表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/33

(28)

センターの総務部。


「おはようございます。イシカワ局長、ナカムラさん。」

Cちゃんだ。

「ご一緒の出社なんて、ひさしぶりですね。」

「そうなんだよ、妬ける?」とボクが茶化す。

Cちゃんが苦笑い。

イシカワさんに耳を引っ張られる。


風邪をひいたと連絡があったけど。

2日ぶりに出社のナカムラさん、元気そう。

でも以前よりも厚みを感じるのは気のせいかしら?



「イシカワさん、痛いですよ!」

耳を引っ張られたまま局長室へ連れていかれた。

「オマエがバカな事を言うからだ。」

「それと、A君という人がいるんだから、少しは慎め。」とイシカワさん。

「こんな事ぐらいでAちゃんは文句言いません。信頼しあってるンです。」とボク。

「じゃあ、何で追い出された?」

そうなんだよ。それが判らない。

まさかムゥの“考えたほうがイイですよ”を鵜呑みにするワケないし。

…するワケないよね。まさかネ。

とにかく、今夜は会えるんだから…。


なんとなく仕事にならない午前中。

あっという間にお昼になった。

食堂のTVでニュースを見る。

「ゴンザレス氏が事務総長を辞任するとの速報が入りました。」

「今回、少年兵保護の為とはいえ、議会を無視し強行に行なった理由について

明後日の国連議会で説明するとの事です。」


“ゴンさん、聞こえますか?”

“ナカムラさん?エエ、良く聞こえますよ”

“ボクらのために辞める事になって申し訳ありません。”

“そんな事…。私はこの職について初めて満足できる仕事ができたと自負してますよ”

“それに“ボクら”なんて…水臭い。”とゴンが笑う。

“明後日の議会では“ココロで繋がる仲間達“の話をするんですか?”とボク

“ハイ。公表して受け入れてもらえるよう動かなければなりません。”

“隠しきれないでしょうし、その方がイイと考えています。”

“忙しくなりますよ。覚悟していて下さい。”

“それと今夜…”


「ナカムラさん、大丈夫ですか?」

Cちゃんだ。ボクがボーッとしてブツブツ言うから心配したんだ。

局長室でゴンさんと話せば良かった。

「キミのナカムラは元気さ。」とできないウインクをする。

Cちゃんが困ったような顔をして笑う。

その表情いいネ。

「ナカムラさん、そんな思わせぶりな事ばかり言ってると嫌われますよ。」

「 “ナカムラはA君と幸せに暮らしている”と

局長が職員の皆に言ってるの知らないンですか?」

イシカワさん余計な事を…。

「Aちゃんを知っているの?」

「はい、綺麗な人ですよね。優しいし、女子の憧れでした。」

「“なんで、ナカムラごときに!”って怒っている男性の方もいますよ。」

なんだ、“ナカムラごときに!”って!

…でも、そうなのかな?年下だし、給料も以前ほど貰ってないし…。

「…やっぱり、そう見えるのかな?」ボクがCちゃんに聞く。

ちょっと間があって、

「ナカムラさんらしくナイですよ。そんなの二人には関係ないですよ。」

Cちゃんイイ事、言うじゃないか!

思わずハグする。食堂中がザワつく。

慌てて、Cちゃんがボクの腕を振り払う。

「だから、そういう所を直してください!」

「私にだって彼氏いるんですよ。誤解されるじゃナイですか!」

何?周りを見回す。いた!確か分析班の新人のF。

こっち睨んでる。なんか、あの頃のTを思い出すね。

ボクは彼に向かって手を合わし“ゴメン”のポーズ。

“フン!”って感じで向こうに行ってしまった。

Cちゃんがボクを睨んでる。

だから、ゴメンって…。


“そう見えるかな?”って珍しく真面目な表情するから慰めたのに…。

ナカムラさんて本当に油断がならないワ。


仕事の帰りにAちゃんの店に寄る。

旅行カバンがジャマでスキップは出来ないけど、足早に歩く。

店のドアを開ける。ガランガランとカウベルの音。そこにはAちゃんが…いない。

ララァが一人で店番をしていた。Aちゃんは外出かな?

