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二人を伴って“トリスタン“のドアを開ける。

「いらっしゃいませ。」

「3名様ですか?お預かりする、お荷物はございますか?」

ドア近くで待機していた店員に迎えられる。

「3名で。カバンお願い。」

ボクの旅行カバンとTのいつも持ち歩くノートパソコン用のカバンを預ける。

「失礼ですが?ナカムラ様ですよね。」

「よく、覚えてるね。」

「常連客ばかりですから。先日いらっしゃった時、印象深くて。」

「今日はナカムラ様をお待ちのお客様もいらっしゃいますし。」

カバンをロッカーにしまい鍵を掛け、戻ってきた。

ロッカー番号の札を渡す。

「お帰りの際はお忘れなく。こちらへどうぞ。」

席へ案内しながら、店員が言った。

「そうだ、リネ様もいらっしゃっていますよ。」

そういえば、ピアノの音が。曲名は「ピアノマン」。

「勉強になると、気の向いた時に弾きにいらっしゃいます。」

さすがに女装はしていないようだ。ララァが小さく手を振るが気がつかない。

「アイツはピアノも弾けるのか…。未成年だろ、ダメじゃないか。」とT。

この石頭が突っ込むのはソコか。


カウンターにゴンザレス氏がいた。

ボクらを見て“よく来た”という風に笑う。

その隣に背を向けている男は…Oだ!

「Oさん!警察にいると思っていました。お元気そうで!」

ボクがOの手を握ろうとすると払われた。

「お陰さまで元気だよ。疫病神!」

皮肉を言われた。相変わらずだな。

「検挙されたからって、留置されるとは限らないんだよ。」

ララァに気づいて先日との変わりように驚いている。

そして、忌々しそうにボクを見ると

「さっき、リネ君に会ったよ。君は何でもするんだな!」

「楽しんでたじゃないですかぁ。」と茶化すと首を絞められた。

見咎めて、Tが間に入って止める。

「気持ちは判ります。コイツなんかの為に店で騒ぎを起こす事ないです。」

「バカだから、勝手に自滅しますよ。」

Oが手を離した。(バカって何だよ!)

「あなたは?」OがTに向かって聞く。

「Tと言います。ララァの婚約者です。」

Oの顔がヒクついた。

「Oさんですよね?先日、このバカから聞きました。」

「人のいいララァを使ってアナタを誘惑しようとしたんでしょ?」

「Oさんは被害者だと思ってます。」

「悪いのはこのバカとあのフザケタ衣装を探してきたリネです。」

「ナカムラは顔面を一発。リネにはコブラツイストをかけてやりました。」

“よくやった”とOが握手している。

なに石頭同士で意気投合してるんだ。

「よかったら、防犯カメラの無い所でOさんもやったらイイですよ。」

何気に怖い事、言うなよ。

「賑やかになったので、ボックス席に移りましょう。」

ゴンザレス氏がそう言いながら店員を呼ぶ。


ボックス席の奥にゴンザレス氏、その左隣にT、ララァ。右隣にO、ボク。

店員がシャンパンを持って来る。

「取りあえず、作戦の成功を祝って乾杯しましょう。」とゴンザレス氏。

「ちょっと、待って下さい、Oさんは警察につかまったンですよ。」とボク。

「変な同情なんかするな。オレは清々してるんだ。」とO。

「では、私達の未来に!」ゴンザレス氏が音頭を取った。


「ゴンさん、ララァの“エボニー&アイボリー”

