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午前3時。ネットの動画配信サイト。
国連議会でゴンザレス氏から少年兵救出についての説明が生中継されていた。
彼は10年前に現れた“龍”の出現は人類のDNAに影響を及ぼし
“ココロを読める人類”が出現している事実を発表した。
会場がざわついた。
そして、今回彼らの救出が可能になったのは、その能力のお陰だと説明した。
そして、ゴンザレス氏は言う。
今後、生まれる子ども達は“ココロを読める人類”であり、全ての人類が入れ替わるだろう。そして、少数ではあったがそういう人間は以前から存在しており、実は私自身もそうである。私たちと子ども達は手を繋ぎつつある。規模はまだ小さいが、やがて世界を覆うだろう。でも、恐れないでほしい。今までの人類を排除しようという事ではなく、互いに手を取り合って新しい世界を作りたいと望んでいる。
私達の願いは全てこの歌に込められている。聞いて欲しい。
ラーラの“エボニー&アイボリー”が流れる。
このネット中継を見ている人がどう思うかは、ボクは知らない。
ボクたちは発言し、コトは動き始めた。その先の幸運を祈るだけだ。
ネットは繋がり、全ての情報は繋がり、やがてボクらの気持ちも繋がる。
全てが繋がり目指す未来が同じなら…なんてあまりにノーテンキかい?
でも、ボクらはそんな世界へ向かいたい。
恐れずにボクらを受け入れてほしい。
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「ララァ、リネ君から電話よ。」
寮母さんから呼ばれた。今時、携帯電話を持たないのは私ぐらい。
寮の電話に掛けてくる人物は当然、限られる。
寮母さんのリネくんの評価は良い。
コチラは気が引けるから助かるけど、どうやって仲良くなったのかしら?
「おはよう、リネくん。どうしたの?街頭ライブは午後からでしょ?」
「今朝のニュース見ました。酷いじゃないですか!」
何の事かしら?
「国連で流れた“エボニー&アイボリー”。
オレをどうして演奏者として呼んでくれなかったンですか?」
「あれは、ゴンザレスさんから急なお願いで歌ったのよ。
リネくんと連絡取るヒマは、なかったモノ…。」
「…で、どうでした?プロですもの、フルオケですもの。
オレなんかより良かったでしょ?」
この子は何をすねているの?…そうきたら、コウ言うしかないわネ。
「リードが上手だし、リネくんとのほうが歌いやすいわ。」
しばらくして
「本当に?お世辞なんか言わないで下さいよ。」
「本当よ。今日もヨロシクね。」
「ですよねー!今日は任せて下さい。
ドラムもギターもベースもトランペットも父に頼んで演奏者を揃えましたからね。
ボクがサックスを吹きます。ピアノはトリスタンの友人を呼んでいます。」
「どうしたの?すごいわネ。」
「フルオケなんかに負けていられません。」
困った子、張り合ってるの?
「大丈夫?ナカムラさんは何て言ってるの?」
「臨時収入が入ったとかでボクの気の済むようにやってヨシって言ってます。」
「今頃、父達が店の前に簡易ステージ作ってるハズです。」
ステージ?
「ララァさんの衣装も用意してますからね。」
イヤな予感がする。
「Tさんも見にくるのよ。…大丈夫よネ。知らないわヨ。」
「…大丈夫と思います。」
「じゃあ!」
電話を切られた。
Aさんにサプライズで1曲、贈りたいって言ってたけど、ちょっと大げさ過ぎない?
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イヤーッ驚いた!
リネのトリスタンの友達ってピアニストのハネダ・ケンじゃないか!
あいつ、ピアノ弾いてるクセに知らないとは…。
タダで弾いてくれるなんて、ラッキー!
ダダがボクのお金をプラチナ・バーにして
“龍”を使って送ってくれた。
ダダが“家を買え”ってメモに書いてたけど…、少しぐらい使ってイイよね?
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空港にて
飛行機の到着時間、間違えて教えちゃった。
ナカムラさんが迎えに来るまで、どうしましょう?
