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彼はあの後、3日間生きていた。

身動きせず、呼吸だけ。身体を彼女に預けて…。

ただ、表情は今までに見たこともないほど穏やかで幸せそうだった。


かつて彼の側にいた者たちが数人、彼を訪れた。

彼が生きている事に驚いていた。

彼女は「彼はアナタ方を責めていない。どうぞ、自由になって下さい。」と彼らに言った。

その言葉に彼らは自分を責め、逃げるように皆出ていった。

良心が彼らを攻め立てるのだろう。同情はしない。


彼の死後、ボクと彼女は彼の亡骸を他の罪人達と同じように葬った。

墓標もなく、今となっては何処だったのかも判らない。


ボクと彼女はその地を離れ、同じ“ココロで話せる仲間”を探して彷徨った。

多くの仲間が殺されたけど彼や彼女が生きていたように、

何処かにまだいると信じて。


東の遠い地でその集落を見つけた。

能力を隠していたけど、すぐに判った。

ボクらを暖かく迎えてくれた。


しばらく、そこで暮らした。

彼らはボクがどんなに教えても「ナーガ」としか呼んでくれなかった。

気のイイ人たちばかりだ。

ボクは安心して彼女と別れた。


今思えば彼女はララァに似ていた。


_________________________________________________________



Aちゃんの電話の後、ナカムラは酒を飲み続け、ツイにつぶれた。

以前、コイツに家まで送られた“借り”があるのでアパートまで送りとどけた。

ナカムラの右ポケットから鍵を探してドアを開けた。

玄関にコイツを寝かせ、カバンを置くとドアを閉めようとしてララァに咎められた。

「ナカムラさんはTさんをベッドまで運びましたよ。」

無視しようとすると、“もうっ”って顔でナカムラをベッドに引きずっていこうとする。

しょうがない、と手を貸そうとすると、

「ちょっと、待って下さい。」とララァ。

ナカムラを後ろから抱きかかえたままララァは床に座ったので、

ナカムラの頭はララァの腹のあたりにある。ララァの身体を枕にしたようなカンジ。

ララァはジットしている。

コイツの頭の中を覗いているのか?

しばらくすると彼女がボクに言った。

「ナカムラさんはナーガだったんですね。」

どういう事だ?

ララァは母親が子どもにするようにナカムラの額にかかる髪の毛を撫で付けている。

彼女の門限の時間が迫っていた。

ナカムラへの妬ましさと“ナーガ”について問いたい気持ちとを抑え、

ナカムラをベッドに運び、オレとララァは待たせていたタクシーに乗り、

アパートを後にした。


タクシーの中でララァに聞いた。

「“ナーガ”ってのは、何?」

ララァが言う。

「私の家では、周りと違って特別な神様を拝んだりはしないんです。」

「ですから、変わり者扱いされていたのですが…。」

「ただ「“ナーガ”が西から先祖を連れてきた」という

言い伝えだけは聞かされてたんです。」

「インドには“ナーガ”という蛇の神様がいるので、ソレだと思っていたのですが…。」

「私たちの“ナーガ”は女好きでイタズラ好き。優しいけど怒らせると恐い。

神様というよりは妖精のような存在でした。」

「まさか、それがナカムラさんだったなんて。」


ララァの先祖を連れてきたのがナカムラ?

あいつはいったい幾つなんだ?

…そうだ、10年前と変わらない姿。

年を取らないと?

あいつは人間なのか?


ララァが言う。

「ナカムラさんは地球の人ではありません。」

「でも、恐い人でもないし。恐い考えも持っていません。」

「女好きのイタズラ好き。優しいけど怒ると恐い。変わってないようです。」

「だから、大丈夫です。」


大丈夫って…。


急にララァがニコッと笑うと

「次の休日、耳掃除してあげます。」と言う。

さっきの読まれたのか?顔が赤くなってくる。

窓を向いて

「べつに、いいよ。自分で出来るから。」と言うと

「とにかく、部屋に行きます。」と笑って身を寄せてくる。

運転手の視線が気になる。


_________________________________________________________



ボクを連れて来たのは、Tとララァかな?

