(26)
頭の中にススムくんの声。
“ナカムラさん。今、ドコ?”
Aちゃんと買物して、帰る途中。もう30分程でアパートに着くよ。
“じゃあ、その頃に合わせて遊びに行ってイイ?”
わかった、待ってる。
ボクはAちゃんに
「ススムくんが遊びに来るって。」と伝えた。
「アナタ達って便利ね。…ケーキ買っていきましょう。」
「これ以上荷物もてないよ。」
彼女が笑って「ケーキぐらい私が持ちます」と言った。
部屋の前でススムくんが待っていた。
ボクを見ると駆けて来てボクをマジマジと見る。
「変わらないンだね。」
生身だと思ったんだ。
「まだ“幽霊”のままだよ。服が無くてね。」
両手に買物の袋を持つボクを見て納得したみたい。
部屋に入って寝室に向かう。ススムくんもついて来た。
ベッドに寝るボクとその側に立つボクを見て微妙な顔をする。
買物の袋を置くとボクは姿を消す。
ベッドから起き上がる。
ススム君が珍しそうに見てる。
「寝癖のついたままのナカムラさん初めて見た。」
「いつもキチンとしていたもの。」
お父さんと同じ事を言うね。
“だらしない”と親子に言われているようで買って来たオフ用の服に着替える。
たたみシワが気になるけどイイか。
残りの買物を片付けながら、気になっていた事を聞いた。
「昨日の夜、ムゥは怒ってた?」
「怒ってたヨ。ナカムラさんの事、“あの、ケダモノ!”って言ってた。」
ガードしてなかったから、あの一瞬でボクの考えを読んだンだ。
遂に「バカ」から「ケダモノ」に成り下がったか…。
「お茶が入ったわよ。誰がケダモノですって?」
Aちゃんが聞いてきた。
「ナカムラさんの事をムゥがそう呼んだンだ。」
ちょっと、待ってススムくん。その話しないで!
Aちゃんが、怪しそうにボクを見てススムくんをダイニングに連れていった。
「詳しくその話聞かせて、ススムくん。」
ボクはススムくんのココロに話し掛ける。
“ススムくん、Aちゃんにその話しないで!”
“大丈夫だよ、夜遅くに尋ねて行ったボクらが悪いんだもの。”
“眠くて追い払ったんでしょう?”
そうじゃなくて…。
しばらくしてダイニングを覗く。
ススムくんはケーキを食べている。Aちゃんは微笑んでいる。
微笑みながら怒ってる。
“命の恩人を追い払ったってコトなの?”
“私もそのケダモノって事なの?”
まずい。ススムくんの手前、抑えているけど怒ってる。
アラーム音と共に玄関チャイムが鳴る。
モニターを見たAちゃんが慌ててドアを開ける。
誰?
ムゥだ!
ボクは寝室から出てきて駆け寄りムゥをハグする。
「ありがとう。そしてゴメン!」
ムゥはボクの手を払いのける。そしてAちゃんに向き直ると
「Aさんはイイ人です。悪いのは全部このケダモノです。」
「今からでも遅くないからコイツと一緒になるのを考えたほうがイイですよ。」
と表情変えずに言った。
ンダトオー!そんな事言うなー!
