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イシカワさんの家に泊めてもらおうと思ったのに、イシカワさんが追い出されるなんて…。

今夜、どこで寝ればイイんだ。

「お前、そのカバンは何だ?」とイシカワさん。

「ボクも追い出されたんです。」とボク。

何でよりによって同じ日に追い出されるんだろう?

まてよ、もしかして…。

「奥さんにススムくんが作戦に参加してた事バレたんですか?」

イシカワさんがうなずく。

「成功したんだし、どうせ知れるだろうと思って…。」

「ススム、頑張ったんだから、褒めてやりたいじゃないか。」

「そしたら、内緒にしてた事を怒りはじめて…、追い出された。」

「心配させまいと気遣ったのにな。」

内緒にしたならずっと黙ってりゃイイのに…。

自分にも同じような事されたら怒るでしょうが。

ン?Aちゃんもソコを怒ってるの?イヤ、違うな…。


「しょうがない、オヤジの所で世話になろう。」

オヤジって、角屋の?

「いくぞ!ナカムラ。」


角屋の、のれんをくぐる。

平日だけど、夕飯を食べながらの1杯を目的にする独り者のムサイ客が数人。

そういう奴らが店を支えてるンだね。オヤジ良かったナ。

「いらっしゃい。オッ、ナカムラ君、イイ所に来たね。」

ボクに前掛けを渡す。

「何?手伝えって言ってるの?この間のバイト代も貰ってないよ。」

ムッとしてオヤジに言う。

「バイト代?ボランティアじゃなかったの。」

オヤジがとぼける。

イシカワさんがボクに耳打ちする。

「泊めて貰うんだ。言う事、聞いておけ。」

なんで、ボクばっかり。

ボクはジャケットを脱ぎ、前掛けを締め、腕まくりをする。

客が入って来た。

「いらっしゃいませー!」

ン?Tじゃないか。

ボクらを見ると“まずい!”って顔して店を出ようとしたが

「Tじゃないか。」のイシカワさんの言葉に苦笑いしながら戻って来た。

「こっちコイ、お前とはこの間の決着、着いてナイからな。」

またですか?って顔してイシカワの隣に座る。

ボクはお冷とおしぼりをTとイシカワさんの前に置く。

「ご注文、お決まりですか?」

「ビール2本と焼魚定食2つ。勘定はオレに持って来い。とりあえずソレで、いいよな?」

イシカワさんがTに聞く。Tがすまなそうに「はい。」と応える。

「ビール2本、焼魚定食2つ、お願いします。」ボクがオヤジに向かって声をかける。

「ハイヨ。」とオヤジが返事する。

ボクはビール2本とコップを二人の前に置く。

「なんで、お前が働いてるんだ?」Tが聞いてくる。

「知らねぇーよ!オヤジがボクの事を客と思ってないからじゃないか。」

Tがザマァミロと笑う。

「ナカムラ君、オシャベリしてないでゴハンよそって!」オヤジがボクを呼ぶ。


他の客も入って来て、注文取りや配膳で忙しくなってきた。

その間、Tがボクを睨んでいるのを見たが無視。

恐らくデリーでの事件をイシカワさんに知れた事を怒ってるのだろう。

3年も前の話だ。第一、何がまずくて黙ってるのかも判らない。イヤ、Tなら…。

婚約したのに“まだ”というのも信じられない話だ。関係ないか。


イシカワさんがボクを手招きする。

「追加ですか?」

「焼魚定食ひとつと刺身盛り合わせとビール3本。」

「オマエ、腹減ってないか?オヤジ、食べてからでイイだろ?」

イシカワさんがオヤジに声をかける。

「いいよ。早くねナカムラ君。」とオヤジ。

やさしいな、イシカワさん。

「焼肉定食でもイイですか?」とボク。

勝手にしろ!とイシカワさん。

空いた食器とビール瓶を片付け、ビール3本とグラス1個を持ってきて

イシカワさんの隣に座る。

ビールの栓を空け、まずはイシカワさんのグラスに注ぐ、

そしてボクのグラスに注ぎ、最後にTのグラスに注ぐ。ボクも丸くなったもんだ。

「自分のグラスに注ぐのは“最後“が常識じゃないか?」Tが突っ込んできた。

無視、無視。二人のグラスに自分のグラスを当て勝手に乾杯。

「アーッ、うまい!」

幽霊の時は、周りの人間の味覚を読んで大体の味は知ってたけど、

生身の方がやっぱりイイ。太りそう!