アパートに帰ってもひとりだと思うと寂しくて…。

飲み過ぎてしまった。

でも、二日酔いはナイ。

最近入荷した“酒豪伝説”が効いたみたい。

Aちゃんに教えてあげよう。

しかし、随分昔の事を夢に見たな。忘れてたのにね。


頭の中にララァの声。

“起きてます?具合はどうですか?”

送ってくれて、ありがとう。

大丈夫だよ。この間、入荷した“酒豪伝説”効いたよ。

昇り旗、作ってプッシュしようか?

「お酒の前に1袋。二日酔い無し!」なんてサ。

“イイですね。でも、店の雰囲気こわしませんか?”

ウーン。そうかぁ。

“それより、アパートの鍵をドアの新聞受けに入れましたよ。”

了解。

“それから、お仕事の帰りにお店に寄ってもらえませんか?”

もちろん、そのつもりだよ。

“じゃあ、お仕事いってらっしゃい。”


ララァからのモーニングコール。Tよ、羨ましかろう?


_________________________________________________________



イシカワさんがドアを開けて入ってきた。

「おはようございます。イシカワさん」

「おはよう…、って何だこのニオイは!」とイシカワさん。

「“フルール”です。Aちゃんの香水ですよ。」

「掛けすぎダロ!」

昨夜のトリスタンで煙草のニオイが上着についてしまい

コレ1枚しか上着はなく、ニオイ消しにAちゃんの香水を使ったのだが…。

ボクもキツイと思ったんだよな。どうも、加減がわからなくて。

「近くのクリーニング屋に入れてこい!」

イシカワさんが窓を開けて空気を入れ替える。

外出のお許しが出たので例の上着を袋に入れて近所のクリーニング屋へ。

戻るとセンター職員のジャケットをイシカワさんが投げてきた。

「格好つかないなら、ソレ着ておけ。」

ジャケットを着たボクを見るとイシカワさんが言う。

「“昔みたいだな”と言いたい所だがデザインが変わったんだ。」

昔は“ダサジャケ”って呼んでバカにしてたんだよね。

今も変わらないけど。


明日は土曜日。もう一着、スーツ買ってこよう。

明日は…Aちゃんが帰って来る。

なんかサプライズ的な事したいね。

ララァから歌をプレゼントってのはどうかな。

街頭ライブにからませて。

ゴンさんに注意した手前、まずいかな?

曲は何にしよう?

国連議会も明日か…。

明日は何かと忙しいね。


_________________________________________________________



夕方、仕事の帰りにAちゃんの店に寄る。

「ナカムラさん、お帰りなさい。」とララァ。

「ただいま、ララァ。」と笑う。

これが、Aちゃんだったらなー。

「さっき、Aさんから電話があって明日、17時着の便で帰るそうですよ。」

迎えに行かなきゃ。

「ナカムラさん、ナーガだったンですね。」とララァが言う。

ナーガ?…思い出した。今朝あの夢を見なければ頭にも出て来なかった言葉だ。

「どうして、それを?」

「昨夜、ナカムラさんの身体に触れたら“夢”が見えてしまって…。」

「“彼女”を…、私の先祖を守ってくれて、ありがとう。ナカムラさん。」

そうじゃないかと思っていたけど…。やっぱりララァは彼女の子孫だったんだ。

よかった。彼女は伴侶を得て幸せになったんだね。

「ナカムラさん、…別の星の人なんですね。」

それもバレちゃったか。

「恐い?」

「いいえ。」とララァが笑う。

「“彼女”の看取った“彼”は、どういう人なんですか?」


教えてもいいのかな。

でも、“彼女”の子孫なら知る権利はあるワケだし…。



「どうぞ、自由になって下さい。」

三原順さんの「はみだしっ子」から拝借しました。

許してもらったからと言って、本当に心が晴れるかと言えば…。

考えさせる言葉です。


沖縄の「酒豪伝説」をよろしく。

次回はちょっと重いです。

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