そしてムゥはボクを見るとため息をつき
「父ちゃんがお前を健診してこいって…。」
ボクをベッドに連れて行く。
ベッドに腰掛けさせ、何時からあったのかダダのカバンからライトを出す。
ボクの目の下を親指で下げてマブタの血色を見てライトをつけ瞳孔の反応を見る。次にTシャツを脱がせ聴診器で心臓の音を聞き、背中を叩きながら聴診器の音を聞く。次に寝かされてヒザを曲げて腹をアチコチ触って痛い所はないか聞いてくる。
次にカバンから小さなマットのついた機械を出し、1分両手を置く。血圧、脳波、心電図が計れる。それと血液を少し採取。いつもの健診だ。ムゥにされるのは始めてだけど。
「Aさん、口内の粘膜とだ液を取らせてもらえませんか?」
ムゥがAちゃんに聞く。
「いいけど…どうして?」
「DNA検査です。」
「このチャンスに父ちゃ…父から採取してくるように言われました。」
「ナカムラとの子どもができるのか調べたいそうです。」
またも表情変えずに説明した。
Aちゃんは真っ赤になってる。
そうか、ボクは地球人じゃないしダメって事もある。
「いいわよ。」とAちゃんが口を開ける。
道具と採取した血やだ液をカバンに入れるとカバンが消えた。
“龍の力”だ。
「ムゥ君、お仕事終わったら一緒にケーキ食べない?」とAちゃん。
「いいえ、ボクは“幽霊”ですから。」とニコッと笑う。
コイツ、いつもらしくナイじゃないか。
Aちゃんの前だとイイカッコしいか?
ススムくんがムゥに
「かっこイイね。本物のお医者さんみたいだ。」と感心する。
ススムくんの後ろから首をロックするようにムゥがじゃれて来て
「照れる事、言うなよー。」と笑う。
「ぜーんぶ、父ちゃんの指示通りやってるだけサ。」
「ムゥの読んでたマンガの新刊、あるけど読む?」
「読む!」
「じゃあ、ボクの家に行く?」
「行く!」
二人は立ち上がると玄関ドアへ歩いて行く。
ススムくんがボクらに振り返り、
「じゃあ、Aちゃんケーキごちそうさま。ナカムラさん、またね。」
そして部屋を出ていった。
頭にムゥの声が聞こえる
“お前が最後に行った場所に免じて今回は許してやる。”
“次、オレを怒らせたら、
お前がムコウでどんな商売してたかAさんにばらすからナ!”
エーッ。…でも、ありがとう。ムゥ。ダダ。
“フン!”
小腹がすいた。
「ケーキある?」Aちゃんに聞く。
「あるわよ。」
Aちゃんが皿を出してとりわけようとするのを見て、ボクが止める。
「いいよ、皿いらない。」
手づかみ、2口で食べてしまった。
「子どもみたいね。行儀悪いわよ。」
Aちゃんが笑う。機嫌直ったのかな?
お茶を飲んで、さっきのDNA検査の事を考えてた。
今まで幽霊だったから“子ども”なんて考えもしなかった。
ボクらの間でそれが可能かも判らないけど…。
Aちゃんは、どう考えているんだろう。
子どもはキライじゃない。でも血の繋がった子というのは…。
正直、重い。まだ、Aちゃんとジャレていたい。
でも彼女は30歳だ。
聞いてみようかな?
Aちゃんは荷造りをしていた。
また、どっかに買い付けかな?
でも、どうしてボクの服?
ボクに気づいてAちゃんが言った。
「ナカムラさん、一人になって考えたいから、明日の夕方までどっか行っていて。」
というと、旅行カバンをボクに押し付けた。
何?ソレ。ボクは呆気に取られてる。
彼女の表情は硬い。断れそうにもナイ。
ボクは部屋から追い出された。
しょうがない。頼るところはイシカワ家しかない。彼女もそう読んでるんだろう。
ボクはトボトボ、イシカワ家へ向かう。気分的に「スーパーボール」は発動したくない。
Aちゃん。何を一人で考えるっていうの?
ひさしぶりのマンション。
ロビーに入るとイシカワさんがいた。旅行カバンを持って。
出張?聞いてないけど?
ボクに気づくと、
「ナカムラ、遊びに来たのか?今、まずいゾ。ウチの怒らせてしまってな、
明日の夕方まで追い出された。」と面目なく笑う。
エーッ!イシカワさんが頼りだったのに!
どうしよう。
スミマセン、引っ付いたり離れたり。
コイツらが勝手にやってるんで、私のせいじゃないんですよ。
早く〆なきゃ。