「T、ララァの歌のおかげで、ススムくんの気にしてた“応えてくれない子ども達”を

 助ける事ができたよ。ありがとう。」ボクがTに向かってグラスを上げる。

「ススムくんもご苦労様!」イシカワさんに向かってグラスを上げる。

「ハイ、焼肉定食と刺身盛り合わせ、上がったよ。」

オヤジがカウンターの上に料理を置く。

ボクは刺身盛り合わせをイシカワさん達の前に置き、焼肉定食をボクの前に置いた。

「イシカワさん、頂きます。」

うまい!腹へってたせいかも知れないけど、うまい。

考えてみれば、ココでちゃんと食べた事なかった。

酒を飲んでるフリだけして誤魔化してたからな。

作る側からしたらイヤな客だよね。

それでオヤジ、ボクを使うのかな。いやがらせ?

「そんなに、うまいか?どれ。」

イシカワさんが隣からボクの肉をつまんだ。

しょうがないな。奢られてるから文句言えない。


「ナカムラ。コイツ、センターに帰ってくるゾ。」

イシカワさんがTの肩をバンバン叩く。

「すぐ役職につけるワケにはいかないが、3年経ってもコイツの有能さは変わらないし、

 大学でも知識を吸収してきているし、1年もしたら分析班の部長に戻れるさ。」

Tが照れて

「買いかぶらないで下さいよ。」と言う。

妬ましい…。

「何だよ、この間はダンマリだったくせに。」

Tはムッとした顔でボクを見て

「オマエ、オレのココロを覗いてイシカワさんにチクったダロ。」

ボクが返す

「オマエが酒飲んで寝ちまったからダダ漏れだったんだよ。」

「女絡みだからイシカワさんに説明するのが格好悪かったンだろ。感謝しろ。」

Tが席を立つ。イシカワさんがなだめる。

オヤジが空気を読んだのか、

「ナカムラ君、メシ終わった?早く仕事戻ってよ。」

ボクは自分の膳を持って洗い場に戻る。

また、やっちまった。

Tは嫌いじゃないし、認めてるのに、何でコウなるんだろ。


客も切れたのでイシカワさんがオヤジに今夜の宿をお願いする。

奥さんに追い出された時の常宿らしい。

今は使わなくなった2階の座敷を使わせてもらう。

明日は仕事だからとイシカワさんは2階に上がってしまった。

Tも帰った。ボクはオヤジと店の後片付けをしていた。

「今日は定食全部、食べてくれたんだね。」

やっぱ、気にしてたんだ。

「男が残し物しちゃダメだね。」

オヤジが笑う。


2階に上がるとイシカワさんはまだ起きていた。

「まだ、寝てなかったンですか。」

「オヤジがな、布団は1組しかナイっていうんだ。」

「それで、キャンプ用の寝袋をもう一つ持って来てくれたんだが…、ジャンケンするか?」

そりゃ、そうだ。お客用の布団が余分にあるワケない。

「ボクが寝袋使います。年寄りに寝袋なんて心が痛みます。」と笑うと

四の字固めをされた。


「オマエもいつまでも運転手というワケにはいかんな。」

「来年、職員採用試験を受けてみたらどうだ?」

「オマエだったら大丈夫だろ。」

自信はあるけど…。

「10年前のボクが帰って来たと言う事では?」

「実績作ってなかったからナ。チーフ職を頼んでも“面倒くさい”って断っただろ?」

「Tとの差はその辺だな。今でも“Tさんなら”って声はあるが、

 オマエに関しては覚えているのも数人だし覚えていても“あの女好き”としか出てこないしな。」

自業自得なんだが…。

「それにオマエ、どう見ても35歳には見えんよ。」

実質25歳だもの。

「それから、“女がらみ”ってのはハズレてはないが、言い過ぎだぞ。」

「辞表を出して辞めた職場に、あの石頭のTが復職するというのは本人にしてはかなり大変な事だぞ。」

「あまり、いじめるな。」

「ララァとの今後の事を考えての決断だろう。いつかはデリーに行きたいと言ってたし。」

ララァの卒業を待ってデリーへの移動を希望するつもりなのか。

そうだな、ボクもこんなヒモ生活いつまでもやっていられないしな。

「来年、試験受けてみます。」

「そうか、待ってるゾ。じゃあ寝るか。」

イシカワさんが灯りを消した。


寝袋の中でTとララァの事を考える。

作戦が成功した事をララァに伝えてなかったな。

明日、職場帰りにAちゃんの店へ寄ろう。

そういえばゴンはララァに会ったのだろうか?

ラーラの鎮魂曲だなんてどこから…。


Aちゃん、何を考えてるんだろう?そして答えを得たのかな?


居酒屋編、第2弾です。


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