」

「ララァって呼んで下さい。」

言葉が流暢だ。

彼女と握手する。

アレ?君は…。彼女も気づいたよう。

「彼女は友達の紹介でココで働いてもらってるの。インドからの留学生よ」

「ララァ遅くなってゴメンね。帰ってもいいわよ。」

「では、お先に失礼します。」ララァは帰っていった。

Aちゃんがボクを振り返って言う。

「お店閉めるからちょっとだけ待ってね。」

「手伝おうか?」

「じゃぁ、店頭の日よけをお願い」


改めて見るとAちゃんすっかり大人の女性だ。

年齢も30過ぎてるから当然だろうけど、前のAちゃんなら気軽にハグできたけど、

今は何だか眩しくて簡単には手を触れられない。

見とれちゃうよ。


店のカギを閉めると彼女が腕を組んできて

「ナカムラさん、アパート近くなの。お茶していって。」とボクを見上げる。

ボクの腕をギュッとにぎってくる。“断らないで”って言ってるみたいに。

表通りから中へ50mほど歩いた所にあるアパート。その三階にAちゃんの部屋。

誘われるままについてきたけど、まだ迷ってる。

ボクは彼女とずっと一緒にいられない。

でもフロルの言葉を思い出す。

“Aはお前と一緒の今がほしいだけ”

そうなの?それで、いいのAちゃん?


それでも気がつけば

ボクは彼女の部屋の小さなダイニングテーブルで

彼女がお茶の仕度をするのを頬杖ついて眺めてる。

彼女が剥いたリンゴと紅茶をテーブルに置く。

「おいしそうなリンゴでしょ。」

ふざけてフォークに刺したリンゴをボクに食べさせようとする。

ボクもふざけて

「姫の御手から、何たる幸せ!」とリンゴに食いつく。

二人で笑う。

…言わなきゃ。ハッキリと。

「Aちゃん、ボクはキミが好きだ。でも、キミとずっと一緒にはいられない。」

「だから、ボクはキミを幸せにできない。でも、キミが好きだ。」

ボクは何を言ってるんだろう。

ココにいちゃいけない。

立ち上がると、彼女が言った。

「それでもイイの。今、一緒に居られれば…」

イイのかな?

ボクが今言った事ちゃんと聞いてる?

コレ酷いよ?

自分勝手だよ?

ボクはキミが不幸になるのに

それでもヌケヌケとキミに受け止めてって言ってるんだよ?

涙が出て立っていられない。

また座り込む。

「何が幸せなんて、本人にしかわからないじゃない。」

彼女が屈みこんでボクにキスしてくれた。

リンゴの味がする。

ボクは彼女の目を覗き込む。

「リンゴ、つまみ食いしたでしょ?」

「ばれた?」

彼女がクスッと笑う。


もう、考えるのよそう。ボクは彼女を抱き上げベッドを探す。

もう、彼女を手放せない。彼女は恥ずかしそうに隣の部屋を指差す。

もう、今はそれだけ。二人でベッドに倒れこむ。

彼女の髪をなで、キスをしながらブラウスをぬがす。

この期におよんで胸を隠そうとする彼女の手をどける、

想像通りの小さくて白い胸。

胸に耳をあてる。

彼女の心臓の音がする。

彼女がココにいる。

もう、それだけで十分だ。


気がつくと朝だった。

隣に、彼女はいない。

あの後を思い出せない。

ボクは服をちゃんと着ている。

なんか変だ。

部屋を出る。

彼女が朝食の仕度をしてる。

「おはよう」と声をかける。

「おはよう」と返してくれるけど変。

顔はにこやかなのに怒ってる?

彼女の考えが流れ込んでくる。

「胸が小さいからその気になれないのかしら?」

「私を女として見てないのかしら?」

「だったら、なんで思わせぶりな事するの!」

なんなの?何があったの?

うろたえるボク。

突然、ダダの声

「おはよう!ナカムラ。お前サイコー、ギャハハハ!」

何があったんだ。お前、ヒトのHなんか覗くな!

「覗くつもりはなかったんだがAちゃんがお前を呼ぶから何事かと思ってみたら」

「ヒヒヒ…。お前寝てるんだもの!Aちゃんの心臓の音聞きながら!」

エッ?じゃ、“十分だ”ってそのまま寝ちゃったワケ?

「彼女、怒ってるだろ?」

怒ってるヨ。

「アーハハハ、じゃまたナ。ヒヒヒ…」


「ゴハン食べたら、帰ってよね。」Aちゃん怒ってる。

「ゴメン、疲れてたんだ。きっと。」

「そう?」

「好きだ、愛してる。」

「ふん!」


彼女には今、何をいっても伝わらない。

ボクは早々に彼女の部屋から追い出された。

Aちゃーん!


「ただいま、HOS」ため息まじりにHOSを呼ぶ。

「お帰りなさいませ、ナカムラ様。何か御身体の具合でも悪いのでしょうか?」

「大丈夫だよ。」


朝帰りのボクをイシカワ夫妻は興味深そうに見てる。

子ども達の前です。やめて下さい。

アナタ達の期待通りの事なんて何もなかったんです。情けない。


「めぞん一刻」を超えた!…なワケないでしょ。あー、面白かった。


ララァ出してみました。今回チョイ出ですが、後からまた出てきます。

当時は「何故、シャアごときにー!」と残念で残念で。

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