「こんにちは、Aさん。」
呼ばれた方を見ると、ムゥくんがいる。
「どうしたの?こんな所に。」
ムゥが回りを見回して
「どこか、旅行に行くんですか?」
「いいえ。仕事で台湾に行って、今戻ったトコロよ。」
ムゥはホッとして
「オレが“考えたほうがイイ”って言ったからアパートを出てきちゃったのかと…。」
「そんな事ないですよね。第一、出て行くのはナカムラの方だし…。」
当たらずも遠からず…。
「実はね…。
ムゥくんが帰った後、一人になって考えたくて、
彼に一日間、アパートを出てもらったの。」
ムゥくんが驚いて私を見てる。
こんな事、子どもに話すなんて。私どうかしているワ。
「それで、何を考えてたんですか?」
ムゥくんが聞いてきた。
「つまらない事よ。ゴメンナサイ、気にしないで。」
「いいえ、父ちゃん…父がぜひ、聞きたいと言ってます。」
父ちゃん?
「オレの父はダダって言います。本業は医者です。アイツが“幽霊”の間はアイツの身体を管理していて、アイツの見聞きした事をモニターで共有していました。ナカムラをサポートしていました。…もう、サポートする事はないけどアイツの事は気になると言ってます。」
「今、父はオレをサポートしています。
ですからオレの見聞きしてる事を共有しています。」
ナカムラさんがたまに独り言を言っていたのは、そのダダさんだったのね。
「じゃあ、ダダさんへ。
DNA検査したでしょ?あの後、考えたの。
こんなに子どもっぽい人と子どもを育てられるのかな…って。」
「イシカワさんもB先輩もTさんも、そしてムゥくんも
ナカムラさんの事、良く言わないし…。」
「近くに居すぎて、私って見誤っているのかしら?って、考えたの。」
「それで、どうでした?」とムゥくんが聞いてきた。(ダダさんかな?)
「やっぱり、ダメでした。彼がいなくて寂しかった。
たよりなくても彼じゃなきゃダメみたい。
子どもはあきらめようって思いました。」
「次の日にお菓子の在庫が足りなくて、台湾のR氏に発注したら、その商品が無くて代わりにオススメしたい商品があるから見に来ない?って、誘われて…。」
「サンプルを送ってもらえば済む事なのに…。」
「でも、この機会だから気分転換してみようと思って台湾に行きました。」
「R氏は私をひと目見るなり“ご結婚、おめでとうございます”って言ったの。」
「“どうして知っているの?”って聞いたら、コノ指輪を笑って指差したわ。」
ムゥくんに、ナカムラさんから贈られた指輪を見せた。
「“アナタの事、守っていますよ”って。」
「R氏はね、こう言ったの。」
信じてもらえないかもしれないけど、私には石の声が聞こえるンです。
石は人の想いを取り込んで放ち続けるンですよ。
贈られた石は贈った人の想いを放ち続けるんです。
ですから、私は宝石や石を商売として扱えないんです。
そのトパーズは宝石の質としてもイイものですが、
それ以上に贈った人の想いを強く感じます。
アナタは愛されていますよ。
「私、R氏のおかげで覚悟を決めました。」
「成り行きに任せようって。ナカムラさん信じてみようって。無責任かしら?」
私はダダさんにそう言った。
「Aさん、そんなに硬く考えないでイイと思いますよ。」
「しっかりした親じゃないと子どもが育たないなんて、無いです。」
「親がダメだと、子どもがしっかりする、なんて事もざらです。」
ムゥくんが言う。(ダダさんネ。)
「もちろん、二人の問題ですから外屋がどうしろなんて言えないですけど。」
「この間のDNA検査の結果ですが、子どもつくれますよ。問題ありません。」
「伝えたかったのは、それだけです。じゃあ、また。」
そう言うとムゥくんは姿を消した。
こればかりは、“神様の思し召し”よね。
「Aちゃん、もう着いたの?」
ナカムラさんが目の前に立っていた。
抱きつきたいけど人の目があるものね。って、目をふせると…。
「会いたかった!」と言うなり、抱きしめてきた。
いきなりだし、痛いし、本当に子どもみたい。
いよいよ、次回は最終回。…のつもり。