「Aちゃんは?」

「それが…、今朝、在庫が切れそうなので台湾に電話注文を入れたら何だか直接、

会わないと話にならないとかで午後の便で台湾に行ってしまったんです。」

「こんな事なかったのに…。」

Aちゃん、いないのー!

力が抜けてしまった。アパートに帰っても1人だなんて…。

落ち込んでいると、頭にゴンの声が

“ナカムラさん。今、話してもイイですか?”

“ゴンさん。途中で話が切れたままでしたね、すみません。”

“急なんですけど、今からトリスタンに来ませんか?”

“あなたに会わせたい人を呼んでるんですよ。”

“ゴンさん日本にいるんですか?”

“国連職員の特権を使ってネ。今朝、日本に着きました。”

“ララァとTも連れて来てイイですか?”

“彼女の歌の事であなたに聞きたい事もありますし…。”

少し間があって

“いいですよ。”

“では、後程。”とボク。


「ララァ、君の歌ってくれた“SMILE”のおかげで

 “応えてくれない仲間”達を助け出す事ができたよ。ありがとう。」

「少年兵保護のニュース見ただろ?あれは君の歌のおかげさ。」

信じられないって顔でボクを見るララァ。

やがて、嬉しそうにボクをハグすると

「良かった、本当に良かった」と何度も繰り返した。

そうだね、本当に良かった。保護した子ども達の顔を思い浮かべ

ボクもハグしかえす。


「ララァ、Tと一緒に一杯つきあってくれない。」

「どうしてですか?」

「ゴンザレス氏に呼ばれてね。キミの歌の事でちょっとネ。」

「君、ゴンザレス氏に会ったの?」

「エエ、街頭ライブの後、話し掛けられて」

「ススムくんからゴンって友達とダンスの動画を作っているのは知ってましたから」

「でも、大人の人だなんて思いもしませんでした。」とララァ。

「彼はなんて?」

「次の作品の為に二曲、歌ってほしいと。」

二曲?

「モーツァルトの鎮魂曲を即興のスキャットで、

 そして“エボニー&アイボリー”を」

鎮魂曲はあの作戦で使ってた。

“エボニー&アイボリー”は明後日の議会で流すのか?

ゴンは彼女の歌の力を知っている。

どこまで彼女の力を利用するつもりなのか?


Tがやって来たので店を閉め、タクシーで“トリスタン”へ向かう。


タクシーの中でボクは二人に話しかける

「T,ララァ、ボクらの力は感応力が基本なんだけど、

それ以上に強い力を持つ者がいるんだ。」

「ボクらはそういう人間を能力者と呼んでるんだけどね。」

「能力者の力の種類は様々でね、千里眼のように遠くを覗く者、

本来の身体能力以上の力を出す者、他にも動物と話し操る者とかね。」

「能力者の中に“歌姫”と呼ばれる人がいる。めったに現れない。

ボクも歴史上2人しか知らない。もちろん、歌など聞いた事もないけど。」

「“歌姫”の力のすごさは多くの人を煽動する事ができることだ。」

「最初の頃は“まさか”と思ったけど、ララァ、君は“歌姫”かもしれない。」


ララァとTは信じられないという顔をしている。


「少年兵保護のニュースを見ただろ。」

「彼らを陸自の待機している所まで誘導するとき、大人の兵は一人もいなかった。」

「なぜだと思う?」

「子ども達を逃がす前に伝染病で毎日人が死んでると偽情報を流したんだ」

「それ位で兵が動くとは思えなった。でもゴンザレス氏は

キミの鎮魂曲のスキャットを流したんだ」

「すると、大人の兵は我先に逃げていったそうだ。」

「それを聞いた陸自の人が言ってたよ“兵器よりスゴイ”って」


ララァが怯えてるのがわかる。Tは彼女の肩を抱いている。


「T、君の婚約者はその力を利用しようとする者たちに狙われるかもしれない。」

「その覚悟をしていてほしい。」

「ララァ、君の力は本来そんな事に使われる類のモノじゃないんだ。」

「人を幸せにする力だ。でも、そういう事もあるって知っておいてほしかったんだ。」


ゴンザレス氏のお陰で作戦は成功したけど

ボクがイヤなのは何も知らないララァを利用した事だ。

ちゃんと説明してほしかった。


タクシーはトリスタンの前で止まった。


次回は再びトリスタンへ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