明後日の議会で流すつもりでしょ?」とボク。

ギョッとして、ボクを見るゴンザレス氏。

「バレちゃいました?」と笑って誤魔化す。

「“バレちゃいました?”じゃないですよ。」

「ララァにちゃんと説明してないじゃないですか。」

「ララァの歌を利用したい気持ちは判りますが、ララァにとって危険です。」

「もうちょっと、慎重に扱って下さい。」とボク。

ゴンザレス氏がシャンパンを飲み干すと

ララァとTに向かって

「ララァさん、Tさん。申し訳ありませんでした。

急な思いつきでアナタ方の了承を得ている間がナイというか…、

了承してくれなかったら困るので黙って使いました。許してください。」

ゴンザレス氏か深々と頭を下げる。

Tとララァは驚いているが、何とも胡散臭い。

ゴンザレス氏はボクに向き直ると、

「判ってます。鎮魂曲の歌手の名前もラーラとしているでしょ。」

「しかし、中途半端な偽名ですよね。アナタが考えたんですか?」

その通りだから、返す言葉もない。

どうやら、ゴンザレス氏は彼女を使って世界征服なんて類の事は

考えていないようなので取りあえず安心した。


「皆さん、お揃いで!なにか、ボクにもご馳走してくださいよ。」

リネがやって来た。

追加のスツールを店員が持ってきた。

ゴンザレス氏が合図するとオレンジジュースを持ってきた。

「キミは未成年なんだから。」

不満ながら、のどが渇いたのだろう一息で飲み干し、お代わりを要求した。

「アルバイトを断ったんじゃなかったの?」とララァが聞く。

「この間はね。でも、弾いてみたくなって訪ねたら弾かせてもらえてネ。」

「その時、来てたお客さんがオレよりも上手にピアノを弾くんだ。」

「最近、彼に教えてもらったり、演奏を聞いてもらったりしてる。」

「オレ今年卒業したら漠然と大学進学コースに行こうと考えてたけど、

音楽系の専門コースに行く事に決めたよ。」

「頑張ってネ。」とララァが励ます。

「オレが有名になったらララァを迎えに行くからね。」

Tが立ち上がる。

コラッ、子ども相手になに本気にしてるんだ。

「リネ、大人をからかうな。」ボクがリネに言う。

リネがTを見てニヤッと笑う。

「“エボニー&アイボリー”か…。聞いてみたいな。」Oが言う。

リネが指をパキパキ鳴らしながらララァに

「歌う?」

「歌詞を忘れてしまって…。」とララァ。

「私が持ってますよ。」ゴンザレス氏がポケットから紙を取り出す。

用意がいいな。最初から歌って貰うつもりでいた?

「ララァを連れて来るって聞いたので用意しました。」

「私たちの気持ちを代弁してくれる歌なので

ナカムラさんにも聞いてもらおうと思いましてね。」


1982年発表。当時ブラックミュージックの巨匠と言われたスティービー・ワンダーとポップミュージックの天才と言われたポール・マッカートニーの夢のコラボで生まれた曲。

鍵盤の上で黒鍵エボニー白鍵アイボリーがハーモニーを奏でるように有色人種と白人の調和を歌う曲。


古い人類と新しい人類の調和を願うボクらにふさわしい曲だ。


Ebony and ivory

Live together in perfect harmony

Side by side on my piano keyboard

Oh Lord why don't we?


エボニーとアイボリー

素敵なハーモニーを奏でるよ。

ボクのピアノの鍵盤は隣あってうまくやってる。

ボクらはそんな風にはなれないの?


We all know

That people are the same wherever you go

There is good and bad in everyone

We learn to live when we learn to give each other

What we need to survive

Together alive


僕らは知ってる。

何処でもイイ奴はいるしワルいヤツもいる。

(でも、ソレと僕らの肌の色は関係ない。)

同じ人間なんだよ。

僕らは与え合う事で互いを認め合い互いを知る。

これからのボクらに必要な事は、一緒に生きていく事さ。



“トリスタン”での久しぶりの二人のライブ。

店中の人間が聞きほれてる。皆の心のガードもガラ空きだ。


へぇー、Oさんは田舎の彼女から連絡あったんだ。

「嫁き遅れちゃったから、良かったら貰ってくれない?」

犯罪者になったOにそんな事を言うなんて…。

Oさんは、彼女の幸せを願って身を引いたんだね。

イイんじゃない。二人で幸せになってよ。


そうか、Oは犯罪者になったけど「よくやった。」「同じ日本人として誇らしい」とか言ってくれる人がいるけど、総理大臣のゴトウ氏は「ウッカリ総理」だものね。確かに割りに合わないよね。ゴンさんは今度立ち上げるボクらの会の代表の一人としてゴトウ氏を呼ぶつもりなんだ。賛成だよ。


T。お前、ララァが学校卒業するまで手を出さないつもりか?

今時、そんな奴いないぞ!

何?そんな事になったらずっと一緒に暮らさないとイヤだ?

イイじゃないソレで。

そしたら生活に時間をとられてララァが勉強出来なくなるって?

オレは勉強に集中出来ない事がイヤだ?。

お前の部屋を見りゃ判るよ。

だからララァもきっと、そうだって?

そんなの本人に聞けよ。そんな事、言ってるとリネに取られちまうぞ!


リネ。…お前、本気なんだ。若いってスゴイね。


ララァの力はスゴイや。

今後、彼女のライブを続けてイイものか?

無くなるのは本当に残念だけど。


演奏が終わって二人が戻って来た。

拍手で迎える。


「どうです?ナカムラさん。」ゴンザレス氏が聞いてくる。

「よかったです。イイ選曲です。」とボク。

「じゃあ、明後日の議会で使ってイイですよね。」

しょうがないとボクがうなずく。


「ちょっと、失礼。」

Tが席を立つ。部屋のスミで携帯電話を持って応対していると

ボクを見て手招きする。

「Aちゃんだ。お前に代わってくれって…。」

携帯電話をボクに渡す。

「Aちゃん?台湾からは明日帰るの?」

「ごめんなさい。留守に台湾に行く事になっちゃって…。」

「明日、夕方に帰るつもりだったけど台風で飛行機が飛びそうにないの。」

「だから、帰りは明後日になるわ。」

エーッ!

「それじゃあ、お願いね。」

「Aちゃん、一人で考えたい事って何だったの?」

「それはね…、帰ってから話しましょう。」

電話が切れた。


今夜と明日一日、Aちゃんがいない。

ヤダーッ!



エボニー&アイボリーの訳詞は

都合よく、訳してます。

“鵜呑み”にしないようお願いします。

(書かなくても判るか。)

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