(24)
キャンプではあの少年の手術が行われた。
子ども達は「SMILE」を歌ってる。仲間を励ますように。
彼らは明日、キャンプのヘリでキンシャサの施設に移動する。
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「…ムウ、ありがとう。止めてくれて。」
「別に…。お前に何かあると父ちゃんや母ちゃんが悲しむんだ。」
この間から“お前”呼ばわりだ。しょうがないか。
「…あんなイヤなココロは初めてだ。もう二度と見たくない。」
「ススムは帰したよ。今ごろ寝てるだろう。」
「俺も疲れた。帰る」
そう言うと、ムゥは消えた。
ボクはダダを呼ぶ。
すまなかった。ムゥにあんなモノ見せてしまって…。
“無理もない状態だったからな…。と言ってやりたいが、大人としては最低だったな。”
“反省しろ。…取りあえず、あの少年も命に別状はナイと言ってるし良かったよ。”
“お前も帰って来い。”
Aちゃんに会ってからでイイよな?
“ああ、早く帰って来い。”
ボクはK二曹を探す。
夜明け前だ。隊は昼勤と夜勤に分けられ夜勤の隊は寝ている。
忙しく動き回る隊員も半分に減った。その中でK二曹を見つけた。
「ご苦労さまでした。休まないんですか?」ボクが呼びかける。
「落ち着いたら仮眠を取ります。疲れましたが、気分はすごくイイです。」
「撃たれた少年は残念でしたが、命に別状はナイようですし、隊員も皆無事でしたし。」
Kさんが笑う。そして、思い出したように、
「先程、ゴンザレス氏に作戦成功の報告をした時に知った事なのですが。」
「ゴンザレス氏はあの一帯に伝染病が広がって死者が連日出ているという偽情報を流していたようです。それだけで兵隊は動かないと思ったのですが、ラーラという歌手の歌う鎮魂曲を流したら我先に逃げ出していったようです。」
ララァが?いつ録音したんだ。
「歌の力ってすごいですね。ある意味、兵器ですよ。」
ボクはあいまいに笑い返す。本気で兵器になんて考えてくれるナ。
「仕事も終えたし、ボクは帰ります。」
「どうやって?もう2日待って貰ったら、隊も引き上げますから一緒に帰りましょう。」
「イイエ、ご心配なく。」
間があって、Kさんがボクに敬礼をする。
「お疲れ様でした。」
ボクも見よう見まねの敬礼を返す。
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さて、ススムくんはどうしただろう?彼にもあやまらなきゃ。
意識を集中させススムくんの部屋へ。
ススムくんはまだ起きていた。時間は夜12時。
「ススムくん。」
呼ばれて、ビクッと驚いたようにボクを見る。
「ごめん。あんなモノ見せてしまって…。」
「ボクこそ何も出来なくて…。」
「ナカムラさんを撃った子が…、あの子が側にいるのは知ってたんだ。」
「まさか銃を持っていて、撃ってくるなんて思わなかった。」
「ボクが気づいて彼を止めてたら、あんな事は起こらなかったんだ。」
ススムくんが黙り込む。
「そんな事はない。キミは彼を止めたのに…。ボクは彼を殺そうとした。」
「キミ達に“殴られてやれ“なんて普段は言ってるのに…。大人としては最低だよ。」
ふたりで黙り込む。
「…大人なんてキレイ事しか言わないって、説教されても半分しか聞いてなかった。」
「ナカムラさんが“ボクらは相手を殴れない”って言ってたけど、それもウソだって判ってた。確かに相手の気持ちは感じるけど“気にしなけりゃ”イイんだもの。」
「でも、逆に“ボクらは今いる人間より優秀でやりたい放題やりゃイイんだ。”
なんて言う大人なんて見たくもない。」
「理想な状態を見せてやれなくても “コレが望んだ形じゃない”ってキレイ事でも言ってくれる大人がイイって思えるようになったんだ。」
「それに、ムゥが“ナカムラは大人じゃない、バカだ”って言ってたし。」
ススムくんが笑う。
チクショウ!ムゥのヤツ!
「お父さんに聞いた。帰るんでしょ?」
ボクがうなずく。
「今まで、ありがとう。また会えるよね?」
ボクはススムくんをハグする。
「いつかきっと。」
「お父さん達には会わずに行くよ。よろしく伝えて」
「そのほうがイイ。お父さん、泣くとしつこいンだ。」
ふたりで笑う。
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ボクを撃った少年。彼はどうしただろう?
彼にしてみれば何が何だか判らなくて混乱したのだろう。
恐かったのだろう。
ボクらの間では説明は必要ない。
でも、そうでない子ども達もいたんだ。
気がつくとキャンプに戻っていた。
助けた子ども達がいるテント。
“ナカムラ”と皆がココロで呼びかけてくる。
昨日よりも表情が柔らかい。
「元気?」と呼びかけると「ゲンキ?」とマネして返してくる。
苦笑しながら、彼を探す。スミのほうで呆けて座る彼を見つけた。
ボクを見つけると、驚いて目を見張る。
心の中にあるのはボクに対する“恐怖”だ。
彼のココロに呼びかける。
“すまなかった。キミがあの子を狙ったと誤解していた。許してほしい”
彼のココロはボクの呼びかけを受けつけない。
“化物”とボクから逃れようとする。
無理もない。ボクは彼を殺そうとしたんだから。
怒りに任せて、やってしまった事に情けなくてうつむいていると、
子ども達の声が聞こえてきた。
“ナカムラ、ダイジョウブ。”
“ボクタチガイル。ダイジョウブ。”
“オドロイテイルダケ。ダイジョウブ。”
見ると、落ち着かせようと子ども達が彼に寄り添っている。
そうだね。これからは、キミたちの世界だものね。後は、お願いするよ。
さあ、Aちゃんの所へ帰ろう。
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父ちゃんがモニターの乗ったテーブルを拳で叩いた。肩が震えてる。
どうしたんだ?
「父ちゃん、どうした?」
ナカムラのモニターは真っ暗だ。まさか…。
ナカムラの身体に異変はない。
「ナカムラの意識が消えちまった。」
「あのバカ、道草しているうちにチカラ使っちまって、Aちゃんにも会わないまま…。」
そんなワケない。あのバカがAちゃんに会わないまま消えるワケがナイ。
「父ちゃん。オレ、ナカムラを探してくる。“場所”にまだ居るハズだ!」
「迷子になってるんだ。」
オレは父ちゃんを急かす。
「ダメダ!お前は疲れてる。危険だ!」
「オレは母ちゃんと約束した。もしもの時は自分を一番に考えろって。」
「オレはあのバカとは違う。まだ行ける。信じて父ちゃん。」
しばらく間があって
「絶対に帰って来いよ。約束だゾ」
「もし、帰って来なかったらお前もあのバカと一緒だからな。」
「それだけは、絶対イヤだ。」
オレが笑って言う。
父ちゃんがオレの目を見て言う。
「ヨシ、さっさと終わらせちまおう。」
オレは“場所”でナカムラを想いうかべる。
忌々しいナカムラが現れた。
ほら、あのバカはまだココにいる。
ナカムラがオレを通り過ぎて行く。
気が付くと“龍”がいた。
なんで?
「なんで、お前がいるんだ?アホ龍!」
モトはと言えばコイツが行方をくらませたのがいけないんダ!
「何だとー!」
龍は機嫌が悪かった。
いきなり、容赦なく頭ン中を調べられた。
やめてくれ!気持ち悪い!
“ムゥ、大丈夫か?”
父ちゃんが心配してる。チクショウ。
相手が“宇宙の大王”様なのを忘れていた。
だが、説明の手間が省けたみたい。すべて、察してくれた。
「ナカムラに似てると思ったんだよね。コレ。」
光の玉を持ってる。ゆらゆらと揺れて溶けてしまいそう。
「さっき“場所”を通る時にみつけてネ。
でも、自分が判らなくなって身体に帰れなくなってるみたいだナ。
実際には身体に繋がってるから呼びかけたら戻れるンじゃないの?」
呼びかけるのは…Aちゃんしかいない。
「“龍さん”ナカムラの身体を地球に送って下さい。」
「いいよ。地球の何処へ?」
Aちゃんの部屋へ…。
オレはAちゃんの部屋を知らない!
“ススム!起きろ!ムゥだ!Aちゃんの部屋のイメージを送れ!”
“何だよ、いきなり。Aちゃんの部屋?”
ススムの頭の中にイメージが浮かんだ。
「“龍さん”そこへ!」
「父ちゃん、オレはススムの部屋に行くから」
“ムゥ、無茶するな!”
「誰かが説明しなきゃ!Aちゃんが驚くよ!」
そりゃ、そうだ。
「ススム、今すぐAちゃんの部屋へ行くぞ!」
「何だよ、真夜中に迷惑だろ。」
「緊急なんだ!着替えなくてイイから!」
パジャマのススムを引っ張って、肩を組んでバルコニーから飛び降りる。
「ウワーッ!」ススムが騒ぐ。地面に当たる寸前でさらにジャンプ。
「ナカムラに習っただろ?イメージしたら身体をいろんなモノで巻けるって。」
「コレ何?」
「スーパーボール。」
「なるほど。」
「感心してないでAちゃんのアパートは?」
オレらはピョンピョン飛び跳ねながらAちゃんのアパートへ向かった。
その頃、Aのアパート。
いきなりベッドにいた、ナカムラさん。
しかも裸。無精ヒゲ。
こんなナカムラさん初めて見た。
なんか、ドキドキする。
「ナカムラさん。」
呼びかけても起きない。
キスしたら起きるかしら?
ン?この香りはフルール。
薄目で見るとAちゃん。
キスしてきた。なんかイイなー。
彼女が身体を離そうとすると捕まえて
「これで、お終い?」と笑いかける。
いきなり、ピンポン連打。ドアを叩く音。
イイ所を…!誰だ!
ベッドを起き上がってモニターを見る。
ススムくんとムゥ!あいつら!
ドアを開けて怒鳴った。
「深夜から迷惑だ!早く寝ろ!」
それだけ言うとドアを閉めた。
「…だから、迷惑だって言ったんだ。」
ススムが言う。
信じられない。
オレがどんな想いで、父ちゃんがどんな想いでいたのか…。
オレはドアを思いっきり蹴り飛ばした!
ゴワーンとアパート中に音が響く。
父ちゃんの声がする。
“アイツに関わると本気出すほどバカを見るな”
“ムゥすまなかった、早く帰って来い”
次回、ナカムラは只で済むワケないな。